打ち切りから一転、再上映が続々決定。高坂希太郎監督が語る、映画『若おかみは小学生!』がヒットした理由

打ち切りから一転、再上映が続々決定。高坂希太郎監督が語る、映画『若おかみは小学生!』がヒットした理由

異例の興行展開の原因について語る高坂希太郎監督

ぱっと見、いかにも子供向けのアニメ映画が、SNSや口コミを通じてじわじわと人気拡大中だ。この勢いで『カメラを止めるな!』に続く、一大ムーブメントとなるか?

異例の興行展開をする『若おかみは小学生!』の高坂希太郎(こうさか・きたろう)監督に話を聞いた。

* * *

■意外にも30代以上の男性ひとり客が多数

9月21日に封切られたアニメ映画『若おかみは小学生!』が、異例のロングラン上映を続けている。

原作は、累計発行部数300万部という大ヒット児童文学シリーズ。小学6年生の少女が交通事故で両親を亡くし、温泉旅館を営む祖母に引き取られて図らずも若女将となり、さまざまな人との触れ合いのなかで成長していくストーリーで、読者層に合わせて原作イラストも子供向けのタッチで描かれている。

当然、現在とかつての原作愛読者、つまり女子小中学生やその保護者が劇場版アニメの観客となることが期待された。だが、封切り翌週に大型台風が関西を襲い、一部上映館が営業休止した影響などもあって当初の期待ほど観客動員が伸びず、3週目からは上映を打ち切る劇場も出てきた。

普通ならそのままじり貧となり、全国的に上映終了となるのだが、『若おかみ...』はここから奇跡の巻き返しを見せる。『君の名は。』の新海誠監督をはじめとする著名人や、劇場で作品を見た大人の観客による称賛がSNSや口コミを介して広がり、上映5週目となる10月19日以降、全国規模で再上映や新規上映をする劇場が続々と増えてきているのだ。

配給のギャガによれば、驚くことに観客の大人男女構成比は6.5:3.5と男性客のほうが多く、特に30代以上は大半が男性。また都心部では夕方以降、20代から50代の男性ひとり客が半数以上を占めているという。

異例の興行展開の原因はいったいどこにあるのか? 同作の何が、子供だけでなく大人の心をもわしづかみにするのか? 高坂希太郎監督に直撃インタビューした。

* * *

――『若おかみ...』のオファーを受けた当初、あまり乗り気になれなかったそうですね。

高坂 僕のこれまでの仕事の中で、(『若おかみ...』の原作イラストのような)目の大きなキャラクターとは接点がなかったし、児童文学を劇場作品にする自信も最初は持てなかったんです。でも原作を読んでみたら非常に面白くて、入り込めば入り込むほど、原作イラストを大事にしたいという思いになっていきました。

――原作のどこに惹(ひ)かれたんでしょう?

高坂 主人公のおっこがまず魅力的じゃないですか。元気で、けなげで、がんばり屋さんで、ちょっと天然なところもあって。そして周囲の登場人物も、それぞれに個性がある。1巻ごとにいろんなお客さんが旅館を訪れ、いろんな出来事が起きて複雑に絡み合うんですが、最終的にはうまく話の折り合いをつけて1巻の作品にまとめているところが、ストーリーテリングの面でも巧みで感心したんです。

また、旅館という接客業を舞台に、主人公が自分よりもお客さんのため、人のために動くことで力が出るという要素は、ほかの作品では見られないユニークなところだなと。

■原作にはなかった両親の死の詳細を描いた理由

――全20巻の中からどのエピソードを選び、どう起承転結につなげていくかの作業は大変だったと想像しますが、逆に劇場版で膨らませている部分もあります。

例えば原作では、両親の死についてさらりと触れているだけですし、おっこはそのショックを割合あっさり克服できている。でも劇場版は事故の場面もリアルに描かれていて、その後、おっこは何度も事故時の記憶や喪失感にさいなまれますよね。

高坂 原作は小学3、4年生以上のお子さんに向けて書かれているので、両親の死の詳細はあえて省いたのだと思います。しかし劇場版として、もう少し上の年代や大人も見られる作品をと意識すると、両親の死と対峙(たいじ)しないわけにはいきませんでした。

――だからこそ観客は、おっこが両親の死をいかに乗り越えるんだろうと、固唾(かたず)をのんで見守るわけですよね。

高坂 そこは最後の最後まで悩みましたね。自分にできる限りの工夫はしたつもりです。

――積み重ねてきたエピソードや、登場人物たちの背景が、ラストのおっこのキメぜりふへと収斂(しゅうれん)されていく構成は、見事でした! ただ、過去の克服にも関わってくる「赦(ゆる)し」「受け入れ」といった作品の重要なメッセージは、コアターゲットの小学生にとって難しすぎたりしませんか?

高坂 ところがそうでもなかったようなんです。劇場では、途中で集中を欠いてごそごそしていた子がいる一方、おっこと一緒に泣いてくれた子もいたみたいで。大人でも、受け止め方はそれぞれですしね。

――監督ご本人の口からは語りづらいかもしれませんが、『若おかみ...』が大人も巻き込んで評判を呼んでいるのはなぜなんでしょう?

高坂 意外性、なのかなぁ......。子供向けアニメだと侮っていたら、内容は違っていたっていう。作画も丁寧にやりましたから、そこに驚いた方もいらっしゃるようです。

――劇場用パンフレットには、作品に魅了された大人のひとりである漫才コンビ「NON STYLE」井上裕介さんからの、泣かせる長い推薦文が寄せられています。

高坂 井上さんは試写を実際にご覧になった上で、自身がMCを務めているテレビ東京のアニメ情報番組で『若おかみ...』のことをものすごく熱く紹介してくださったんです。そこまで言っていただけるのならと、プロデューサーが推薦文をお願いしたところ、快諾してくださいました。

――最後に、週プレの主な読者層、つまり20代から40代の男性だからこそ受け止められる、『若おかみ...』の裏テーマのようなものなどあれば、ぜひ教えてください。

高坂 うーん......昔から「われを忘れて仕事をする」とか言うじゃないですか。そうした状況ってけっこう、考えもしなかった力を発揮できたりするんです。

自分っていうものに執着するのはすごくよくわかるし、当たり前なんだけれども、自分をちょっとどこかに置いてみて、人のために、何かを作り上げるために没頭してみたら、これまでと違う景色が見えてくるかもしれない。

『若おかみ...』の中で、おっこがまさにそんな経験を通じ、どうやって階段を上っていくのかに注目していただくのも面白いでしょうね。

●高坂希太郎(こうさか・きたろう)  
1962年生まれ、神奈川県出身。『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』の作画監督を務めるなど多数のスタジオジブリ作品に参加。2003年、『茄子 アンダルシアの夏』で監督デビュー。14年、『風立ちぬ』で東京アニメアワードフェスティバル・アニメーター賞受賞

●『若おかみは小学生!』 
2003年の発売以来、累計発行部数300万部の人気児童文学シリーズ『若おかみは小学生!』(講談社青い鳥文庫)をアニメ映画化。両親を亡くし、祖母の経営する温泉旅館「春の屋」で暮らすことになった小学6年生の女の子・おっこ(織子)が、若女将として奮闘する様子を描いた笑いあり涙ありの物語

撮影/五十嵐和博

関連記事(外部サイト)