AV引退を決意した川上奈々美が、自身の過去を赤裸々につづった小説で描くものとは?

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今年1月をもってAV女優業を、2月にストリッパー業を引退すると発表している川上奈々美。1月12日には自伝的小説『決めたのは全部、私だった』と、引退記念写真集『すべて光』が発売されたほか、現在は、渋谷ヒカリエ・ダイトカイの2拠点にて同タイトルの写真展が開催中(1月16日(日)まで)。さらに夏には、ドキュメンタリー映画『裸を脱いだ私』が完成予定だ。

これまで、Netflix配信ドラマ『全裸監督』や映画『東京の恋人』、『ゾッキ』などに出演しては、"AV界の演技派"と呼ばれるほど高い評価を受けてきた川上奈々美だが、今後は名前を「川上なな実」に改め、本格的に俳優として活動していくという。本インタビューでは、引退を決意したきっかけや、引退を機に小説や写真集などを発表した理由について話を聞いた。

* * *

――AV女優としてデビューされてから、10周年になります。この節目のタイミングで俳優業への専念を決めた理由は何だったんですか?

川上 コロナ禍になって、ふと将来の幸せについて考えたとき、気付いたんです。「いま私が本当にやりたいことは、俳優のお仕事だ」って。ずっと、意地でもAV女優業と俳優業を両立させるつもりで頑張ってきましたが、AV女優やストリッパーであることに甘えていた部分があったのも事実で。本気で俳優業に向き合うためにも、一度、演技に専念してみるのはどうだろう?と思うようになったんですよね。

ここ1〜2年、毎月開催させてもらっていたDVD発売イベントも中止が続きましたし、コロナ禍で引退するのは、正直ためらいもありました。でも、既に私の気持ちは、新しい方向に向いていたんです。AV業界で、やれるだけのことはやり尽くした実感もありましたしね。ただ、AV女優やストリッパーだった過去を消すわけではありません。むしろ、これからも「私はAV女優でした」と自信を持って公言していくつもりです。名前の漢字をちょっと変えましたけど、それは大人の事情なので(笑)。AV業界の楽しさとその裏側にあるリスク、またセックスを仕事にしてきた私だから伝えられる性のことなども、どんどん発信していこうと思っています。

――過去を肯定して新しいステージに進もうとされているのは、小説、写真集(写真展)、映画と、引退のタイミングでさまざまな作品を発表されていることからも伝わってきます。そもそも、これだけの作品に取り組もうと思ったのはなぜなんでしょう?

川上 私の夢は、"ひとりでも多くの人の心を動かす俳優になること"なんですよ。綺麗事に聞こえるかもしれませんが、私の活動で誰かが救われたら、私も救われた気持ちになれるし、それが私のいちばんの幸せなんです。AV女優を10年間続けられたのも、毎月のイベントで、私の活動を喜んでくださるファンの方にお会いできるのが嬉しかったからなので。
 
これまでは、AV女優、ストリッパーの活動を通して、主に男性ファンの方から応援していただいていました。今後は、さらに"ひとりでも多くの人"に私の存在を知ってもらう必要があります。だからこそ、いろいろと作品作りに挑戦させてもらうことにしたんですよね。多くの人が訪れる渋谷ヒカリエを写真展の会場に選んだのも、そのためです。ヒカリエの会場では、洋服を着た写真をメインに展示しているので、ヌードに抵抗のある女性の方も、お子さんも、気軽に見にきてほしいですね。

写真集『すべて光』より

――なるほど。表現が違えば、あらゆる角度から誰かの心に思いを届けられるかもしれないですもんね。
 
川上 そうですね。小説、写真集、ドキュメンタリー映画と全部タイトルが異なるのも、見せたい部分、伝えたいことがそれぞれ違うからで。自伝的小説は完全に私の視点ですけど、写真集(写真展)はクマコさん(写真家・熊谷直子)、ドキュメンタリー映画は監督のあつきちゃん(灯敦生)の視点から、私の存在に触れていただけます。その感じは、自分でも見ていて面白いくらいです。とはいえ、ちょっと欲張りすぎちゃいましたね(笑)。

――いやいや。引退して個人事務所を設立される、ただでさえ忙しい時期に、これだけの活動をされているのは、純粋に凄いですよ。

川上 ですよねぇ。本音を言うと、容量オーバー気味です(笑)。まぁ、結果的に引退のタイミングで発表させていただくものの、小説を書き始めたのも、クマコさんに写真を撮ってもらうようになったのも、引退を決意するずっと前だったんですよね。

――えっ、そうだったんですか?
 
川上 はい。まず小説は、担当編集者の方が私のサイン会にわざわざ足を運んでくださって、「小説、書きませんか?」と声をかけてくれたことが始まりでした。どうやら、私のインスタグラムの投稿を見て、写真と一緒に投稿してある熱いキャプションに興味を持ってくださったみたいで。「私、全然本読まないですけど大丈夫ですか?」みたいな感じで、スタートしたんですよね(笑)。

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――そんな偶然だったとは......。それにしても、すごく読みやすい小説でした。まるで映画のように情景が浮かんできましたし、心情の移り変わりも妙にリアルで。

川上 ありがとうございます! そうそう、映画的な書き方をしたんですよね。私、小説は読まなくても、映画の台本はよく読んでいるので。本を一冊読むのに相当時間がかかる私でさえも、2日くらいでサラッと読み返せちゃったので、小説を読み慣れていない方にも楽しんでいただきやすいんじゃないかと思います。あぁ、でも私に文才があれば、もっとカッコよく書けたんだろうなぁ(笑)。

――小説にも、すぐにカッコつけたがる性格だと書かれていましたね(笑)。個人的には、むしろ弱さを赤裸々に表現されているところにグッときましたよ。川上さんがAV業界で見てきた景色の凄まじさに驚きながらも、親近感を抱いたほどです。読んでいて何度も涙がこぼれました。

川上 本当ですか? そう言っていただけるのであれば、頑張った甲斐があります。幼少期のこと、AV業界という非日常的な環境で過ごした10年間のこと。振り返ってみると、何も考えずに生きては、たくさん人を傷付けてきました。それらを事細かに思い出すのは辛い作業でしたが、嘘を書くのは絶対に嫌だった。それでも、読んでくださる方に少しでも共感してもらえる部分があるといいなぁと、約2年半かけて書いた自伝的小説です。

グチャグチャな第一稿を書きあげるまでに約1年。その後は、目まぐるしい現在の日々を自分でまとめるのが困難だったため、信頼できる女性のライターさんに協力していただいて、泣きながら、ずっとリモートで話を聞いてもらっていました。私、おしゃべりなので、声に出すだけで不思議と気持ちが整理されていく感覚があるんですよ。こうして、過去と現在の自分と向き合えたおかげで、心がフッと楽になりました。引退の決意を固められたのも、この作業を乗り越えて、自分の素直な感情を見つけられたことが大きかったですね。

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――何の撮影かも知らされぬまま、気付いたらAV女優になっていた。そう人生を綴りながらも、自伝的小説のタイトルに「決めたのは全部、私だった」と付けられているのが印象的でした。

川上 実は、小説の表紙についている帯を取っていただくと、鎖骨あたりに「up to me」ってタトゥーが入っているんですよ。あっ、実際には入っていないですよ?(笑)意味は「私次第」。

お仕事で海外の方とお話させていただいたときに、よく言われた言葉が「ナナミ、アップ・トゥ・ユーだよ」なんです。そう言葉をかけられるたび、いかに自分がない状態でここまで来たかを痛感しました。自分の意思で何かを決めるのは、面倒だし、怖い。「日本人はプレッシャーに弱い」とよく聞きますけど、本当にその通りなのかなと。

それで、自分に言い聞かせる時の「アップ・トゥ・ミー」という語感の軽やかさに救われた自分もいて。日本語で「私次第」と言われるとどこか重たく感じるものの、英語で「アップ・トゥ・ミーだよ」って言われると、そんなに重く受け止めなくてもいいのかなぁと、スッと言葉が入ってきたんですよね。

――確かに日本語の「私次第」だと、より責任がのしかかる印象がありますね。
 
川上 自分の決断によるプレッシャーを面白がれたら。ユーモアを身に付けて生きていけたら。海外の方と触れ合い、「アップ・トゥ・ミー」の感覚を知ったとき、もっと豊かに、楽に生きる方法が分かった気がしました。私は何も考えずに生きていたから、悪循環に陥る一方でしたが、自分の意思を胸に刻んで行動していれば、よっぽどワガママでない限り、悪い方向には傾かないはずなんですよね。同じ意味の言葉でも、受け取る印象の違いはかなり重要です。英語を勉強していると、日本語にも、もっと軽やかなニュアンスの言葉があるといいのになぁと、つくづく思いますよ。

――とはいえ、「決めたのは全部、私だった」と日本語で自伝的小説のタイトルを掲げられたのは、AV女優として活動してきた10年間を肯定する思いがあってのことなのでは?

川上 まさしくそうです。この小説をひとつ書きあげるのに2年を費やしたほど、自分と向き合う作業は面倒だし、苦労もあります。でも、その作業の先に辿り着いたのは、"当時、取り返しのつかない状況に自分を追い込んでいたのは、意思をしっかり持たぬままでいた自分だった" ということ。それに気付けたら、あとはそこを修正していくだけなんですよね。

今は個人事務所を立ち上げて、これまで遠ざけてきた面倒ごととも一から向き合っています。大変ではありますが、ひとつひとつの悩みを、気合いじゃなく、心から解消できている実感があるので、とても清々しいですよ。10年頑張り続ければ、どんな状況も必ず乗り越えられるし、本当の自分を見抜いてくれる人とも必ず出会える。それは、私が身をもって実感したこと。この小説が、読んでくださる方や、いまAV業界で悩みを抱えている後輩女優ちゃんたちへのポジティブなメッセージになるとうれしいですね。

●後編⇒川上奈々美の喜怒哀楽、すべてを詰め込んだ写真集が発売「最後の撮影を終えたとき、写真に写っている私は、新しい表情をしていました」

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●川上なな実(かわかみ・ななみ)
女優。2012年1月にAVデビュー。15年5月、浅草ロック座でストリップデビュー。同年9月から「恵比寿マスカッツ」加入し、17年7月まで副キャップを務める。AV、ストリッパー、アイドル活動以外にもドラマや映画に多く出演。2019年に出演した「全裸監督」での演技が話題に。2022年2月にAV女優、ストリッパーを引退し、俳優業に専念することを宣言した

〇写真展「すべて光」1月16日(日)まで渋谷ヒカリエ&BARダイトカイ2会場で開催中
〇浅草ロック座川上奈々美引退公演「ファイナルストリップツアー」2月1日〜28日
〇川上なな実ドキュメンタリー映画「裸を脱いだ私」2023年公開予定

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■写真集「すべて光」

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■自伝小説「決めたのは全部、私だった」

取材・文/とり 撮影/熊谷直子

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