富野由悠季監督が語る『閃光のハサウェイ』と『Gのレコンギスタ』 「そうか、僕は手恷。虫先生と同じ立場になっちゃったんだな」

「現場で仕事できるのは残り3年」と語る富野監督。だが、その旺盛な創作意欲はいまだ尽きることがないようだ

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』や劇場版『Gのレコンギスタ』のヒットで盛り上がるガンダム。初の実写化作品がNetflixで全世界配信されることが4月に発表されるなど、ワールドワイドに。そんな状況を"生みの親"富野由悠季(とみの・よしゆき)監督はどう見ている?

御大が約2時間にわたり語ったのは自身の老い、知られざる原点、そして「ガンダムの世界」の未来だった! あと、ついでに「ワクチンはもう接種しましたか?」と聞いてみました。

■富野監督が語るロボットアニメの本質

――週プレでは1年半ぶりのインタビューです! ご機嫌いかがですか?

富野由悠季(以下、富野) 脊柱管狭窄(せきちゅうかんきょうさく)症(脊椎にある神経の通り道が狭くなり、神経を圧迫。臀部(でんぶ)から足にかけて痛みやしびれが起きる)の影響で歩くのが不自由になってきた。自分が歩いている映像を見ると「これ、病人じゃないの!」って。現場で仕事できるのは残り3年でしょう。

――いきなり、そんな悲しいことを言わないでください......ところで、コロナのワクチンは打ちました?

富野 6月に2回接種しました。打ったらホッとはしますよ。これだけテレビで騒がれてりゃ。

――副反応はありました?

富野 亜阿子(ああこ)さん(奥さま)が半日だるいっていうのはありました。僕は3〜4時間、体が重ったるいなっていうのがあったくらい。でも、友人は2日寝込んだと言っていた。

まあ、抗体が身につくというのは、生体そのものを強化するということだから......50万、100万人も打っていれば、その中に不適合者が出てくるのは当たり前でしょう。なので、一部の世論のようにとがって非難するつもりもありません。

――なるほど。それでは今回の主題に入りたいと思います。映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』が6月に公開、富野監督の新作、劇場版『Gのレコンギスタ V』「宇宙からの遺産」も7月22日に公開されました。また、4月にはガンダム初の実写映画がNetflixで全世界配信されるとの発表もありました。

そういえば、5月末に中国・上海(シャンハイ)では実物大のガンダムがお披露目されていましたね。ガンダムは今年で42周年を迎えますが、人気は衰えないどころか、むしろ世界に広がりを見せているように感じます。なぜだと思いますか?

富野 端的に言います。それはメインのスポンサーが健在だからです。しかも、バンダイという"オモチャ屋さん"は、単にプラモデルを作るだけではなく、世界で映像配信を手がけ、商圏をアジアにまで広げていった。では、なぜここまでワールドワイドにできたのか? それはガンダムが"ロボットもの"だからです。ところで"ロボットもの"の本当の意味ってわかる?

――うーん......なんでしょうか?

富野 「子供相手のビジネス」ということです。人は小学校から中学校までに吸収したものに一生こだわる。

――確かに、小学生のときにガンダムと出会って、いまだに愛好しているミドルエイジはたくさんいますね。

富野 アニメや漫画という媒体は、お客さんが子供なので彼らが成長した後もコンテンツとして残る可能性がある。実際、僕の場合、ガンダムのビジネスが成長していくとともに、自身の存在も認められるようになった。昔のように「ああ、アニメの人なのね」と見下されることもなくなった。正直、命拾いしたと思っています。

――以前、監督は「ガンダムは嫌いだ」と発言していましたが、ガンダムやロボットものを肯定できるようになったのですか?

富野 もとから肯定しています。肯定しているけれど好きではない、というのは今も変わりません。

僕には作家としての才能がなかった。それこそ『アルプスの少女ハイジ』(1972年)で高畑勲監督や宮崎駿監督と仕事をさせてもらって、彼らのようなインテリにはまったく歯が立たないことがわかった。僕に何ができるのかというのを必死に考えて、やがて"ロボットもの"の専従者になっていった。

でも、テレビアニメはスポンサーのものです。だから僕はガンダムをノベライズした。小説を書いた事実をつくっておけば、作家としての僕が社会的に認知されるのではないかという計算がありました。作家個人としては、オモチャ屋さんを利用させてもらったんです。

ただ、そういうふうにやってきて思い知らされたのが、「ビジネスに関しては企業に任せるべきだ」ということ。個人のクリエイターが著作権を上手に稼働させた例はあまりない。ウォルト・ディズニーですらそうなんです。ディズニーは潰(つぶ)れそうになった時期があって、企業家たちに助けてもらって、今も存続できている。僕はそれを30年前から意識してきました。

――30年前ということは劇場版『機動戦士ガンダム F91』(91年)やテレビアニメ『機動戦士Vガンダム』(93年)を手がけていた時期ですか?

富野 そうです。当時、それまでの制作会社やスポンサーから独立してスタジオをつくろうと思った瞬間があったわけ。でも、お金の計算を1年くらいやったら、完全にうつ病になってしまった。

ただ、日本のアニメ業界にはスタジオジブリという独立独歩の前例がありました。でもジブリには高畑監督や宮崎監督といったクリエイターだけなく、プロデューサーの鈴木敏夫という存在がいたから、あそこまでいけたんだろうと思います。それに、ジブリはディズニーと提携したことを考えると、あのレベルでもこれかよ、と思うこともありますね。

東京・練馬区の「サンライズ」の第1スタジオにて撮影

■『閃光のハサウェイ』と「手塚治虫」

――ところで、『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(以下、『閃光のハサウェイ』)は興行収入20億円に迫る大ヒットを記録しました。『閃光のハサウェイ』は富野監督が89年に上梓(じょうし)した同名の小説(角川スニーカー文庫)が原作です。

富野 映画の『閃光のハサウェイ』には一切関与してません。これは僕の主義もある。映画という媒体は最終的には監督のもの。だから口出ししてはいけないと思った。

でもね、同じスタジオ(サンライズ)の同じフロアで仕事をしているわけだから、言おうと思えば、つべこべ言えちゃう。例えば『閃光のハサウェイ』の絵コンテをこんなふうに机にバーン!と叩きつけて(富野監督、週プレを机に叩きつけながら)「これ、何さ? おまえ、原作読んでないよね!?」って言えてしまう。『Gのレコンギスタ』がなかったら、騒動を起こしていたかもしれません。勝手に絵コンテを描き直して、「これでやれ!」って(笑)。

――『閃光のハサウェイ』はご覧になられました?

富野 率先して見るつもりはありませんでした。でも、原作者の業務として見なければならない。なので公開前にきちんと見ています。

――ご感想は?

富野 関与していない作品なので感想は言えません。意見を言えば、良きにつけあしきにつけ、マーケットに対して偏見を与えることになりますからノーコメントです。

――なるほど。ところで富野監督は『海のトリトン』(72年)で初めてテレビアニメシリーズの総監督を務めましたが、『トリトン』には手塚治虫先生の原作漫画がありましたよね。『トリトン』製作時に手塚先生からこうしてくれ、と言われたことはありましたか?

富野 あるわけない。手塚先生は、当時ナンバーワンの漫画家です。僕にとっては尊敬する作家でもある。でも、あれだけ多数の作品を世に送り出していれば、作品に出来不出来はある。そして、『トリトン』は不出来な作品だったので、徹底的に作り直す、文句あるか!という態度で挑みました。

そのことに対して手塚先生からのクレームなどは一切ありませんでしたよ。それどころか原作漫画は、連載当初は『青いトリトン』というタイトルだったんだけど、アニメが放送され、単行本が出たときには『海のトリトン』になっていた。それを見た瞬間、手塚先生が自分の仕事を認めてくれた、と思いました。

そういえば『トリトン』を作り終わった後、先生にじかに会ったんです。ある映画の試写会で。上映が終わった後、手塚先生が2mくらい先から僕の顔を見て、「(今の映画)ひどかったね!」って。第一声がこれです(笑)。こうやって声をかけてくれたのは、僕が『トリトン』をやってたことを知っていたからだろうと感じました。

――でも手塚先生は、監督の『トリトン』に対してクリエイターとして意見は何か持っていたのかもしれませんね。

富野 そりゃそうです。映画はよく見る人だから。

――それを言わなかったのは手塚先生の覚悟ですよね。富野監督は、そのときの手塚先生と同じ立場・姿勢を「ハサウェイ」に対して取っているように見えます。

富野 なるほど......ありがとうございます。今、言われて初めて気づいたんだけど、そうか、僕は手塚先生と同じ立場になっちゃったんだな。それは大変うれしいことなんだけれども......イヤだなぁ(両手で顔を覆いながら)。そういう年齢になっちゃったんだなぁ。そうよね、もうすぐ80歳なんだし!

――ところで、4月に実写版ガンダムの報が流れました。こちらも富野監督が関与しない作品で、『閃光のハサウェイ』同様、さまざまな思いがあるのではないかと......。

富野 実写版に関しても、基本的にノーコメントなんだけれども、いろんなことがあったとだけは言わせてほしい。正直に言ってしまえば、富野に監督をやらせようという案が出なかったのはなぜなのか?と腹が立ちました。だけど、僕の年齢ではハリウッドで実写なんて撮れないよね、って実感もした。

実写映画は肉体労働なんです。学生時代に映画の現場でアルバイトをしたことがあるんだけど、映画のカメラマンや照明さんっていうのは、とてつもなく頑丈なの。

当時のカメラと照明機材、なまじの重さじゃないからね? それ持って彼らは平気で山登るんだよ? 実写映画というのはそういう世界なんです。今の僕には、そこまでの体力は残っていない。なので、もう少しお年寄りを大切にしましょう、と言わせてください(笑)。

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■『G−レコ』の世界観を使って新しい物語を描いてほしい

――一方、現在公開中の劇場版『Gのレコンギスタ V』「宇宙からの遺産」(以下、『G−レコ』)は監督自らが手がけた"富野純度100%"の作品です。ただ、監督は本作を「ガンダムではない」と公言されています。その理由を教えていただけますか?

富野 『G−レコ』とガンダムの大きな違いは、戦記物かどうかの違い、世界観の違いです。これまでの世界観のガンダムを作ろうとすると、戦場の名前が違うだけの同じようなお話になってしまう。しかも「宇宙世紀」は新しいお話が次々とできていて窮屈になっている。そこに新しい物語を入れるのは大変だし、興味もなかった。

だから、「宇宙世紀」から2000年がたった世界を想像してみたんです。人類は宇宙戦争で死滅しかけた。そこで生き残った連中が、歴史を取り戻していった......。そう考えたら、新しい物語を手に入れられると確信しました。

もともとテレビアニメシリーズの『G−レコ』は"子供番組"にしたかったのね。それは、まさに先の話にも通ずるところで、子供向けにすることで20年後、30年後も展開できる作品になるかもしれない。

「宇宙世紀」のファンは大人が多いから、彼らがいなくなったら途絶えてしまう可能性があるでしょ? できれば今の子供たちが大人になったとき、『G−レコ』の世界観を使って新しい物語を描いてほしいと考えています。

――どんなことを意識して世界を構築したのでしょうか?

富野 意識したのは、今の政治家、資本家、宇宙開発者は近未来の過酷さを考えていないってことです。本気で宇宙に進出して領土を確保しようと考えている人たちにわかってほしいのは、人類はアポロ計画でわずかな人数が月面に行って足が着いただけなのよ。

領地だなんだって考えるのバカじゃない? そもそも論として植民地にして何をするの? 宇宙で人が暮らすには空気と水が必要なんだよ? そこに移住して何年暮らせるの?ってことを何も考えていない。

しかも今の宇宙開発の、単発のロケットを打ち上げることしか考えられない人たちは、本気でお粗末です。ロケットエンジンはとても不自由でね。東京大学の先生にロシアのバイコヌール宇宙基地の話を聞いたんだけど、あの基地の周辺200qはロケット燃料の有害物質が落ちてるから人が住めないんだって。放射線よりもっと怖い物質がそこいらじゅうにあるらしい。

――最近、民間でのロケット打ち上げが活況ですが、ロケット燃料は地球環境を汚すと。

富野 そうです。しかも、よく考えてみてください。今のロケットじゃ1000人からの人間を月まで輸送できないでしょ? だから『G−レコ』では、地球環境を汚さず多くの人・物資を運ぶことのできる軌道エレベーター「キャピタル・タワー」を設定しました。

キャピタル・タワーはリニア・モーターの交通機関で、地球と宇宙を行ったり来たりしている。これが毎日運行していて、初めて物流が成立する。物流が成立するから人は暮らしていける。

そして、軌道エレベーターの途中に積荷を降ろすための駅を造った。ケーブル500qごとにナットという名の駅(人工衛星)を置きました。500qごとというのは、東京―大阪間の距離を想定しています。

その旅の途中に、何もなかったらさびしくない? 宇宙旅行だ、観光だなんていって、ずうっと窓の外見ても星座がバーッとあるだけ。そんなの3日もしたら飽きるでしょう。

『G−レコT』(劇場版『Gのレコンギスタ T』「行け!コア・ファイター」、2019年)の冒頭シーンでは、チアガールのおねーちゃんたちが足を上げているシーンが出てくるんだけど、あれは、そんなイベントでもないと宇宙旅行なんかやってられないよっていう意味なの(笑)。

それで話を戻すと、500qごとのナットの間を運行するのに、クラウンと呼ばれる5両編成のゴンドラを設定した。これでやっと宇宙に存在する物資を運ぶことができる。これ、実際に宇宙エレベーターを研究しているメンバーは思いついていないことなんです。それで宇宙と地球の物流をやろうだなんてふざけてますよ。だから、『G−レコ』ではそれを徹底的に思考しました。

――『G−レコ』がすごく未来志向の物語であることが理解できました! それでは監督、最後にひと言お願いできますか?

富野 ここ1年、コロナで世界が右往左往していますが、僕は、この一連の騒動は人類史にとってはいい経験、いい資料になると考えています。そうとらえていけば、今を乗り越えられると思えるし、気が狂わないで、人殺しをせず、平穏な暮らしを手に入れられるのではないかと想像します。その間にぜひ『G−レコ』シリーズをご愛顧ください。おじいちゃんが精魂込めて作ったんだ、見るんだよ!

●富野由悠季(とみの・よしゆき)
1941年生まれ、79歳。1964年、手塚治虫が設立したアニメーション制作会社「虫プロダクション」に入社。『鉄腕アトム』(63〜66年)などの演出や脚本に携わる。67年退社。79年に大ヒット作『機動戦士ガンダム』を作り、以後40年にわたって同シリーズは続編や関連作品が生み出され続けている。ガンダムシリーズ以外の監督作に『無敵超人ザンボット3』(77年)、『伝説巨神イデオン』(80年)、『ブレンパワード』(98年)、『OVERMANキングゲイナー』(02年)など

■富野印100%の最新作! 劇場版『Gのレコンギスタ V』「宇宙からの遺産」
総監督・脚本:富野由悠季 原作:矢立 肇 富野由悠季
声の出演:石井マーク、嶋村 侑、寿 美菜子、佐藤拓也ほか
上映時間:104分 全国公開中
2014〜15年に放送されたテレビシリーズ『ガンダム Gのレコンギスタ』を再構築した劇場版5部作の第3部。人類が生活圏を宇宙にまで広げた「宇宙世紀」からはるか未来、戦争で多くの科学技術やその知識が失われた「リギルド・センチュリー(R.C)」と呼ばれる時代。宇宙から地球にエネルギーを運ぶ「キャピタル・タワー」を守る組織「キャピタル・ガード」の候補生であり、モビルスーツ「G−セルフ」の操縦者である少年ベルリ・ゼナムの冒険を描く。本作ではスペースコロニー国家の「トワサンガ」が地球への帰還を目指す「レコンギスタ作戦」を開始。その一方で、キャピタル・タワーの終着点であり、地球と宇宙をつなぐザンクト・ポルトに地球内外の4勢力が集結し、それぞれの権利を主張していた
?創通・サンライズ

取材・文/尾谷幸憲 撮影/榊 智朗

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