世界史語りのニュースター『コテンラジオ』深井龍之介「今の世の中は、第一次世界大戦前にめっちゃ似てます」

深井龍之介 株式会社COTEN代表。九州大学文学部社会学研究室卒業。2016年2月に、歴史のデータベース作成を主事業とする株式会社COTENを設立。2018年11月より、同社の広報活動として『コテンラジオ』をスタートする

音声配信サービス「ポッドキャスト」で、タレントのラジオを抑えて人気ナンバーワンを誇る番組がある。福岡のベンチャー経営者ら3人が歴史の面白さを語る『コテンラジオ』だ。その人気のワケは? メインスピーカーを務める深井龍之介(ふかい・りゅうのすけ)氏を直撃した!

* * *

■「昔からの歴史好きではありませんでした」

「歴史を学ぶ」。多くの人が身構えそうな看板を掲げるポッドキャストが人気を集めている。2018年11月から配信をスタートした『歴史を面白く学ぶコテンラジオ』だ。

福岡県のベンチャー企業経営者ら3人が「アレクサンドロス大王」「宗教改革」などテーマごとに歴史を語る同番組は累計再生回数1100万回を超え、「ジャパンポッドキャストアワード2019」では大賞&Spotify賞をダブル受賞。2月24日時点でApple Podcast総合ランキング1位となっている。

そこで、『コテンラジオ』のメインスピーカーを務める株式会社COTEN代表の深井龍之介氏に話を聞いた!

『歴史を面白く学ぶコテンラジオ』 株式会社BOOK代表の樋口聖典氏(左)が聞き役を務め、株式会社COTENの深井龍之介氏(中央)、楊睿之氏(右)が「吉田松陰」「宗教改革」などテーマごとに歴史トークを展開。毎週月・木曜に配信。ジャパンポッドキャストアワード2019大賞&Spotify賞をダブル受賞したほか、Apple Podcastでは総合ランキング1位に。Apple Podcastのほか、YouTubeでも視聴可能

* * *

――深井さんは学生の頃から歴史好きだったんですか?

深井 それが、そんなことはなくて。本格的に歴史を勉強し始めたのは20歳の頃だし、大学の専攻も史学系ではなく社会学でした。僕は、オーソドックスな歴史好きじゃないんです。

いわゆる歴史ファンは「戦国武将の誰々はすごかった」みたいなドラマを好むと思うんですが、歴史の楽しさはそこだけじゃないと思っています。

――というと?

深井 偉人の人間ドラマみたいな部分ももちろん興味深いのですが、その裏側にある社会構造のほうがより面白いのかなと。

――社会構造って?

深井 歴史を映画にたとえるなら、背景にある大きなストーリーや設定のことです。こうした背景を把握するのは、歴史を楽しむ上では必須です。

『スター・ウォーズ』みたいな傑作映画でも、「××年、アナキン・スカイウォーカーがダース・ベイダーとなる」って習ったら全然面白くないですよね? それは、出来事の背景にある設定やストーリー、つまり構造を伝えていないからです。

僕は、その時代の社会構造についてもラジオでお伝えしたいなと思っています。

――社会学をルーツに持つ深井さんならではの観点ですね。具体的には?

深井 今、フェイクニュースとかネット上のデマが問題になっていますよね。新しいメディアであるネットに嘘があふれている。でも、「生まれて間もないメディアが嘘をつく」という構造は歴史上初めてじゃないんです。

第一次世界大戦の頃は、当時としては新しいメディアだった新聞やラジオがたくさん嘘をついて人々をあおりました。その結果、メディアに触れた人たちが攻撃的になって、最終的には国家間の戦争を起こしてしまった。新興メディアが嘘をつくというストーリーは過去にもあったんですよ。

――確かに構造は似てますね。

深井 つけ加えると、そのとき他国を敵視する原動力になったナショナリズムは、18世紀のフランス革命で生まれた「国民国家」という考えに始まっています。それまでは「国民」などという考え方がありませんでしたから。

――フランス革命は第一次世界大戦とつながっているんですね。

深井 そうです。歴史のストーリーは、伏線が伏線を生むようにつながっているんですね。そして、僕たちが暮らす現代社会の伏線が多く潜んでいるのが第一次世界大戦です。

今回はメディアという観点だけ触れましたが、第一次世界大戦はほかにも今の世の中と似ている点が多くて、すごく面白い。まさに最新シーズンで第一次世界大戦回を配信しているので、ぜひ聴いてみてください。

最新のシーズン22のテーマは「第一次世界大戦」。30冊超の参考文献の情報を基に、「第一次世界大戦の勃発につながったテクノロジーの進化」「なぜ当時の人々は戦争での死を決意できたのか?」などさまざまな切り口で語る

■毒親に育てられた重耳から勇気をもらう

深井 「国民国家」に関して少し補足すると、今の僕たちは国籍を持っていることを当たり前だと思っていますよね。でも、その価値観や概念は18世紀のフランス革命でつくられたにすぎません。つい最近の話なんですよ。

同じように、僕たちの倫理観も歴史的な変化の影響を受けます。中世のカトリック世界で「神様なんていないよね」なんて言ったら袋叩きです。というか、口にすることは絶対に許されなかった。今は倫理観が変わったからこそ、神様の存在について議論しても大丈夫なわけです。

――とすると、今の倫理観も変わるということですか?

深井 ええ。僕たちの「当たり前」は永久不変のものじゃないんですよ。社会構造とともに変わっていくものなんです。

例えば、昔は人体解剖なんて宗教的な理由から許されなかったわけですが、教会の力が弱まるにつれその倫理観が薄れていき、人体解剖ができるようになった。最初に人体解剖をした人はボロクソに叩かれましたけど、そうやって医学は近代化していきました。

――今の社会で「正しい」と言われていることも、将来的には変わっちゃうかもしれないんですね。

深井 そのとおりです。しかも今は社会システムが切り換わるスパンが短くなっていますから、僕らが生きている間に2、3回は価値観がガラッと変わるかもしれない。今は許されないことが数十年後には称賛されている可能性だってあります。

――例えば?

深井 福祉のシステムはどの先進国でも崩壊寸前だといわれています。でも、そこについて突っ込んだ議論をするのは難しい。それはフランス革命で生まれた「人権」という価値観が支配的だからですよね。

僕にも人権の価値はさすがに疑いようがないように見えます。ですが、中世ヨーロッパで絶対的な存在だった神様が疑われ始めたように、人権という概念すら新しい概念にアップデートされる可能性はあります。このように、歴史を学ぶと当たり前が当たり前じゃないことがよくわかるんですよ。

――そんな深井さんたちのポッドキャストが人気なのはなぜ?

深井 それは、現代社会では生きることの難易度が高いからではないでしょうか。

――どういうことですか?

深井 自由がなかった昔は、自分の人生を自分で決める必要はなかったですよね。決められたことをやるだけでした。

でも、今は自由が重んじられていますから、なんでも自分で決める必要がある。どこに住むかも、結婚相手も、そもそも結婚するかどうかも。常に決断に迫られるという意味では、生きるのがめっちゃ難しい時代なんですよ。

――それは歴史を学ぶこととどうつながるんですか?

深井 先行事例があれば参考になりますよね。それを歴史に探すわけです。

僕の印象だと、歴史を知ったことで「なんだ、昔からみんな同じような悩みを抱えていたんだな」とか「小さなことにこだわるのはバカらしいな」と思える人が多いようです。

例えば、中国の春秋時代の晋に重耳(ちょうじ)という名君がいたんですが、親が今でいう"毒親"で、殺されかけたりもするんですね。だけど重耳は腐らずに、亡命して機会をずっとうかがい、60歳にして晋に戻り、名君として晋を大きくします。そんなエピソードを聞いて勇気をもらった人は少なくないようです。

■誰もが歴史の英知にアクセスできるように

――深井さんが代表を務める株式会社COTENの事業も歴史に関するものですよね。

深井 COTENでは誰でも歴史を活用できるよう、歴史のデータベース化を進めています。これを使えば、例えば「古今東西の強い軍人に共通する特徴ってなんだろう?」と思ったときに、すぐにその答えを知ることができます。

――歴史をまるで統計資料のように使って答えを導けるんですね。

深井 はい。歴史のデータって、人類の英知が詰まっているのに、アクセスできる人が限られているんですよね。

というのも、それは基本的に本の中にしかないから、大量に読書した人じゃないとアクセスできない。僕はたまたま本を読んだから面白さを知ることができましたが、普通の人には難しいんです。徒歩でしか行けない100km先の図書館に情報が詰まってる、みたいな。僕がやりたいのは、その図書館に誰でも行けるように新幹線を整備することです。

――データベースはどう使えばいいのですか?

深井 それは皆さんに任せたいのですが、例えば教育に使えますよね。フランスの歴史とイギリスの歴史を並べてみたりとか、戦争と発明の歴史を同時に表示して関係を調べたりとか。

それから、なんらかの問題に直面している人が、似た状況を歴史の中から探せますよね。ネットのフェイクニュースについて考えたい人が、新聞やラジオがデマだらけだった時代を見て今後を予想するとか。今までは労力をかけて本を探さないといけなかったことが簡単にできるようになります。

――壮大な事業ですね。歴史のデータベースがあれば、アフターコロナの世界も予測できるのかも。

深井 人間社会は複雑なので未来を完璧に当てるのは難しいですが、ヒントは見つかるはずです。「アフターコロナで世界はこう変わる」っていう予想がたくさんありますが、例えばリモートワークって、コロナ以前からあることにはあった。それがコロナを機に、一気に表に出てきただけです。つまり、水面下で進んでいたものが社会構造の変化で噴き出しただけなんですよね。

歴史を勉強すると、社会の大変化の前にはすでにそれを加速させる技術はあって、時代の要請に伴って表に出たことがほとんどだとわかります。そういう意味では、もう次の大変革への動きは始まっていますよ。

取材・文/佐藤 喬

関連記事(外部サイト)