今年は進化の予感......イマイチ地味な『R−1グランプリ2022』で『M−1』くらい盛り上がる方法

第17回(2019年)優勝者の霜降り明星・粗品(右)と第14回(2016年)優勝者のハリウッドザコシショウ

錦鯉の優勝に沸いた『M−1』。空気階段らコント芸人たちの意地を見た『KOC』。本来そこに並ぶはずの『R−1グランプリ』(3月6日放送予定)だが、世間の期待度は高くない。それはいったいなぜなのか。原因を解明するとともに今年の注目ポイントをお笑い識者に直撃した!

■大失敗に終わった『R−1 2021』

日本一のピン芸人を決める『R−1グランプリ』。今年20周年を迎える本大会だが、『M−1グランプリ』や『キングオブコント』に比べてイマイチ盛り上がりに欠けるような......。そこで! お笑い識者に今年の楽しみ方を聞いた!

「まず今大会で注目すべきは、前回大会の失敗を取り返せるかどうかでしょう」

そう話すのはお笑い研究家の鈴木旭(あきら)氏。前回大会の失敗とは?

「昨年の『R−1』は、業界関係者と視聴者のどちらからも不評だったと言わざるをえません。というのも、昨年は大きくリニューアルしようと、さまざまな変更があったんです。まずは審査員の顔ぶれ。

これまで関根勤さんや桂文枝さん、久本雅美さんなど、ピン芸人界のレジェンドたちが起用されていました。そこから麒麟(きりん)の川島明さんや小坂大魔王さん、かつての優勝者である野田クリスタルさんやハリウッドザコシショウさんに変更。

また、『M−1』に寄せたのか、ポップだったタイトルロゴをスタイリッシュなものに。大会名もひらがな表記の『R−1ぐらんぷり』からカタカナに変更したり、人気ヒップホップユニットCreepy Nutsにテーマ曲を依頼したり......と、全体的に若年層をターゲットに絞ったリニューアルが行なわれました」

しかし数々の施策もむなしく、放送は大荒れだった。

「生放送のタイムキープが至らず、出場者と審査員のコメントがほぼないなどアラが目立ちました。極めつきは、優勝者ゆりやんレトリィバァの1本目ネタの再放送。ゆりやんが感動の涙を流すなか、もう一度フル尺でネタを見せる意図がわからなかった。その時間の分、ゆりやんの優勝コメントや審査内容を聞くべきだったと思います」(鈴木氏)

前回大会の平均視聴率は6.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区、リアルタイム、世帯、以下同)。同年12月に放送された『M−1グランプリ2021』が18.5%、同年10月に放送された『キングオブコント2021』が12.4%であることを考えても、『R−1』は完敗を喫したといえる。お笑い賞レースに精通する放送作家は「昨年の失敗は結果論ではなく、本番前から始まっていた」と話す。

「リニューアルのなかで特に大きかった変更は、これまで原則存在しなかった出場資格をプロ芸歴10年以内に改定したこと。今までピン芸ができる芸人なら誰でもよしとされてきたこの大会が急に新人戦となったんです。

長年にわたって『R−1』を支えてきたのは『R−1戦士』と呼ばれる芸歴の長いピン芸人たち。せめてルール変更を翌年にするなどして、ラストイヤーを戦わせてあげるべきだったと思います。

彼らは一夜にして『R−1』への出場権を失ったワケですから。今まで誰がこの番組を引っ張ってきたのかを制作側は忘れたのか?と疑いたくなりました。いくら若返りを図るといえ、これではよい変化が生まれるわけがないでしょう」

また、ピン芸人における"芸歴"の定義も問題だという。

「ピン芸人はコンビ解散などを経てピンに行きつくというパターンもありますから、ピン芸人にとっての芸歴10年以下は相当難しいハードルです。ピン芸の多くは、解散や迷走などの紆余(うよ)曲折を経てやっと見つけられる芸なので、漫才師やコント師の『コンビ歴=芸歴』とはワケが違います」

昨年の『M−1』では、当時芸歴26年の長谷川雅紀と21年の渡辺隆が組んだ錦鯉(にしきごい)が王者に輝いているが、これはコンビとして結成9年目だったからこそ出場が叶(かな)ったもの。プロ芸歴10年という制限はピン芸人にとって厳しいものであることがわかる。

今年の『R−1』は番宣のCMやポスターなどで『東京卍リベンジャーズ』とコラボもしている。文字どおり昨年の"リベンジ"をするためという読みもあるようだ。

「昨年の失敗からどう改善するのか。まずはそこに注目して見ることで盛り上がれると思いますよ!(笑)」(鈴木氏)

■漫才やコントより難しい"ピン芸"

そもそもなぜ『R−1』は『M−1』や『KOC』に並べないのか――。その要因について鈴木氏はこう語る。

「とにもかくにも漫才やコントに比べてピン芸が難しいこと。しかも、ピン芸って"ジャンル"ではないじゃないですか。漫才ならセンターマイクの前に立って、複数人で話を繰り広げるという型があるし、コントなら必要な小道具をそろえて演じるという型がある。

でもピン芸のくくりでは、フリップ芸、漫談、コント、歌ネタなどジャンルが混在してしまう。つまり、それぞれのネタをどう評価すべきかが難しいんです。

視聴者の印象に残りにくいのも仕方ありません。ハリウッドザコシショウさんやアキラ100%さんは、芸の面白さはもちろん、キャラクターや見た目のインパクトも含めて評価されたのではないでしょうか」

『R−1』のネタ時間が3分と短いこともピン芸人を苦しめている。

「4分ならばボケの前フリを丁寧に作ることもできますし、ネタの後半にもひねった展開を作れるもの。でも、3分となったらどうしても手数が必要になってしまって、その結果、フリップネタのように一瞬で伝わりやすくてボケが量産できるネタが増えてしまいます。近年フリップネタを持ち込む芸人が多いのは否めません」(前出・放送作家)

今年もフリップ芸人が多数決勝戦に進出している。

「『R−1』においてフリップ芸はもう定番中の定番で目新しさはありません。前回大会で話題になったZAZYさんは大きなフリップを4セットそろえるなど試行錯誤していますが、"フリップ芸の光明"とまでは言い難い。

野田クリスタルさんのゲームネタのように、ピン芸に新しいジャンルを生み出さなければほかの芸人との差異化がしづらいとなると、ピン芸人たちは苦しいでしょう」(鈴木氏)

『R−1グランプリ2022』の決勝進出者

では、『R−1』がどうなれば、われわれは『M−1』や『KOC』と同じようなテンションで楽しめるのか?

「例えばですが、フリップネタ、歌ネタ、漫談、コントなどジャンルごとに予選を行ない、それぞれの分野で勝ち抜いた人たちが決勝の舞台に集結する。ジャンル不詳のブロックも用意しつつ、異種格闘技戦を前提とした『R−1』であれば視聴者も比較しやすい気がします。

出場する芸人も『まずはこのブロックの1位を狙おう』と目標を定めやすくなるでしょう。『M−1』は歴史があるし、出たいがために漫才師になった芸人も多くいます。観客も新しいネタを求めて『M−1』を視聴するという良いサイクルがある。

一方で、『KOC』は、当初どうしても『M−1』より見劣りする部分があったけど、若手コント師たちの『コント師の一番もすごいんだ!』という意識が特に昨年大会に表れて功を奏した印象です。今は『M−1』と肩を並べる賞レースとして確立しました。

『R−1』もブランディング次第で化ける可能性はありますが、今年はまだ運営側がちゃんとやれるのかという、メタ的な楽しみ方が主流になると思います」(鈴木氏)

■番組の救世主はバカリズム?

しかし、そんな期待値の低い『R−1』が今年急激に改善するかもしれない。その鍵を握るのは審査員だと鈴木氏は話す。

「今年は陣内智則さんが5年連続で務めることが発表されているほか、これまでに大きな賞レースの審査員を引き受けたことがないバカリズムさんが初めて名前を連ねることも発表されています」

バカリズムは『R−1』に2006年から10年まで5年連続で出場している。前出の放送作家も「『R−1』にはイマイチ興味がわかずとも、バカリズムさんの審査が見られるならと価値を感じる視聴者も多いのでは」と太鼓判。

「ピン芸人として圧倒的な実力があるバカリズムさんが審査員を引き受けてくれたのは、『R−1』としてもいい兆しであることは間違いありません。正直、ピン芸人って、ピン芸以外で売れていくことが多いんです。キャラクターを生かしてバラエティ番組で活躍したり、俳優として活躍したり。

対してバカリズムさんは今でもネタライブをやればハコを埋められる力がある。トーク力や瞬発力もありますけど、ピン芸で生きていく能力があります。バカリズムさんには切れ味のある鋭い審査を期待したいです。

審査員ひとつとっても、『R−1』と『M−1』『KOC』とを隔てる壁になっています。『M−1』には絶対的な存在として審査員数名が大会に君臨していて、もはや番組の顔になってますし、その顔ぶれもレジェンドぞろい。『KOC』も紆余曲折ありましたが、現在は『M−1』に近い形になってますよね。

これまでの『R−1』の審査はどちらかというとホメる審査で、『M−1』のような辛口コメントは見られませんでした。ここにバカリズムさんが入ることで、大会全体の緊張感も生まれるはず。また、いまだに斬新な切り口でネタを作り続けているピン芸人ならではの視点が加わることで、出場者の意識も変わってきそうですね」(鈴木氏)

もしかしたら今年『R−1』は進化するかも......?

取材・文/山口真央 写真/時事通信社

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