"歌って踊る"ドラマ演出、いよいよ劇中にも進出 - 物語の流れを分断しかねないシーンがなぜ?

"歌って踊る"ドラマ演出、いよいよ劇中にも進出 - 物語の流れを分断しかねないシーンがなぜ?

画像提供:マイナビニュース

●影響を与えたのは『逃げ恥』"恋ダンス"
『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系、以下『逃げ恥』)の"恋ダンス"がヒットして以降、『スーパーサラリーマン左江内氏』(日本テレビ系)、『カルテット』(TBS系)、『ボク、運命の人です。』(日テレ系)、そして今夏の『セシルのもくろみ』(フジテレビ系)、『警視庁いきもの係』(フジ系)、『悦ちゃん』(NHK)で、出演者が歌って踊るエンディングが採用されている。

ところが、この夏ドラマはそれだけではなかった。『ウチの夫は仕事ができない』(日テレ系)と『あいの結婚相談所』(テレ朝系、きょう28日スタート)では、いよいよ劇中にまで"歌って踊るシーン"が採り入れられているのだ。

なぜ、物語の流れを分断しかねない「歌って踊る」ミュージカルのようなシーンが組み込まれているのか――。

○"ながら見"を引きつける歌と踊りの力

今年は、映画『ラ・ラ・ランド』がアカデミー賞最多6部門を受賞し、『美女と野獣』の実写版が大ヒットするなど、ミュージカルに注目が集まっているのは間違いない。しかし、何度も歌って踊る"ミュージカル・ドラマ"が作られるほどのブームではなく、「あるシーンのみ歌って踊る」という限定的な演出に留まっている。

やはり影響が大きいのは『逃げ恥』の"恋ダンス"だろう。ドラマ関係者が、歌と踊りの持つ力を再認識したのは間違いなく、「エンディングからもう一歩進んで、シーンの1つとして採り入れられないか」と考えているのだ。

恋ダンスは、ドラマ本編を"ながら見"していた人の目も引きつける力があった。近年、ドラマはスマホやパソコンなどに視聴者の集中力を削がれてきたが、リズムと動きのある、歌って踊るシーンは「つい見入ってしまう」という人が多い。

もともとミュージカルは、舞台から最後列の観客にも届くような声量と大きな動きが必須。それをテレビで採用すると過剰演出に見えてしまうため、これまでは敬遠されがちだったが、ながら見の多い現代では意外にフィットするのかもしれない。

○ネット拡散が期待できる短尺動画に

また、歌って踊るシーンは、「ネット拡散に適した短尺動画にしやすい」というメリットもある。恋ダンスも、短尺動画がアップされてからアッという間に拡散され、新たな視聴者の開拓に貢献した。短時間歌って踊るだけで、視聴者の目を引き、「面白い」と思わせられるのは、俳優たちのルックスと表現力によるものだろう。

短尺という意味で、CMではさらにミュージカル風の演出が増えている。高畑充希が「それは人生、私の人生」と歌って踊る「かんぽ生命」、武井咲が老若男女のダンサーたちと歌って踊る「イオン・ザ・バーゲン」、橋本環奈・くりぃむしちゅー・lolがポップに歌って踊る「住宅情報館」、八木莉可子が150人の学生と修学旅行をしながら歌って踊る「ポカリスエット」など、インパクトのあるものが多い。

CMで歌って踊る演出の意図は、短時間で視聴者に「強く、鋭く、深く」印象づけること。その手法がドラマにも導入されているという見方もできるだろう。

●過剰演出をサラッとこなせるキャストが進出
○ミュージカルスターの台頭も背景に

もう1点、忘れてはいけないのは、ミュージカルスターのドラマ進出だ。その筆頭は、きょう28日スタートの『あいの結婚相談所』で連ドラ初主演を務める山崎育三郎だが、彼とともにミュージカル界のプリンスユニット・StarSとして活動した、井上芳雄と浦井健治の存在も大きい。

彼らは端整なルックスを生かした王道のプリンスから、キザでナルシスト、底抜けにポジティブな男、情熱があふれ出る熱血漢まで、感情や動きの大きい個性的なキャラクターの演技に長けている。また、「個性的なキャラを演じても物語を邪魔しない」というナチュラルさもあり、だからこそ歌って踊るような過剰演出をサラッとこなしてしまうのだ。

○朝ドラでもあった、歌って踊る演出

過去に歌って踊る演出が見られた作品にも、歌や踊りの実力者がそろっていた。2012年の『カエルの王女さま』(フジ系)には、天海祐希、福原美穂、大島優子、久野綾希子、濱田マリ、石井竜也。2015年の『表参道高校合唱部』(TBS系)には、劇団四季出身の石丸幹二と堀内敬子、ミュージカル経験の豊富な城田優、神田沙也加、川平慈英。2016年の『ちかえもん』(NHK)では青木崇高、小池徹平、早見あかり、山崎銀之丞、北村有起哉。『ニーチェ先生』(読売テレビ・日本テレビ系)では浦井健治、間宮祥太朗、松井玲奈らが出演。それぞれ歌って踊るシーンだけでなく、声や全身の表現力を生かして、作品のベースやアクセントとなっていた。

その他、歌って踊る演出が見られたドラマで特筆すべきは、2003年の『てるてる家族』(NHK)。老若男女が見る朝ドラにも関わらず、石原さとみ、浅野ゆう子、上原多香子、森口博子らが突然、昭和歌謡を歌って踊るシーンが斬新だった。現在の流れが続いたら、もしかすると再び朝ドラで同じような演出が見られるかもしれない。

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20〜25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。
(木村隆志)

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