女優・玄理、『相棒』ストイックな役作りの原点 - 『フリーター、家を買う。』以来の連ドラ『ウツボカズラの夢』悪女役との対話

女優・玄理、『相棒』ストイックな役作りの原点 - 『フリーター、家を買う。』以来の連ドラ『ウツボカズラの夢』悪女役との対話

画像提供:マイナビニュース

●ムロツヨシにビンタ! 10テイクすべて全力
『相棒 Season14』の第8話「最終回の奇跡」で、車椅子の人気漫画家を演じた女優・玄理(30)。彼女はこのゲスト出演のために1カ月もの間、車椅子生活を送ったらしい。そんなストイックな役作りで知られる女優が、今期2本のドラマに出演した。1つは大根仁監督の『ハロー張りネズミ』(TBS系/毎週金曜22:00〜)、もう1つは金に目がない悪女役の『ウツボカズラの夢』(東海テレビ・フジテレビ系/毎週土曜23:40〜)。玄理はこの両作品に対して、どのように向き合ったのか。それぞれの撮影エピソードから、役作りの原点に迫る。

――『ハロー張りネズミ』の第6話に出演されましたが、聞いておきたいのが大根仁監督の"粘り"の演出。繰り返し同じシーンを撮るそうですね。

大根監督の作品が大好きで、全部観てるんですよ。去年の雑誌インタビューでも「大根監督と仕事がしたい!」と話していたら、今回叶いました。「時には自分でカメラを回すらしい」という噂は聞いていたんですけれど。何も知らない状態で現場に入って、なかなかないテイク数で驚きました。

通常のドラマはそれほど放送日まで日数がない場合が多いので。3人ぐらいの監督が何話ずつか撮って、他の監督が撮っている間に編集しているのですが。『ハロー張りネズミ』の場合は、大根監督がお一人で全部を担当して編集もしているので少し早いタイミングから撮っていて。そんな中テイク数が進んでいくと、5テイクを超えてくると私の汗が止まんない(笑)。「私の役作り間違ってた?」とか「台本の読み込み足りなかったのかな?」とか考えてしまって、すごく焦りました。

それでも大根監督は絶対に諦めない。命からがらOKもらいました(笑)。脚本も書いてらっしゃるので、脚本にはないシーンやカット割が大根監督の頭の中にあるんですよね。大根監督の頭の中には映像が出来上がっていて、やっぱりすごいなと思ったのと同時に一番驚いたことでもありました。

――ムロツヨシさんとのシーンでもテイクを重ねたんですか?

今回の役は、ほとんどムロさんとのシーンでした。ビンタをするシーンがあるんですけど、もともと台本にはなくて。ト書きでは「別れ話をしている2人」だったんですが、現場に行ったらセリフが決まっていました。ドライ(リハーサル)をやった時、ムロさんを見た大根監督が「ムカつく顔してるね(笑)」と言ってて、私が軽い気持ちで「殴りますね、これ」みたいに反応したら、「よし! 殴ろう!」となって(笑)。

ムロさんとは久しぶりの共演で、これは一発で決めなきゃと。ちゃんと殴らないとOK出ないことは分かっていたので、フルスイングでビンタしたんですよ。でも、やっぱり10テイクぐらいかかってしまいまして、10回はフルスイングではたきました。

――全力とはいえ一発目と十発目では現場の空気も変わってくるんじゃないですか?

ムロさんは以前共演してから仲良くしてくださっていて、わりと普段から親交があったので「すみません」という感じだけではなく演じられたんですけど、ムロさんがすごいのは「いいよいいよ」「大丈夫だよ」とすんなり受け入れてくださる。さすがに10テイク目ぐらいの時は嫌われたんじゃないかなと思いましたけど、ムロさん自体は変わらなかったです。

変な緊張感が漂っていましたが、ケンカで気持ちをぶつけ合うシーンだったので良かったと思います。やっている時は必死なんですが、終わった時は申し訳なさが残りました(笑)。全テイクフルスイングなので、私としてはどれを使っていただいてもOKでした(笑)。

――今回、大根監督と出会えたように、普段から「叶えたいこと」は言っておくべきなんですね。

そのインタビューでは大根監督と濱口竜介監督と仕事したいと話して両方叶いました。だから……西川美和監督と李相日監督とご一緒したいです。

――『ウツボカズラの夢』面白いドラマですね。

ありがとうございます。それこそ、ムロさんとご一緒した『フリーター、家を買う。』以来の連ドラ(レギュラー出演)で、ゲスト出演や映画が多かったので新鮮でした。何よりもレギュラー出演になると、長い時間スタッフさん、キャストさんと一緒にいられるので楽しい。ドラマ自体はどろどろの内容なんですが、現場は笑いが絶えない明るい雰囲気です。私と志田(未来)さんのどろどろしたやりとりを見て、みんな「怖い!」とか言いながら笑ってくれています。

――主人公・未芙由の母が闘病中にその夫・幸司と不倫関係になり妊娠し、母の葬式に妊娠中の体で列席。その後、幸司と結婚し出産するという役どころ……強烈な役ですね。

周りの方からも「怖い」「ひどい」と言われるんですが、第4話のはるかはやばいですよ(笑)。未芙由が居候している鹿島田家に乗り込み居座ろうとします。普通の人が考えないような行動を取るんです(笑)。

――自分とは大きくかけ離れた役の場合はどのような役作りをされるんですか?

いつも最初に決めるのは、役がその話を通して「一番何を欲しているのか」。役だけじゃなくて、普段接している人でも癖でそんなことを考えてしまいます。人生で一番手に入れたいもの。人生を懸けて達成したいもの。「幸せになりたい」は人類共通の願いなので、もっと具体的なもの。そこを決めて、「自分だったらどうするか」を考えます。

――なるほど。わかりやすいです。

殺人鬼やシリアルキラーみたいな役になると自分と重なっているところはほぼありませんが、自分がその役をやると決めたらどんなひどい役でもどこかしら共通することはあるだろうと、考えます。少しでも重なる部分を見つけるために、殺人犯の手記を読んだこともありました。もちろんそんな本ばかり読んでいるわけではなく(笑)、人が何を考えているのかにすごく興味があるので、いろいろな職業の人たちと接したいと日頃から思っています。

――『相棒 Season14』(15年)では、車椅子の人気漫画家役でした。実際に車椅子で生活したそうですね。

気持ちの部分は本人の努力や監督の演出、周りの方々のお陰でどうにかなると思うんですけど、長年体に染み付いた仕草やその人物に備わった技術はそれだけでは再現できません。母国語と外国語の違いのように、見ている人の立場ではそれが違和感として残ってしまいます。なるべくそこを埋めたくてやっています。

●恩師の一言に救われる「気持ちで伝わるものがある」
――そのようなアプローチは、いつぐらいに確立されたんですか?

大学の時に韓国の演技学校に留学し、その時だと思います。そこでは芝居がうまくなる方法は一切教えてもらえてなかったのですが、人前で失敗できる場所だったというか。何も分からずに現場に入って失敗してしまうと次につながらなくなります。トライアンドエラーができるその時間は、宝だったと思います。

――どのような授業だったんですか?

ひたすらモノローグを繰り返しました。韓国語の発音も矯正しなきゃいけなかったので、誰かと芝居する以前の準備段階。モノローグ集の中から自分がやるものを見つけて、週3回ぐらい人前で発表していました。これがまた、人前で裸になるより恥ずかしい(笑)。針のむしろ状態でした。めちゃくちゃ、しんどかったです。

――それだけつらい思いをされたのに、なぜ乗り切れたんですか?

やっている時はつらいとか、苦労したとかは思っていなくて、とにかく必死でした。すごく良い先生がいて、「発音はダメだけど、ちゃんと心で伝わるものがあるからお前は頑張れば絶対に大丈夫だ」と言ってくれて。めちゃくちゃ厳しい方で、2カ月続かない子もたくさんいたんですが、そんな先生が褒めてくれたのがすっごくうれしくて、がんばることができました。子どもみたいですね(笑)。

――その後の関係は?

特にないですね。その先生に観てもらえる作品に出たいなとか、賞をいただいた時にはきちんとお礼を言いたいなと思います。「気持ちで伝わるものがある」という言葉は本当にうれしかったです。

――もっと遡ると、いつ頃演技に興味を持たれたんですか?

昔観た『家なき子』がすごく印象に残っていて、小さい頃観ていたドラマの影響はあると思います。高校生の時に韓国で雑誌のモデルをやらせてもらっていて、その時に演技学校を勧められたんです。モデルさんは雑誌でも180センチ以上の人ばかり。私は168センチで表情メインのカットが多くて。勉強になると思って演技学校に行ってみて、セリフを渡されてやってみたら、泣くシーンですんなり泣くことができたんです。全く演技やったことがなかったのにできたので調子に乗って、楽しいと感じたんですかね(笑)。

――モデルのきっかけは?

デザイナーさんに声を掛けていただいて、広告のモデルを務めたのがきっかけです。韓国の『ELLE』『marie claire』とか、ハイファッションの雑誌にちょっとずつ出してもらって。

――その後、本格的に演技をスタートして、女優になってよかったと思えたのはどのような時だったんでしょうか。

いちばんの転機は、『水の声を聞く』(14年)で主演をさせてもらったことです。

――第29回高崎映画祭最優秀新進女優賞を受賞し、第65回ベルリン国際映画祭にも出品。玄理さんを語る上で外せない作品ですね。

そうですね。良い意味で、それを超える作品に出会わなきゃなと思っています。賞をいただいた上にベルリン国際映画祭まで行くことができて、一気にいろんな夢が叶いました。三大映画祭にずっと行きたかったんです。山本政志監督に出会えたものも、すごく大きなことでした。

――いろいろなことが達成されて、その後のモチベーションに変化はありましたか?

良い意味でこだわりがなくなったというか。それまでは「映画をやりたい」という強い気持ちがあったのですが、世の中にはすばらしい監督がたくさんいらっしゃいますし、私も勉強しないといけないことがたくさんあるという思いから、いつの間にかもっと新しいことに挑戦したいと思えるようになりました。

――さきほどのお話だと、「幸せになりたい」は人類の共通。そこから一歩先、今の玄理さんが人生を懸けて手に入れたいものは?

仕事の面で言うと、「楽しみたい」「楽しませたい」という純粋な気持ちになってきたと感じます。この仕事をはじめた時、「あれをやりたい、これをやりたい」みたいに自分の何かを解消するためだったと思うんです。だけど、最近は「楽しみたい」「楽しませたい」に。きっと、この仕事を楽しめるようになってきたからだとも思います。役以外でも、現場での過ごし方だったり、スタッフさんやキャストさんとの交流もお仕事。『ウツボカズラの夢』ではるかという役に出会って、これは徹底的に振り切って「ひどい!」「怖い!」と思ってもらえた方が作品のためではあって、それも楽しませていることになるので。ちょっとでも「自分がいい人に思われたい」という気持ちは、この作品に関しては全く必要ないです。でも、現場では助監督やプロデューサーの方とか近くで見て下さっている方が「はるか好きだよ」と言ってくれるから、それで救われています(笑)。

■プロフィール
玄理(ヒョンリ)
1986年12月18日生まれ。東京都出身。韓国人の両親のもとに生まれ、中学校時代にイギリスに短期留学。青山学院大学在学中に、韓国延世大学に留学し、映像演技を専攻。日本語、英語、韓国語のトライリンガル。2014年公開の主演映画『水の声を聞く』で、第29回高崎映画祭最優秀新進女優賞を受賞した。これまで『駆込み女と駆け出し男』(15)、『天国まではまだ遠い』(16)、『後妻業の妻』(16)、『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16)、『こどもつかい』(17)などの映画に出演。ドラマは『フリーター、家を買う。』(フジテレビ系・10)、『八重の桜』(NHK・13)、『相棒 Season14』(テレビ朝日系・15)、『精霊の守り人 シーズン2』(NHK・17)、『きみはペット』(フジテレビ系・17)など。
(水崎泰臣)

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