『半沢直樹』、“地上波しばり”でみせたTBSの意地 王道ドラマを貫いたテレビマンの気概

『半沢直樹』、“地上波しばり”でみせたTBSの意地 王道ドラマを貫いたテレビマンの気概

武道の間合いを感じさせる『半沢直樹』の演技と演出(C)TBS

初回から9話目まで、とことん「地上波放送」にこだわりぬいた『半沢直樹』。無料どころか、有料ですら一切「見逃し配信なし」の選択は、まるで時代に逆行しているかのようなスタンスだったが、日曜の夜に“指定席”を確保し、リアルタイム視聴を誘導していた。そうした背景もあり、9話放送直後に発表された「全話一挙、見逃し配信」の解禁ニュースひとつにも大きな話題を集めた。これまでの名シーンを振り返りながら、いよいよ27日、最終回を迎えることになる。

■「日曜劇場」という会場で待ち構えた“イベント”的役割

 シーズン2の放送発表から期待値が高かった『半沢直樹』。コロナ禍で撮影が思うように進行しないなか、4月スタートから大幅に遅れて7月19日に初回が放送されると、のっけから面食らわせる。まさかの「見逃し配信、一切ナシ」の方針だったからだ。

 リアルタイムで視聴できなくても、後からマイペースに楽しむスタイルが多くのドラマファンの間で習慣化されつつあるなか、真逆の流れの告知に対し、SNS上では「お金を払うから配信して」など、切実な声であふれていた。そうして9話まで地上波放送の縛りは続き、何食わぬ顔で『半沢直樹』劇場は進んでいった。

 一方で、本編はもとより、公式Twitterをはじめ、「100倍返し饅頭(東京中央銀行ver.)」などユニークなグッズ販売を早くも展開。さらに公式ブックの発売や「朗読劇」企画など、多様な派生企画でフォローしながら、『半沢直樹』ファンの熱量維持に奮闘していたのだった。

 ファンの熱量を象徴したのは、撮影が滞ってしまったことを逆手にとって9月6日、急きょ生放送された『生放送!!半沢直樹の恩返し』の数字だろう。視聴率22.2%を記録(ビデオリサーチより・関東地区)し、コロナ禍という有事の最中、ある種の一体感を作り出し、スタッフや出演者の熱意を伝える“ファンミーティング”のような盛り上がりを作り出した。

 これら一連の動きについて、ポップカルチャーを専門とする早稲田大学招聘研究員の柿谷浩一氏は「大衆を楽しませる方向性が明確だった」と解説する。

「見逃し配信などのタイムシフト視聴は便利な反面、本来あるテレビドラマの特性を損ねている部分もあります。それが、イベントとしての機能です。固定した“場”と“時間”に人々は集う。重要なのは、その数より、そこで生まれる熱気やにぎわいの方です。

 実際に観るかどうか分からない未来の視聴者に寄せるのではなく、視聴者を『日曜劇場』という会場でどーんと待ち構える。休日を過ごす大衆にとって、それが刺激的なイベント会場になれていた点が大きいですね。作品そのものが、半沢本人のように威風堂々としていました。これぐらいの姿勢じゃないと、ますますテレビドラマはネットドラマとの違いがなくなってしまいます」

■「モノマネ」したくなる中毒性が訴求力へ

 イベント的楽しさをさらに助長させていったのが、毎話送り出された名台詞、名シーンだ。Twitter上では毎週、祭りのような賑わいとなり、『半沢直樹』ファンは遊びを持たせていじり、どっぷりとその世界観に浸かっている。

 こうした現象が起きたのは「メッセージ性もさることながら、クセのある言い回しや身ぶりが「モノマネ」をしたくなるほど中毒性が強かったことが大きい」と柿谷氏は説明する。この「モノマネ」というひとつの遊びが、ヒットのフックになったというのだ。

 ただし「演者と同じように、上手にまねることが大事じゃなかったはず」と断りを入れる。確かに、半沢と大和田の2人が登場するシーンで見せた「お・し・ま・いDEATH」を使ったものなど、多くのパロディ版が溢れている。

「誰しもが、気軽につい引用して披露してみたくなりましたよね。それによって、作品が視聴者の外へも広がっていった。その生身の人間を通じて大衆へ根が伸びる感じも、半沢ブームの大事なポイントになったと思います」

■武道の伝統を現代ドラマで観る愉しみ

 また、歌舞伎を思い起こさせるような独特な演出の数々も、見どころとなった。まるでそれは「舞台を観ているかのようなワクワク感があった」と柿谷氏は力説する。

「敵と対峙する半沢は常に斜めぎみで、剣道の構え。顔を接近させる場面はつばぜり合い。ズームアップとズームアウトを駆使したカメラワークは間合い。勝敗そのものや物理的な衝突ではなくて、武道の持つ独特の緊迫したけん制と攻防の風景を、物語にたっぷり採り入れた面白さがありました」

 バンカーとしてのプライドを守りつつ、「銀翼のイカロス」編では、政界の闇を暴くために奮闘している半沢直樹を描くのにあたって、柿谷氏が言う「日本の伝統」に触れるかのような演出が効を奏したというわけだ。

 最終回ではついに、“政界のドン”と恐れられている箕部幹事長と決着をつけることになるだろう。半沢のセリフにはところどころに、「国とは、政治とは」「世の中の人々のために」といった正義感に溢れた熱い言葉が並ぶ。これに同調するファンは自分ごとのように捉え、「明日もがんばろう」と意欲を燃やす好循環を生み出す力も持たせた。

 平成の時代に続き、令和でもヒットを飛ばしている『半沢直樹』には、多くのファンを惹きつける要素がふんだんに詰まっている。テレビドラマにはまだまだ可能性があることを気づかされた作品にもなった。

「テレビドラマはエンタメ作品であり、同時に大衆芸術でもあります。その観点を忘れちゃいけない。そこに、今の時代にテレビドラマがヒットする何かしらのヒントが隠れているはずです」

『Netflix』など配信ドラマのヒットが続き、手元のスマホ上には、ありとあらゆるエンタメコンテンツが溢れている。この状況は、テレビマンにとって逆境の最中とも言えるが、倍返しのチャンスが決してないわけではない。

 テレビドラマらしさを見失わずにやり通す“意地”が、ひとつの答えとなり、『半沢直樹』の大ヒットがそれを証明するものになっている。
(文/長谷川朋子)

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