氷川きよし語る“美意識” イメチェンの裏に歌手人生20年の葛藤と転機

氷川きよし語る“美意識” イメチェンの裏に歌手人生20年の葛藤と転機

デビュー20周年、歌もパフォーマンスも“進化”が止まらない氷川きよし (撮影/厚地健太郎)

現在、デビュー20周年イヤーを駆け抜けている歌手・氷川きよし。2000年に「箱根八里の半次郎」で彗星のごとくデビューして以来、その人気は衰え知らず。最近は、GReeeeNが作詞作曲したバラード「碧(あお)し」を歌ったり、アニメ『ドラゴンボール超』(フジテレビ系)の主題歌であるロックナンバー「限界突破×サバイバー」をビジュアル系さながらのメイクと衣装で熱唱したりと、新たなアプローチでファン層を拡大中。演歌・歌謡界を超えたトップランナーとして走り続けている。そんな氷川に、これまでの歌手人生を振り返ってもらうとともに、ここ最近、話題を呼んでいる彼の“美意識”についても話を聞いた。

◆第一線で活躍し続けるエネルギー源の1つは「プレッシャー」

「20年間、頑張ってこられたモチベーションの1つに、両親を養いたいという意識がありました。父もよく『お前はあまり裕福ではないこの家に生まれたからこそ、歌手として成功できたんだぞ』と冗談めかして言うんですけど(笑)、あながち間違いじゃないかもしれないですね。それともう1つは、常に(オリコンの)ランキングのTOP10に入り続けること。そのプレッシャーとの戦いも、頑張り続けるエネルギーになっていました」(氷川)

 01年の2ndシングル「大井追っかけ音次郎」から最新シングル「大丈夫/最上の船頭」まで、氷川きよし名義のシングルはすべてTOP10入りをしている。演歌歌手でこれだけの記録を保持するのは氷川のみだ。さらに最新アルバム『新・演歌名曲コレクション10. −龍翔鳳舞−』(10月22日発売)は、11/4付週間アルバムランキングで3位に初登場。アルバムTOP10入りは通算34作目で、演歌・歌謡ジャンル歴代1位の「アルバムTOP10獲得作品数」の記録を自己更新している。

「ランキングというのは歌手にとって成績表のようなもの。しかも、それを世間に公表されるわけですから、なかなか厳しいものがあるんですよね(苦笑)。ただでさえ、活動を持続するというのは難しいこと。ですが、人間というのは負荷があってこそ頑張れるところもあるので、このシステムはありがたくもあります。また、デビューから応援してくださっているファンの皆さまも優しいですから、新曲を出すとCDやカセットを買ってくださる。そのおかげでTOP10入りを継続してこられました。だけどここ数年、そのルーティーンを続けているだけでいいんだろうか?と葛藤するようにもなっていたんです」(氷川)

◆アニソン『限界突破×サバイバー』との出合いが、より“自分らしさ”を表現する転機に

 ファンの期待を裏切らない氷川きよし像を“提供”すれば、CDなどがコンスタンスに売れる。しかし、移ろいやすいのが音楽を含むエンタテインメントの世界。同じことを続けていたら、いつしか“限界”がおとずれるだろう。

「そんなときに出合ったのが、『限界突破×サバイバー』(17年10月発売)でした。アニソンを歌うのは夢の1つでしたし、歌の表現としてロックにも挑戦したいという思いはあったので、この曲をいただいたときは本当に嬉しかった。ですが、最初は全然広がらなかったんです。世間では『あの氷川きよしがロックを!?』という物珍しさから一瞬は話題にしていただけたものの、その後はスーッと波が引くように……。すごく悔しかったですね。こんなに素晴らしい曲なのに、なんで届かないんだろうって」(氷川)

 演歌のスターによる国民的アニメの主題歌という話題性は十分だった。しかし、それまでの“演歌界のプリンス”というイメージとはあまりにもかけ離れた曲調に、ファンが戸惑ったことは想像に難くない。

「ロックを歌うことで離れてしまうファンの方もいるかもしれない。でもそれは仕方ないんです。選ぶ権利はお客さまにあるわけですから。だけど、いただいた歌は精一杯届けたい。そこで、賭けかもしれないですが、衣裳からメイクから髪型から自分でアイデアを出させていただいて、これまでとは全然違う“振り切った表現”をコンサートで仕掛けてみたんです。もともと、目でも楽しんでいただけるステージ作りにこだわっていて、普段のコンサートの衣裳もデザインから生地の素材まで自分自身で提案しているんです。曲を聴くと、『この曲にはこんな衣裳が合いそうだな』とイメージが浮かぶんですよね。ですから、『限界突破×サバイバー』のビジュアル作りもとても楽しかった。その結果、しばらくしてこの曲が話題になったことは、本当に嬉しかったですね。この曲に出合ったことで、改めて自分らしさを表現することの大切さを知りました」(氷川)

 今年の5月20日、氷川がバッチリとメイクを決め、髪を振り乱しながら「限界突破×サバイバー」を熱唱するライブ映像がYouTubeに配信されると、そのギャップ感のあるパフォーマンスに多くの人々が反応。Twitterの世界トレンド4位になるほど、大きな反響を呼んだ。リリースから2年、「限界突破×サバイバー」はいまや氷川の新たな代表曲の1つとして幅広いリスナーの心を掴んでいる。

◆自分磨きは「ステージのため」 これから歳を重ねていくのは楽しみ

 もちろん、いかにネットに拡散性があろうとも、「面白さ」や「ギャップ」だけではここまで支持はされない。演歌歌手としてステージに立ち続けてきた氷川の歌唱力と声量、そして表現力があってこそ、ロックも歌いこなすことができたのは確かだ。この先も演歌・歌謡をはじめ、さまざまな表現に挑戦していきたいと語る。

「ステージというのは、歌手・氷川きよしを磨き、成長させてくれる場所。自分にとって、とても大切なものだと思っています。また、どの曲にも言えることですがステージで上手く歌えて、お客さまがワーッと喜んでくださっているとき。それが20年間変わらない、最も幸せを感じる瞬間です。歌手というのは、喜んでくださる方々の顔を目の前で見ることができる。本当に素晴らしい仕事をさせていただいているなと思っています」(氷川)

 ここ最近は、美意識の高さも世間の関心を集めているが、自分磨きをするのはそれもこれも「ステージのため」と氷川。「よく美の秘訣は?みたいなことを聞かれますが、面倒くさがりなところがあって、日頃のケアみたいなものはあまり意識してはやっていないんです(笑)。ただ、想像力や創作意欲を掻き立てるために、ファッションなどのショーやいろんなジャンルの音楽のコンサートには、積極的に足を運ぶようにしています」(氷川)

 来年からは次の20年に向けて走り始める。「意外と安定って好きじゃないんですよ(笑)」(氷川)という言葉からも、またいつか想像を裏切ってくれるような姿を見せてくれるかもしれないが、たゆまず歌手人生を歩み続けるその心の底にはどんな思いがあるのだろうか。

「曲がヒットするのは大切なこと。ですがもっと大切なのは、人の心に何かを残すことだと考えています。もっと言えば、こんな小さな存在の自分だけど、生涯を通して少しでも世の中を良いものに変えたい。それはすぐに実現できることではないですし、ときには批判されることもあるかもしれません。ですが、負けずに1つひとつ積み重ねていくなかで、人生の最後にその答えが出てくるんじゃないかと。ですから、歳と共にあちこち衰えていくのは自然のことで避けられない問題ですが、これから歳を重ねていくことは楽しみでもあります。頑張って人生を全うさせること。それが、私の歌手人生というものだと思っています」(氷川)

文/児玉澄子、撮影/厚地健太郎

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