朝ドラ"ナレ死"話題集中の千葉雄大、異質な存在感で絶好のチャンス期に

朝ドラ"ナレ死"話題集中の千葉雄大、異質な存在感で絶好のチャンス期に

画像提供:マイナビニュース

国民的番組・朝ドラこと連続テレビ小説の最新作『わろてんか』、開始2週めにして、名誉のナレ死を遂げ、ネットを沸かせた千葉雄大。ドラマファンの方には説明するまでもないと思うが、「ナレ死」とは、死ぬシーンを直接見せずナレーションで処理する方法で、大げさに言えば、演劇の元祖・ギリシャ悲劇において、人物の死を目撃者の語りで表現する手法に似ている。

千葉が『わろてんか』で演じていた役は、主人公・藤岡てん(葵わかな)の兄。彼はとても優秀で、京都の薬問屋の仕事を継ぐため熱心に勉強していたが、子供のときから患っている喘息が悪化して早逝してしまう。

「人間はお金や地位や名誉を競い合い、はては戦争もする あほな生き物や。人生ゆうんは思いどおりにならん。つらいことだらけや。そやからこそ笑いが必要になったんやと僕は思う」
「辛いときこそ笑うんや」

……といった彼が残した名言の数々は、おそらく、こののちてんが大阪に嫁ぎ、夫(松坂桃李)とともに寄席を経営していくうえで、キーになっていくと思われる。

○ミルク多めのカフェオレのような存在感

千葉が短いながら重要な役割を果たしたことは、こういう良いことを言ったからだけではない。ドラマのなかでホッとする存在だったからだ。慌ただしい商家(薬問屋)の家のなか、彼だけカラダが弱くて、ひとり部屋で静養している場面が多く、そこだけ違う時間が流れているようだった。小柄で童顔な外観、喋り方もゆったりしていて、朝起きぬけに飲む濃いめのブラックコーヒーではなく、ミルク多めのカフェオレみたいで。

だが、『わろてんか』で千葉雄大が注目されようとは誰か想像していただろう。番組サイドのおすすめは、主人公の夫役・松坂桃李と、主人公を支える実業家役・高橋一生、このふたりがだった。数々の代表作をもつ人気者のふたりだが、それだけに、視聴者の目にやや慣れてしまっていたところ、主人公の優しいお兄さん(しかも丸メガネ)という、情報が出ていなかった人物が新鮮に映った。やっぱり、視聴者にとって、"こういうの好きでしょ、はい、どうぞ"と手渡されるよりも、自分の感性が探り当てた喜びが大事。推しは自分発でありたいのだ。事前情報が少なくほぼノーマークだった千葉雄大に話題が集中したのも当然の流れだろう。

初登場から、お兄ちゃんは寿命が短そうと想像するドラマ見巧者も多く、その勘は当たり、ナレ死によって最後を飾った千葉雄大。デビューから10年、モデル、戦隊ヒーローを経て、いわゆる若手イケメン俳優のひとりに数えられるようになった千葉が、全国区で、高視聴率の朝ドラを観る層にも認知されたところで、10月23日(月)から月9『民衆の敵〜世の中、おかしくないですか!?〜』(フジテレビ系 毎週月曜21:00〜)にレギュラー出演するというのだから、タイミングがいい。公開中の映画『亜人』にも出演していて、原作漫画のキャラクターとはやや印象が違うが、彼ならではのかわいさで存在意義を出している。

○絶好のチャンス期に

千葉雄大、どうやら、目下、"なんか気になる"という短期間限定だが、絶好のチャンス期に来ているようだ。

とりわけそう思ったのは、舞台『危険な関係』だ。パリの社交界を舞台にした玉木宏と鈴木京香による濃密な愛憎サスペンスに千葉は色を添えている。

原作は、何度も映画化されている、ラクロのフランス文学。鈴木京香演じるメルトゥイユ侯爵夫人はかつての愛人への恨みをはらそうと、玉木宏演じるヴァルモン子爵に助けを求める。子爵は名うての遊び人で、ターゲットの婚約者セシル(青山美郷)の純潔をいとも簡単に奪ってしまう。

千葉雄大が演じているのは、セシルに心寄せる青年ダンスニー役。未熟なセシルとダンスニーは、経験豊富で冷徹な子爵と侯爵夫人に弄ばれて転落していく。

この舞台でも、千葉雄大は、中心を担っているわけではないが"なんか気になる"空気を発している。玉木や鈴木をはじめ登場人物が自信に満ちた社交界の花のような存在として堂々としているなか、千葉だけが、窓を開けて入ってくる涼風のようだ。右に左に素早くカラダを動かして、扇風機のように空気を動かす。これが大変効いていて、飽食にまみれた社交界の空気に馴染んでいない彼がいることで、そこのドロドロをいっそう感じさせるのだ。

『わろてんか』ではひとり寝込んでいて、『亜人』ではアクションもののなかでひとり車椅子、『危険な関係』ではひとり俊敏に動き回る。……ひとりだけ異質な存在として重宝されるのは、前述したように、千葉雄大という俳優がまだ広く認知されていないからこそだと思うが、3作とも、静から動まで変幻自在であることからも、そういう役割に選ばれるだけの運と何かはもっているはず。少なくとも、スイーツにちょこんと乗っているミントの葉っぱのように、料理の脇にちょっと乗っている粒胡椒(ピンクペッパーとか)、既存のものをより美味しく換えるポテンシャルをもっていると思う。『危険な関係』では、BK(大阪制作)朝ドラの大先輩・玉木宏(『あさが来た』で、西の商家のぼんぼんを演じていた)相手にしたかなりの見せ場もある。

だからこそ、この波に乗って、さらなる飛躍を見せていただきたい。

■著者プロフィール
木俣冬
文筆業。『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書)が発売中。ドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』、構成した書籍に『庵野秀明のフタリシバイ』『堤っ』『蜷川幸雄の稽古場から』などがある。最近のテーマは朝ドラと京都のエンタメ。
(木俣冬)

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