『ドラ泣き』コピーに賛否、ドラえもん50周年記念作品を“泣ける”映画にした理由とは

『ドラ泣き』コピーに賛否、ドラえもん50周年記念作品を“泣ける”映画にした理由とは

「ドラ泣きふたたび。」(C)Fujiko Pro/2020 STAND BY ME Doraemon 2 Film Partners

先月公開されたドラえもん50周年記念映画『STAND BY ME ドラえもん 2』。前作に引き続き「ドラ泣き」のコピーに加え、IMAXでは「泣きマックス」。のび太がおばあちゃんに未来の結婚式を見せるために冒険が始まるストーリーだが、“泣き”を押し出したコピーが賛否を呼んでいる。2014年に公開された前作『STAND BY MEドラえもん』は最終興行収入83.8億円と、歴代の映画ドラえもん史上断トツの大ヒット作品。そのプレッシャーを負った今作の見どころと同コピーへの思いを、八木竜一監督に聞いた。

■前作の大ヒットに加え、“思い出補正”に勝る作品作りのプレッシャーで一時制作休止も

 『STAND BY ME ドラえもん 2』の制作がスタートしたのは2015年の初頭。2014年の前作が制作チームの想像を超える大ヒットだったため、そのプレッシャーを負った続編のストーリー作りは難航したという。

「前作を見ていただいたお客さんの中で、前作が美化されている可能性があります。いいものとして“思い出補正”された前作に負けない作品を作らなければならない。そのプレッシャーからか、いろいろなアイデアはあったんですが、『一度みんな頭を冷やそう』となって一時制作休止。それからしばらくして、再度会議を。その“間”があったことで50周年のタイミングで公開できそうになり、“50周年記念映画”となった経緯があります」(八木監督/以下同)

 てんとう虫コミックスの『ドラえもん』は全45巻。その中に感動のエピソードがいくつもあるのだが、前作でそのほとんどを使ってしまった。そんな中、前作には入れられなかった「おばあちゃんのおもいで」をベースに膨らませられないかという方向性に。煮詰まったところで突然、一筋の光が差し込んだ。

「スタッフの一人が『大人のび太が結婚式から逃げ出したりして(笑)』と発言したのです。これに私と共同で監督を務め、脚本も担当している山崎貴が『はっ!』と。改めて山崎が原作を読み直したところ、最後の方でおばあちゃんがのび太に『あんたのお嫁さんをひと目見たいねぇ』と言ってたんです。ここからですね。本格的に物語が作られていったのは」

 同作の3DCG制作をスタートしたのは2019年の初頭。「本作の公開は2020年ののび太の誕生日である8/7になる予定でした。つまり制作期間は1年と少ししかない。前作では3年かかったので、ちゃんと完成させられるかどうか…非常に不安でしたが、遅れはしたものの夏前には完成。ですがコロナ禍の影響を受けて公開が冬に。いろいろありましたが無事公開できてホッとしています」

■映画の使命は「ドラえもんをリアルに表現すること」アニメでは省略できる描写も3Dでは時代設定から

「『STAND BY ME ドラえもん』シリーズには、やろうとしている世界観があるんです」と八木監督は続ける。それは「ドラえもんというお話のリアルを表現すること」。ドラえもんのコミックスが出たのは1974年。この世界観を3DCGで描く場合、どうしても時代設定や色々な物の質感がリアルに出てしまう。CGは細部まで描かれるため、アニメのようにそこをポップに省略することができないのだ。

「そこで、作品に登場するアイテムを初版が出版された当時のものに合わせました。のび太のファッションや靴、蛍光灯のデザイン、自動販売機、自動車など。具体的に言えば前作は1974年、今作は1975年頃のデザインにしてあります。実は、裏設定的には今作は前作の1年後の世界を描こうとしています。要は、今作ののび太は、ドラえもんと出会って1年が経っているということです」

 当時の資料は少なかったため、監督やスタッフが子ども時代の写真や思い出を持ち寄り、アイテムをリアルな1974、1975年物として描いた。「大人になって本作を観る方が、『ドラえもん』のコミックスやアニメを観た当時のノスタルジーを感じてもらいたかった」と言う。

「また、感動の要素については、前作も今作も“人を思いやる気持ち”を大切にしています。前作では、のび太とドラえもんの友情。今作は、おばあちゃんの願いや、それを叶えたいというのび太の想い。のび太は、人を思いやりすぎて逆にネガティブモードに入ってしまう面もありますが、それも含めてしっかりと描くことで、観てくださる方々のそれぞれのご両親やご祖父母への想いに、本作が直結してくれるのではないかと願っています」
 
 あともう一つ、込められているのは「明るい未来」というテーマだ。大友克洋の『AKIRA』や映画『ブレードランナー』に代表されるように、創作で描かれる未来はネガティブなものが多い。さらにバブル崩壊を経て「失われた20年」が到来。ここに今年はコロナ禍が加わり、明るい未来を感じられない人はかなり多いのではないだろうか。

「『ドラえもん』のコミックスが発売された当時、子ども向け雑誌などに載っていた未来予想図は非常に明るくポジティブなものばかりでした。『STAND BY ME ドラえもん』シリーズでは、これを踏襲。そもそもドラえもんは“明るい未来”の22世紀から来た存在ですし、そのユートピアへ向かう過程として、大人のび太の住む未来も明るいものにしています。“未来は暗い”、“昔はよかった”という風潮がある中、ドラえもんがいる世界では、未来は明るくあって欲しいんです」

■「ドラ泣き」反発の声にも「SNS時代、“強い言葉”は重要」

 ところで、前作が大ヒットしたにもかかわらず、「ドラ泣き」「泣きマックス」のコピーなどから、「もろ泣かせにこようとしてる」など、反発の声も少なくない。これに対して八木監督は「そう思われる方がいてもそれは仕方がないことですが、拒否反応をする人が出るぐらい、『ドラ泣き』という言葉には強いイメージがあると捉えることも出来ます。このSNS時代、強い言葉はトレンドにもなりやすいですし、ちょっと投稿するにも使いやすい。反発される方の気持ちも分かりますが、映画を観ていただければ、言葉の意味も理解してもらえるのではないかと」

 ちなみに、山崎貴監督は「何かを残せればいいけれど、まずはエンタメ。誰もが楽しめるものにしなきゃいけない」と発言している。この“エンタメ”の要素にも、“笑い”と“泣き”は重要だと八木監督は言う。「『ドラえもん』はギャグ漫画でもありますが、今お客さんが求めているのは“気持ちを動かすこと”なのではないかと思い、感動をお送りしている面もあります。このコロナ禍でプレッシャーを感じたり、心が締め付けられる想いをしたりしている方も多いと思います。そんな中、笑って、泣いて、心をほぐしてくれる作品になってほしい」

 とはいえ、制作当時はコロナ禍が起こることなど予想もしていなかった。「一昔前は“個人”が重視されていた気がしますが、このコロナ禍で改めて“家族”が見直されているように感じます。同作は、奇しくもその“家族”への想いを描いている。今、生きている以上、皆さんを生んでくれたお母さん、お父さん、そして遡れば、おばぁちゃんやおじぃちゃんもいます。がいる。そんな家族とのつながりをこの映画で感じてもらえたら」と八木監督は前を見ながら語る。

「ドラえもんは色々な願いをかなえてくれますが、明るい未来にするためには、まず“願えるかどうか”も大事です。今は、そもそも未来に期待を持って願う人が減っている気がしています。昔に比べて今の方が悪いと思われる方もいるかもしれませんが、医療も科学も発展し、過ごしやすくなった面は忘れられがち。それをこの映画を観て今一度、思い出してもらい、明るい未来を“願える人”になっていただけたらうれしく思います」


(取材・文/衣輪晋一)

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