「対ロシア強硬姿勢へ」と「戦争に巻き込まれたくない」の間で揺れ動く欧州

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『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、ロシアとウクライナ冷戦終結後の安全保障政策を見直す欧州各国の動きについてを解説する。

(この記事は、3月14日発売の『週刊プレイボーイ13号』に掲載されたものです)

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ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、欧州各国はそれまでの安全保障政策を見直さざるをえない状況になった。

なかでも目立つのがドイツだ。ウクライナに地対空ミサイル「スティンガー」500発ほかを供与するなど、紛争国への武器供与を禁じる長年の方針を大きく転換。また、ショルツ首相は自国の防衛費を国内総生産(GDP)比で2%以上へと大幅に引き上げる方針を表明した。

この防衛費の大幅増は、それまでアメリカに求められても断り続けてきたことだったが、戦後ドイツの安全保障策は大きく変わることになった。

ほかにも永世中立国・スイスが対ロシア制裁に同調したり、戦争が起きても中立の立場を貫く「軍事的非同盟」策を取ってきたフィンランド、スウェーデンの北欧2ヵ国がウクライナへの武器供与を決めたりするなど、異例の対応が目立つ。

こうして見ると、欧州各国はこぞって冷戦終結後の安全保障政策を変更し、ロシア敵視の新冷戦モードに急速に転換しているように見える。だが、注意深く動向を読むと、事はそう単純ではない。

例えば北大西洋条約機構(NATO)はウクライナからの軍隊派遣要請にはまったく応じる気配がない。また、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの侵攻が始まった直後の2月28日、欧州連合(EU)への加盟を申請する書類に署名したが、欧州委員会は「長い時間が必要だ」と早期加盟を否定した。

ここに共通するのは、欧州全体がロシアを過度に刺激する行動を極力避けていることだ。その酷薄にさえ感じる態度の裏にあるのは「戦争に巻き込まれるのだけはゴメンだ」という各国の本音だ。それを最優先に、欧州はギリギリの努力を続けている。

そんななかで、3月6日に東欧のポーランドをめぐって、こんなやりとりがあった。ウクライナはNATOに戦闘機の供与を強く求めているが、そのリクエストに対してブリンケン米国務長官はこんなアイデアを披露した。

「ポーランド空軍の旧ソ連製戦闘機を供与する」

ウクライナ空軍のパイロットはF16などの米国製の機体をすぐには操縦できない。そこで彼らが操縦に慣れている旧ソ連製戦闘機を提供し、ポーランドには米製のF16を配備してウクライナに供与した戦闘機の穴埋めをすればよいという内容だ。

ところが、ポーランドは即座に冷や水を浴びせる。同国の首相府がツイッター上で「戦闘機は供与しないし、国内の空港の使用も許可しない」と否定してみせたのだ。

ポーランドは帝政ロシアに分割支配を受けた歴史がある。軽々しく戦闘機をウクライナに供与すればロシアから攻撃を受けないとも限らない。ポーランド首相府は、自国が戦場になるリスクを恐れたわけだ。

こうした欧州各国の動きには日本にとっても学ぶことが多い。日本でも中国が台湾を侵攻する「台湾有事」の際は、アメリカと一緒に台湾を助けるべきだという声が高まっている。敵基地攻撃能力保有どころか非核三原則見直しという勇ましい議論も出るほどだ。

確かに、日本でも欧州のような安全保障政策の見直しが必要だろう。ただし、その際大事なことは戦争に巻き込まれないことを最優先し、ポーランドのように、同盟国アメリカにも毅然(きぜん)とした対応をとる姿勢ではないだろうか。

●古賀茂明(こが・しげあき) 
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。『日本中枢の狂謀』(講談社)など著書多数。ウェブサイト『DMMオンラインサロン』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中。最新刊『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社)が発売中。

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