『オールナイトニッポン』はなぜ50年も続くのか - ニッポン放送制作部長が明かす深夜ラジオの"演出術"

『オールナイトニッポン』はなぜ50年も続くのか - ニッポン放送制作部長が明かす深夜ラジオの"演出術"

画像提供:マイナビニュース

●パーソナリティの新陳代謝にこだわる
深夜ラジオの金字塔『オールナイトニッポン』が、今年10月で番組開始から50周年を迎える。なぜ50年にわたって愛されてきたのか。その答えを探りながら、ラジオの将来像も見据え、現場ディレクターを長年務めたニッポン放送制作部長の三宅正希氏が、仕事術と番組の演出ノウハウを語った。

○リスナーに「あなた」と呼びかけるルール

三宅氏が語ったのは、都内で行われたラジオ研修会。参加するのは北海道から沖縄まで、東京・ 大阪以外の全国37社の民放AMラジオ局が加盟し、共同で番組制作に取り組む組織「火曜会(地方民間放送共同制作協議会)」の現場ディレクターたちだ。9月7日・8日に行われた第51回目の火曜会・ラジオ研修会で三宅氏は講師役となり、「オールナイトニッポンがなぜ50年もの間続くのか」その問いに答えた。

三宅氏は1989年に入社後、20年以上にわたりラジオの制作現場に携わっている。これまでプロデューサー、ディレクターとして担当してきたパーソナリティはビートたけし、福山雅治、松任谷由実、くりぃむしちゅー、電気グルーヴなど、『オールナイトニッポン』を支えてきた面々が並ぶ。

『オールナイトニッポン』は1967年の10?から始まった。各局の深夜のタイムテーブルに若者向きコ ンテンツが編成されていなかった時代に「孤独な夜を若者と共有しよう」と、深夜でも?放送にこだわったことはイノベーションなことだった。いわゆる受験戦争が始まった時期でもあり、深夜に勉強する受験?からも多くの?持を集めた。

そんな当時から、守り続けている番組のルールがあるという。「マンツーマンシステム」の演出だ。三宅氏は「リスナーには『あなた』と呼びかけ、『みなさん』とは言わないようにしています。これは単に言葉の問題というよりも、1対1でパーソナリティとリスナーが向き合うというスタンスを示しています。1人のリスナーが自分の目の前にいるような気持ちで話してほしいと、どのパーソナリティにも説明し続けています」と語る。

初代パーソナリティには糸居五郎氏や、ニッポン放送の社長も務めた亀渕昭信氏などがいる。亀渕氏は当時ディレクターだが、創世記のパーソナリティは局アナが定番だった。70年代、80年代に入ると「スターパーソナリティ時代」を迎える。中島みゆきやタモリ、ビートたけし、笑福亭鶴光、とんねるずなどが番組の全盛期を支えた。その後、福山雅治やナインティナインなど新しい顔ぶれを創出していき、現在は、菅田将暉、星野源、AKB48、オードリーなどが担当している。このパーソナリティのバリエーションこそ、50年続く理由にあるという。

「変な言い方かもしれませんが、番組が続いているのは"やめなかった"から。50年間、いろいろな時代や環境の変化もありましたが、その都度対応しながら続けてきました。ラジオ番組でホームページ作ったのも『オールナイトニッポン』が最初だったと思います。ただし、パーソナリティの新陳代謝にはこだわり、その時代の若者の感性に合うパーソナリティは誰かを考えます。旬な人をパーソナリティに起用するのは、番組が常に時代と共にありたいからです」

○本当のライバルは裏番組じゃない

三宅氏は、歴代ディレクターが大切にしてきた番組演出の基本テクニックも明かした。それは「トークは3分が1ユニット」。

「オールナイトニッポンのライバルはインターネットでもなく、裏番組でもない。リスナーが寝てしまうことです。裏番組を聴いているならいつか帰ってくるかもしれませんが、寝てしまっては帰ってこない。寝かさないために、オープニングを一番面白くすることは意識しています。そこでリスナーをつかむために、"トーク3分"のテクニックがあります。リスナーが集中して聴くのは3分が限界です。3分ごとにシーンを変えないと飽きられます。3分も持たないパーソナリティは2時間持たない。リスナーを楽しませる3分を積み重ねて、2時間番組を構成することを目標にしています」

この他にも「話は7割で切る。準備したことを全て話さず、もっと聴きたいと思うところで話を切らないと、聴取分数は伸びない」「選曲は重要。今日しかできない選曲であるかどうかを考える。ディレクターやパーソナリティの思いを伝えるために、曲紹介の際に何を言うかが勝負」「何か情報を得てもらう番組ではなく、パーソナリティを好きだから聴く、が基本姿勢。パーソナリティを好きにさせる演出こそが成功への道」などと番組演出ノウハウの数々を伝えていった。

また、番組なりのやり方でリスナーへの感謝の気持ちを伝えることも大事だという。「たけしさんの場合は面白い投稿には『バカヤロー、くだらねえな』。これがたけしさんなりのハガキ職人への褒め言葉となり、リスナーもこの言葉を聴きたいがために送り続けてくれていました」

●ライブよりタイムフリーで聴かれる星野源
○編成の"無意味化"が進む可能性

話は『オールナイトニッポン』の今に移る。「星野源さんが、今年6月に『第54回ギャラクシー賞』(放送批評懇談会)で「DJパーソナリティ賞」を受賞した際のあいさつの言葉は印象的でした。『僕のリスナーがおもしろいんです。僕はただ笑っているだけ。リスナーがここに立たせてくれた』と話しているのです。星野源さんのラジオそのもの、リスナーへの愛情を物語っています。スタッフも彼の人柄にほれ込んで、成功させようという思いが大きいです」

『星野源のオールナイトニッポン』(毎週火曜深夜1:00〜)は、radikoでの聴取が多く、ライブが約2万人、タイムフリーが約5万人と、合わせて平均して7〜8万人に聴かれている。注目すべきはタイムフリーの数字が高いこと。火曜深夜に放送された後、週末にライブとタイムフリーの聴取人数が逆転する。こうした傾向がラジオの将来像のヒントにもなるようだ。

「将来的には、深夜放送の意味がなくなるかもしれませんよね。月9ドラマを月曜9時に視聴する人が少なくなっているように、編成の"無意味化"が進む可能性があります。いつでも、どこでも、誰でも番組に接触できることがこれまで以上に求められています。ライブ感も大事にしながら、タイムフリーでも聴きたい番組を並べることがポイントになると思います」

聴取環境の変化や技術の進化に合わせて、例えば、話題のスマートスピーカーに対応する番組づくりも進めることも必要だ。それと同時に、他のメディアはないラジオだからできることも再認識したいところ。三宅氏いわく、それこそ「リスナーとパーソナリティのエンゲージメント」だという。「50年続けてきた強みを?かして、さらに活性化させていきたい。50周年イヤーに向けて、1年間で50の話題の企画を発信し ていきます」と最後にまとめた。

講演後は、全国から参加した現場ディレクターから「タイムフリーで聴いてもらう仕掛けがもっと知りたい」「タイムフリーで聴かれる時間帯は深夜に限られるのか」などの質問が相次いだ。もはや伝説とも言える『オールナイトニッポン』から学べるエッセンスは多い。

■長谷川朋子(はせがわ・ともこ)
テレビ業界ジャーナリスト。1975年生まれ。2003年からテレビ、ラジオの放送業界誌記者として勤務し、仏カンヌのテレビ見本市・MIP現地取材歴は約10年。エンタメビジネス事情を得意分野に多数媒体で執筆中。
(長谷川朋子)

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