夏ドラマ、男優主演が増えた理由は? 「定番と奇策」両極に迷い - 傾向をドラマ解説者・木村隆志が徹底分析

夏ドラマ、男優主演が増えた理由は? 「定番と奇策」両極に迷い - 傾向をドラマ解説者・木村隆志が徹底分析

画像提供:マイナビニュース

7月28日に『あいの結婚相談所』(テレビ朝日系)が放送され、ようやく夏ドラマがそろった。1話の視聴率では、7年ぶりの続編となる『コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命』(フジテレビ系)が16.3%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と断トツ。長期低迷で打ち切り説すら流れていた月9復権への第一歩を踏み出した。

その他では、木曜20時枠に引っ越した『遺留捜査』(テレビ朝日系)が13.1%、人気上昇中のTBS火曜22時枠『カンナさーん!』(TBS系)が12.0%、米倉涼子から後輩の武井咲に引き継いだ『黒革の手帖』(テレビ朝日系)が11.7%、問題作を放ち続ける遊川和彦脚本の『過保護のカホコ』(日本テレビ系)が11.6%、新たな切り口のホームドラマ『ウチの夫は仕事ができない』(日本テレビ系)が11.2%を記録。例年、「在宅率が落ちて視聴率が獲りにくい」と言われる夏ドラマとしては上々のスタートを切った。

しかし、録画やネット視聴の多い現状ではこの数字はあてにならず、そもそもドラマの面白さと視聴率は別問題。夏ドラマで本当に面白くて、今後期待できるのはどの作品なのか? 今期もドラマ解説者の木村隆志が、俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、夏ドラマの傾向とおすすめ作品を挙げていく。

夏ドラマの主な傾向は、[1]定番と奇策の両極に各局の迷い [2]主演ドラマが急増!クールな男たちの夏 [3]社会風刺と業の深さ の3つ。

○傾向[1] 定番と奇策の両極に各局の迷い

視聴習慣が安定しにくい夏は、連ドラにとって厳しい季節。各局のドラマ班は、例年「どんなテーマで勝負するのか」と試行錯誤しているが、今年は迷いの色が見られる。

ひさびさの第3弾となった『コード・ブルー』、名作リメイクの『黒革の手帖』、4年ぶり4作目の『遺留捜査』、3年連続の夏期放送となる『刑事7人』(テレビ朝日系)、満を持しての第2弾『警視庁ゼロ係 生活安全課なんでも相談室』(テレビ東京系)は、いわば定番であり、視聴率が計算できる手堅い勝負。「ホームランを捨てて、ヒットか、あわよくばツーベース、スリーベースを狙おう」という作戦だろう。

一方、高校生が主役の逃亡群像劇『僕たちがやりました』(フジテレビ系)、巨体の女芸人・渡辺直美をド真ん中に据えた『カンナさーん!』、“過保護”にクローズアップしたホームドラマ『過保護のカホコ』、1980年代漫画をまさかのドラマ化した『ハロー張りネズミ』(TBS系)、ミュージカル要素を前面に押し出した『あいの結婚相談所』(テレビ朝日系)、「熱い男」の日曜劇場枠に韓流を採り入れた『ごめん、愛してる』(TBS系)、刑事モノに動物をかけ合わせた『警視庁いきもの係』(フジテレビ系)、イケメン殺人者を主人公に据えたサスペンス『愛してたって、秘密はある。』(日本テレビ系)と、他の季節では見られないような奇策が目白押し。「どの道、厳しい戦いとなるのなら、思い切ったテーマで勝負しよう」という意気込みが伝わってくる。

最終的に爪あとを残すのは、どの作品なのか。かつては、『ビーチボーイズ』(フジテレビ系)、『WATER BOYS』(フジテレビ系)、『海猿』(フジテレビ系)などの「いかにも夏」という定番作品が多かったが、近年は「ビジネス下剋上」の『半沢直樹』(TBS系)や、「不倫ファンタジー」の『昼顔 平日午後3時の恋人たち』(フジテレビ系)などの奇策が成功しているだけに、後者への期待値は高い。

○傾向[2] 主演ドラマが急増!クールな男たちの夏

ここ数年、女性をメインターゲットに据えて、女優主演の作品が増えていた。その割合は、女優70〜80%に対して男優20〜30%にまで偏っていたが、今夏は一変。75%にあたる20作中15本が男優主演となる、逆転現象が起きているのだ。

最大の理由は、前述した奇策の作品が集中したことだろう。『僕たちがやりました』『ハロー張りネズミ』『ごめん、愛してる』『愛してたって、秘密はある。』を見る限り、「テーマや原作ありきで企画を進めたところ、主演が男優に偏った」という推論が成立する。

主人公のキャラクターは、「いかにも夏」という熱い男ではなく、クールな男が多い。『コード・ブルー』の藍沢(山下智久)、『僕たちがやりました』のトビオ(窪田正孝)、『刑事7人』の天樹(東山紀之)、『ハロー張りネズミ』の七瀬(瑛太)、『警視庁ゼロ係』の小早川(小泉孝太郎)、『警視庁いきもの係』の須藤(渡部篤郎)、『愛してたって、秘密はある。』の黎(福士蒼汰)など、幅広い年齢の涼しげなイケメンがそろった。

その他にも、『わにとかげぎす』の富岡(有田哲平)、『遺留捜査』の糸村(上川隆也)、『脳にスマホが埋められた!』(日本テレビ系)の折茂(伊藤淳史)、『ウチの夫は仕事ができない』の司(錦戸亮)など、地味で体温低めのキャラクター設定が目立つ。それだけに、『あいの結婚相談所』で見せる藍野(山崎育三郎)のぶっ飛んだキャラクターは大きな話題になるのではないか。

○傾向[3] 社会風刺と業の深さ

「クールで体温低めの男性主人公が多い」のは、やはりそれなりの理由がある。そのような男性が抱える問題を浮き彫りにしつつ、終盤に向けての振り幅を見せようとしているのだ。

『僕たちがやりました』は若さゆえの未熟さと少年犯罪、『愛してたって、秘密はある。』はDVと犯罪の隠蔽、『わにとかげぎす』は友人のいない中年の孤独、『ウチの夫は仕事ができない』は仕事ができず会社で居場所のない男性が増えていること。これらの問題を連ドラらしく少しずつ改善していく様子を描いていくのだろう。

さらに、『カンナさーん!』は夫の不倫とシングルマザーの厳しい生活、『過保護のカホコ』は「母親と娘」という新たなマザコン像に関する問題が提示されている。

いずれも問題を正面から描くことで、登場人物の業をあぶり出すようなシーンが続出。“そこそこの生活”を好んでいたトビオが追い込まれて性欲に目覚めたり、過去に父親を殺した黎が自首か隠蔽かで揺れたり、温室育ちのカホコが絶叫したりなど、序盤から緊迫した姿が描かれている。

業の深さと言えば、韓流リメイクの『ごめん、愛してる』も忘れてはいけない。主人公と自分を捨てた母、溺愛されて育った弟、その弟を愛する運命の女性など、前世からの因縁を感じさせるようなドロドロの人間関係は、賛否こそあれ、暑い夏にフィットするのだろうか。

これらの傾向を踏まえつつ、今クールのおすすめは、『僕たちがやりました』と『あいの結婚相談所』の2本。どちらも挑戦的なテーマ選びと、振り切った演出が見られる。「夏はこれくらい思い切った作品が多かった」という連ドラ黄金期の歴史もあるだけに、守りに入らず攻める姿勢を支持したい。

その他のおすすめは、武井咲と大物俳優たちのジリジリするような演技合戦が見物の『黒革の手帖』、小劇場の作家たちが毎週しのぎを削る『下北沢ダイハード』(テレビ東京系)、各話のバラつきこそあるが大根仁のこだわりを詰め込んだ『ハロー張りネズミ』。

また、前作までの軸を大切にしつつ新たな試みを加えた『コード・ブルー』、深夜ドラマらしいミスマッチとセクシーを散りばめた『わにとかげぎす』、命をめぐる職種を集めてキャッチーなサスペンスに仕上げた『愛してたって、秘密はある。』も、バランスのいい仕上がり。

「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局のオンデマンドなどで、ぜひチェックしてほしい。

おすすめ5作

No.1 僕たちがやりました(フジテレビ系 火曜21時)
No.2 あいの結婚相談所(テレビ朝日系 金曜23時15分)
No.3 黒革の手帖(テレビ朝日系 木曜21時)
No.4 下北沢ダイハード(テレビ東京系 金曜24時12分)
No.5 ハロー張りネズミ(TBS系 金曜22時)

全作品の解説は近日中にアップ予定。

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20〜25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。
(木村隆志)

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