小芝風花、母の教えで培った対話力 - 被爆者の記憶「原爆の絵」を一人でも多くの人へ

小芝風花、母の教えで培った対話力 - 被爆者の記憶「原爆の絵」を一人でも多くの人へ

画像提供:マイナビニュース

●「あの日聞いた話をすると泣いてしまう」
2度目の主演映画を終え、小芝風花(20)は昨年末の取材でこんな言葉を残していた。

「演じる立場として私ができることは、撮影中に『目一杯その役を演じ切る』。撮影を終えてもスタッフの方々の作業はまだまだ続きます。(中略)一般の方々にはそういう情報が届かなかったりするので、少しでも知っていただきたくてブログに書きました」(2017年1月3日掲載記事より)

女優としての次なるステップは、ヒロシマ8.6ドラマ『ふたりのキャンバス』(NHK総合テレビ 中国地方向け=8月1日19:30〜/全国放送=8月5日15:05〜)。彼女にとって初主演ドラマとなる同作は、広島市立基町高校で10年前から行われている「原爆の絵」の取り組みが描かれる。小芝演じる高校生・柳井里保は、被爆体験者・遠藤雄造(近藤正臣)と対話を重ねながら、1年かけて1枚の油絵を仕上げていく。ドラマのコピー「わからないけど、わかりたい 伝わらないかも、でも伝えたい」は、被爆者のみならず、友人との衝突においても鍵となる。

一歩でも答えに近づこうとする追求心は、役者にとってどのような意味を持つのか。5回目となる今回の取材でも、持ち前の"対話力"が発揮された。

○「普通の女の子」が立ち向かう重いテーマ

――大変重いテーマを扱ったドラマですが、その奥には「対話の大切さ」という普遍的なメッセージが込められていました。

原爆がテーマの作品と聞いて、台本を読むまではどんな作品なのか想像もつかなかったのですが、熊野(律時)監督から「『女子高生がどういう風に感じるのか』が大きなテーマだから、重く捉えないで欲しい」と言われて。でも、原爆は間違いなく重いテーマです。「どういうことだろう?」 と思ってしまいました。

でも、台本を開くと印象が変わりました。原爆の恐ろしさを被爆者の方が語ってくださっていて、高校生たちは被爆者の方々からの強烈な話を聞いて絵にしていく。その中での里保は本当に等身大の女の子。「将来、自分は何してるんだろう」と漠然とした不安があったり、ちょっと大人びた憧れを人並みに抱いていたりする、そんな普通の女の子でした。

――「人生が薄い」という理由で「原爆の絵」を取り組むところなんかは、若さを象徴した絶妙なセリフでした。

そうですね(笑)。周りに置いていかれている気がして、「わたし何してるんだろう……」みたいな不安。かと言って、何かに必死でがんばっているわけでもなく、ただ毎日を淡々と過ごしていて。周りを見て、「みんなすごいな」と思っている女の子です。

結構、共感できるところが多かったです。このお仕事はお客さんの前に出るお仕事だから、「がんばってるね」と褒めてくださることが多いんですけど、私以上に周りのスタッフさんがすごいので……。

○女優としての不安が女子高生にリンク

――取材のたびにスタッフへの感謝の気持ちをおっしゃっていますよね。

本当にそうなんですよ! 今回のドラマでも、私がお話をいただくずっと前から取材されていますし、私が寝てる間も編集作業があったり、機材を運び込んだり。私より朝が早くて、セッティング中は私は休憩時間になりますが、技術さんは撮って移動、撮って移動の繰り返しで本当に休みがない。音声マイクが映り込んだだけで怒られているのを見て、あれだけ重いものなのに本当に大変だなと……。一度、ガンマイク、を持たせてもらったことがあるんです。めっちゃ重いんですよ! それをプルプルしながら構えて。カメラに映り込まないように、でも遠すぎると音が録れないから絶妙な位置でキープしないといけません。

――なるほど。同業者と自分を比べて不安になることもあるんですか?

同年代で活躍している方を見ると、「私はこのままで大丈夫なのかな」と。例えばドラマだったら、3カ月お仕事ありますけど、出られなかったら3カ月空いてしまいます。周りの同年代がお仕事している間に、私は何をしているんだろうと不安になるんです。もちろん一つひとつの作品に全力で取り組もうと努力しているんですけど、「ひょっとして求められてないんじゃないか」とすごくネガティブになったりまします。そういう感情は、里保とすごく近いものを感じました。

学生の時、人見知りだったのもあって、友人関係は必死でした。「この子がいなくなったら一人になっちゃう」と急に心配になったり、悪気はないのに傷つけてしまったり。そんな微妙な心の動きがすごくリアルで共感できるのであまり作り込みすぎず、「等身大」を心掛けました。

――役作りではなく、共感から生まれた演技だったわけですね。

実際に被爆体験者の方にお話をうかがったので、その時の気持ちや感情を絶対に忘れないようにしよう、その気持ちを聞いた時の状態をちゃんと覚えておこうと。変に作り込まず、その状態で現場まで持っていくよう努めました。

――会見で「慎重に演じたい」とおっしゃっていたのは、そういうことだったんですか?

そうですね。あとは、10年という長い年月で取り組んでいる高校生と被爆体験者の方々の気持ちを取りこぼさないように。「こんなんじゃない」と言われないように。そして、ちゃんとみなさんの気持ちを表現できるように。だから1シーン1シーンで「丁寧に丁寧に」を心掛けました。

――「丁寧に」と自分に言い聞かせながら演じることはこれまでありましたか。

作品の山場というか気持ちが強く出るところ、例えば泣いたり怒ったりという感情は繊細な部分なので「丁寧に」と思うことはあります。

今回でいえば特に遠藤さんとのシーンです。ドラマのコピー「わからないけど、わかりたい 伝わらないけど、伝えたい」にあるように、理解したいから熱心に話を聞く、でも分からない。分からないけど口では「わかりました」と言ってしまう。かといって、何を質問していいのかも分からないから、「とりあえず大丈夫です」。高校生のこういう感情は大切にしたいと思いました。

高校生と被爆体験者の方がお話をされている映像を事前にいただいていたのですが、その高校生も頭の上に「?」が浮かんでいて。間や聞き方、2人のやり取りを見てすごく研究しました。最初、里保は「間違ったこと言えない」という遠慮があるんですが、それを乗り越えると「少しでも分かりたい」「記憶に近づけたい」となってどんどん距離が近くなっていきます。そんな過程も丁寧に出せたらと思いました。

○「原爆の絵」を伝える意味

――現役の高校生とも話をされたんですか?

はい。基町高校の撮影中、たくさんの学生さんがエキストラとして参加してくださいました。実際に通っていらっしゃる生徒さんなんです。全部で300人ぐらい。みなさん協力的で明るくて元気で。そんな私より年下の高校生たちが重い話を聞いて、1年間も向き合う。そして、その完成した絵がすごい迫力なんです。本当に高校生が描いたの? という絵ばかり。高校生と被爆体験者の方の魂が込められた作品で、原爆の恐ろしさを次世代へと伝えていく。本当に衝撃を受けました。

――「原爆の絵」担当の学生は、みなさん立候補で?

そうです。熊野監督がいろいろな子たちを取材された時、奏美(中村ゆりか)みたいに「自分のことを簡単に理解されたくない。分かって欲しいけど、踏み込まれたくない」みたいな生徒もいたそうです。本当に軽い動機ではじめて途中挫けそうになったけど、財産になったから次の年もやる生徒もいたり。みんな普通の高校生なんですよね。それなのに、あんなにすごい絵を描くんです。

被爆体験者の方にお話をうかがって、私も本当に何も言えませんでした。対談させてもらっている時にカメラが回っていたんですけど、何か質問しなきゃ、何か言わなきゃと頭では分かっていても、話の内容が衝撃的すぎて言葉にならなくて。あの日聞いた話を今すると、泣いてしまいます。本当に衝撃的なんです。でも、どう質問していいのかも分からないですし、どう思うか聞かれても何も言えない。だからこそ、その時の気持ちを大事にしたいと思いましたし、被爆体験者の方が「あなたがあなたのできることで伝えてください」とおっしゃってくださったので、私はこの作品を通して伝えられるようにがんばりたいと思いました。

――私はその小芝さんの思いを伝えようと思って来ました。

ありがとうございます。広めてください!

――私の小学生当時、原爆をテーマにした写真展が校内で行われたりしたことはありましたが、直接話を聞いたり理解を深める機会はありませんでした。小芝さんはいかがですか?

私もほとんどありません。修学旅行が広島だったんですが、私は仕事で行けなかったんです。そこで感じたことをみんな発表していました。今回の撮影で初めて広島に行きました。学校の授業や教科書、テレビでの特集などで見ないかぎり、「原爆」について考えることはほとんどなかったと思います。

――本作は人としても女優業としても、とても貴重な機会になりましたね。

すごく貴重です。会見で近藤さんがおっしゃっていましたが、被爆体験した方は歳をとられいつかいなくなります。直接お話を聞くこと自体がすごく貴重ですので、本当に財産になりました。

●覚えたての「クソババア!」をきつく叱ってくれた母

――熊野監督とは朝ドラ『あさが来た』以来の再会だったそうですね。演技としても気合いが入ったんじゃないですか?

めちゃくちゃ入ります(笑)。期待以上のものをちゃんとお返ししなきゃと。監督はすごく粘ってくださるんです。光の入り具合や位置で納得できないところがあると「もう1回」。だから、監督がOKをくださったら、安心できるんです。自分の中では大丈夫かなと心配になることもあるんですけど、監督が受け入れてくださったから「大丈夫!」と思えるようになりました。

――期待には十分応えられたと(笑)。

(インタビューを見守っていた熊野監督の方を向いて)どうですか(笑)?

熊野監督:十分応えていただけたと思います(笑)。今回は事前に被爆者の方に会ってもらったり、そういうことも含めて実際に起こったことを吸収して演じてもらうことを大事にして、それを真摯に向き合ってやってくださいました。実はクランクインする前から確信があったんです。こちらの大事にしたいこともすごく理解してくれて、それを感じながら撮れたので放送がとても楽しみです。

――ということだそうです(笑)。

うれしい……よかったー!

一度お仕事をさせていただいた方から「もう1度」と声をかけてくださるのがうれしくて。だからすごく怖くて……よかったぁ……とにかくよかったー! それがやる気のスイッチにもなる反面、ガッカリされたらどうしようとかそういう不安がありました。

――高校生や被爆体験者の方が落胆する心配と、熊野監督含めて再会したスタッフさんが落胆する心配。相当な重圧ですね。

はい(笑)。10日間の撮影でしたが、現場はとても楽しかったです。広島のスタッフさんが多かったので、方言指導の先生もいらっしゃったんですけど、スタッフさんに「この表現で合ってますか?」と確認させてもらってました。それから1日だけ撮影がお休みの日があって、ご飯をご一緒させていただき、そこでいろいろなお話を聞かせていただきました。

――どのようなお話をされたんですか?

照明部さんは、基本的に台本を見て色を決めるそうなんですが、現場のお芝居を見ても判断するみたいです。そんなことも初めて知ることができました。みなさん、ちゃんとお芝居を見てくださっているんです。この流れだったらこっちの方がいいんじゃないかとか、考えてくださっていると聞いて感動しました。

10代の時はなかなかご飯に行ける機会もなかったので、二十歳になってお食事に連れて行ってもらえて、いろいろな方のお話をうかがえて、なんてステキなんだろうと。みなさん、少しでもよくなるように悩みながらやってくださっていたんですね。

スタッフさんって、なんてかっこいいんだろうと。カメラを構えたり、照明を当てたり、音を録ったり、現場にはいろいろな役割の方がいて。みなさんのおかげで作品が出来上がってます。だから私も悩んでる場合じゃない! と。

――対話力。そこでも聞き出すことができたんですね。

すごくいろいろな意味で勉強させてもらえましたし、新しい経験をたくさんさせてもらえました。

現場でお話しすることは世間話程度で、そこまで深いお話はできません。みなさん、お酒が入るとちょっと崩れてくるので(笑)、その人が思っていたことを自然に知ることができて、その時間も私にとってはとても貴重でした。

○「クソババア!」を厳しく叱った母の思い

――「役者は演じて終わり」ではないと毎回おっしゃっていますね。そういう視点はどこで養われたんでしょうか。

母が小さい頃からいろいろなことを教えてくれたというのもありますが……ドラマに初めて出演させていただいたのが15歳。こんな15歳相手に、大勢の大人の方々が動いてくださっていたのが衝撃で。大人の方が15歳に「のど乾いてない?」とか「椅子座っていいよ」とか。逆に申し訳なくなりました。

画面に映るのは役者やタレントの表だけ。裏で支えてくれている人がいて作品が完成しているというのは、見ている人には伝わりづらいと思うんです。だからなるべく発信できる立場にいさせてもらっている自分が、できる限り伝えたいなと。そういう感謝の気持ちは忘れないようにしたいです。

――お母さんの教えとは?

「ダメなことはダメ」と教え込まれました。友だちの親子会話を聞くと、時々怖くなるときがあるんです(笑)。なんでそんな口を利けるの?って。私は変なことを言うとすごく怒られてきました。小さい頃、幼稚園か小学校低学年の時にすごく腹が立って、覚えたてだった「クソババア!」って言ったんです。「どんな口たたいてんねん!」ってめっちゃ怒られて……。それから怖くなってそんな口利けなくなりました(笑)。

それから母は、どんなことでも話せる存在です。1回愚痴を受け入れて、共感してくれる。でも、「こんな気持ちだったんじゃない?」と相手の気持ちに立ってみることを勧めてくれます。1回愚痴を言って、一緒に発散した上でのことなので、そういう母の意見はこちらも素直に受け入れられます。

――お説教ではなく、会話になっているわけですね。

そうなんです。ちゃんと話を聞いてくれます。

目上の方を敬いなさいとか厳しく言われましたし、自分がやられて嫌なことは人にするなと言われて育ちました。今でも「言葉遣い」を怒られます。文字になると伝わり方が変わってしまうことあるじゃないですか? 捉え方によっては、違った印象で載ってしまう時。会話の中の一言が見出しになってビックリしたり(笑)。

――すみません。そうならないように、日々気をつけています(笑)。

いえ! 私が気をつけなきゃいけないことなんですけど。私は母に言い訳をしちゃうんですよね。こういう流れがあって言ったことだと。そこでも母は、違う立場の人の視点から意見してくれます。そうやって日々、怒られて勉強しています。

――相手の立場を常に考えるという点でいえば、今回のドラマはぴったりの役ですね。人との対話がテーマでした。

そう言ってもらえてうれしいです。

お芝居をやらせてもらえたからこそ、いろいろな人に支えられていることを知ることができます。『ふたりのキャンバス』でお食事をご一緒させていただいた時もそこでいろいろな立場の方のお話を聞いて、これだけたくさんの方が悩んで支えてくださっているということを知ることができました。主演をやらせてもらったからこそ、より感じたというか。主演だから偉いとかではなくて。

近藤さんだったり、中村ゆりかちゃんだったり、いろいろな人がいて、いろいろな人が私のことをよく見えるようにとか、支えてくれているんだということをすごく実感させてもらえました。この気持ちは忘れないようにしたいですし、主演じゃなくてもその気持ちを忘れず、自分がやってもらったように私もできるようになりたい。役としてもちゃんと支えられるような人になりたいです。

■プロフィール
小芝風花(こしば・ふうか)
1997年4月16日生まれ。大阪府出身。2011年「ガールズオーディション2011」でグランプリを獲得。2012年にドラマ『息もできない夏』(フジテレビ系)で女優デビューを果たした。初主演映画『魔女の宅急便』(2014年)での演技が評価され、第57回ブルーリボン賞・新人賞を受賞。NHK連続テレビ小説『あさが来た』、『早子先生、結婚するって本当ですか?』(16年・フジテレビ系)、『下剋上受験』(17年・TBS系)、『マッサージ探偵ジョー』(17年・テレビ東京系)、8月4日スタート『伝七捕物帳2』(NHK BS時代劇)にレギュラー出演。9月23日から舞台『オーランドー』に出演する。
(水崎泰臣)

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