dTV、単独出資で大作映画製作 配信を二次コンテンツとする独自IP戦略の狙い

dTV、単独出資で大作映画製作 配信を二次コンテンツとする独自IP戦略の狙い

『パンク侍、斬られて候』劇中カット(C)エイベックス通信放送

現在の映画界で通例となっている製作委員会方式ではなく、dTVが単独出資で製作した映画『パンク侍、斬られて候』。日本の配信事業者による単独での実写映画製作は初となるが、この試みにはどんな狙いがあるのか。本作のプロデューサーを務めた伊藤和宏氏と責任者の笹岡敦氏に聞いた。

◆単独で劇場公開映画製作に踏み切った背景

 dTVは、サービスの前身であるBeeTV時代から、行定勲監督を起用したオリジナルドラマ『女たちは二度遊ぶ』や、劇場公開映画と連動したオリジナルドラマの製作など、意欲的な試みを繰り返してきたが、今回、単独で劇場公開映画製作に踏み切った。

「3年ほど前、NetflixやHulu、Amazonプライムビデオなど海外勢の参入による危機感がありました。いいものを作るというのは大前提なのですが、より多くの人に対して訴求力のあるエンタテインメント作品をいかに作っていくかを模索していました」(伊藤氏)

 そのきっかけを作ったのが、伊藤プロデューサーと20年来の知人である石井岳龍監督だ。石井監督が手がけた『ソレダケ/that's it』(15年)から感じた“熱”を万人に向けた娯楽作品として昇華することで、より多くの人にアプローチできると考えた。

「石井監督を核としパンクをキーワードに、監督をリスペクトする宮藤官九郎さんの脚本、13年前から監督が映像化を熱望していた町田康さんの原作、そしてこれまで監督の作品に出演していた主演級の俳優たちが集まれば、おもしろいパッケージになり話題になるだろうと思いました」(伊藤氏)

◆ヒットコンテンツを自社IPとして持つ優位性

 伊藤プロデューサーが頭に描いていたことが、次々と現実になっていくが、ここで伊藤プロデューサーに疑問が生じたという。

「最高のスタッフと豪華なキャストが集まった段階で、ふと思ったんです。この規模のものを配信コンテンツとしてやるだけでいいのか。我々は配信事業者ですが、映画という形態で世に出せば、まったく違う展開が待っているのではと考え直しました」(伊藤氏)

 彼らが考えた劇場公開作品として世に送り出すメリットは、世の中的なヒットコンテンツを自社のIPとして持つことの優位性。映画がヒットすれば、二次コンテンツとして他社の作品を買い付けるより、コストが抑えられるうえにその後の多角的な展開のメリットもある。さらに、劇場公開作品としたほうが、マスメディアに取り上げられる機会が増えることなどから、より効果的な宣伝が期待でき、そこからdTVブランドの認知向上につながる。

 しかし一方で、劇場公開することで、配信限定オリジナルコンテンツという優位性は薄れ、作品力による会員獲得という面ではデメリットとなることも考えられる。

「もちろん、そこは考えました。いままでオリジナルドラマ製作は数多くやってきて、規模に応じてどれだけの新規会員獲得が見込めるか、収益予測も知見としてあります。しかし、今回の作品は、これまでとは比較にならないスケール感があり、正直どこまで多くの人に受け入れられるかは未知数ですが、映画として先に世に出して、二次コンテンツとして次の展開に進むという新しいチャレンジができる作品だと考えました」(笹岡氏)

◆作品の可能性からの企画 本流ビジネスになるかは未定

 近年、Netflixは巨額の製作費を投入し、配信ならではのオリジナルコンテンツを多数製作。映画というメディアと対等か、それ以上の存在感を示そうとしている。dTVにもそんな意向があるのか。

「僕らはそういう目的で映画を製作したわけではないんです。Netflixさんは完全にハリウッド映画などと同じ土俵に立って凌駕しようとしていますが、日本のいち配信事業者では勝負にならない。我々はこれまでも『銀魂』や『進撃の巨人』で映画のサイドストーリーのドラマを製作して相乗効果を図っているように、テレビや映画と同じ土俵でコンテンツを競うのではなく、お互いにメリットのある協力体制を取るつもりです」(笹岡氏)

 今回の試みは、dTVにとって大きなチャレンジではあるが、これが配信事業者としての今後のコンテンツビジネスの本流になるかはまだわからないという。

「今回はあくまで作品ありきの企画なんです。いまの邦画シーンは、似たような作品が多く作られ、ヒットが画一化されているところに観客が飽きてきている部分があると思うんです。そんななか、映像業界のなかで後発のメディアである配信事業者が、これまでの“コンテンツをお借りするビジネス”だけではなく、新しいものを作って活性化できたらおもしろい。もちろんこれが新たなカタチになればという思いはありますが、あくまで『パンク侍、斬られて候』という作品自体に可能性があると思ったので、映画を選択したという位置づけです」(伊藤氏)

 まだまだコンテンツの増加と、配信サービス市場の伸びは比例していないとう現状がある。そんななか、今回のdTVの思い切った戦略がどう評価されるのか。映画公開に注目が集まる。
(文:磯部正和)

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