中国で大人気の日本人ドキュメンタリー監督がぎりぎりまで踏み込んで感じた「本当の中国」とは?

「『このラインを越えたら大バッシングを食らい、活動できなくなる』という境界線はわかっているので。そこがわからないと地雷を踏んでしまい、明日から中国にいられなくなるでしょう」と語る竹内亮氏

定年後に中国の農村に渡り、有機農法を指導するインフルエンサーとなった日本人、歌舞伎町の案内人から身を起こし、統一地方選挙に出馬した「元」中国人など、本書には中国と日本の架け橋となるような人々が何人も登場する。彼ら彼女らに密着取材し、現代中国の姿を生き生きと見せてくれる著者自身が、こうした"架僑(かきょう)"のひとりだ。

著者の竹内亮(りょう)氏はドキュメンタリー監督。日本で『ガイアの夜明け』(テレビ東京)などの番組を手がけた後、中国へ移住し、映像制作会社「和之夢」を設立。2020年には、ロックダウン解除直後の武漢を取材し、『好久不見、武漢(お久しぶりです、武漢)』を配信して大ヒットを記録した。

『架僑 中国を第二の故郷にした日本人』は彼の看板シリーズ『我住在這里的理由(私がここに住む理由)』の取材体験を基にした、初の日本語書き下ろし作品だ。早くも中国語訳発刊のオファーが殺到しているという、南京在住の竹内氏に話を聞いた。

* * *

――竹内さんは現在、ウェイボー(微博/中国版のツイッター)のフォロワーが470万人を超える人気監督です。中国ではすでに語り下ろしの著作が複数あるとのことですが、今回日本語での書き下ろしを出された動機をお聞かせください。

竹内 日本の人たちにもっと中国のことを知ってもらいたい。それが一番の動機です。日本の方は本当の中国をわかっていない人が多いので。メディアがネガティブに報じるから、それに毒されている印象です。

――私も読んでイメージが変わり、中国へ行きたくなりました。

竹内 それはうれしいです。

――南京に設立された「和之夢」の社名にはどんな思いが込められているのでしょうか?

竹内 日中の相互理解につながる作品を撮るつもりでこの会社を立ち上げたので、平和の和。プラス、日本という意味での和。和の心ですね。それを中国人に伝えたい思いとか、いろいろあります。

――本書のタイトルにもなった"架僑"という造語もそうですが、漢字文化圏のよしみを感じさせるすてきなネーミングです。

竹内 日本人はもちろん、中国人のファンの方にも「いいね」と言われます。「ひと目で意味が伝わります」と。

――ご自身を含めた"架僑"の活躍を追う本書には、随所に現代中国人の価値観や人情に関する説明が盛り込まれています。「中国人をこんなふうに書いて大丈夫かな」と気兼ねすることはありませんでしたか?

竹内 そこは大丈夫です。中国でメディア活動してもう7年になるので、「このラインを越えたら大バッシングを食らい、活動できなくなる」という境界線はわかっているので。そこがわかっていないと地雷を踏んでしまい、明日から中国にいられなくなるでしょう。だけど、ぎりぎりのところまでは踏み込まないと、いい作品は撮れません。

そこは見極めが大事で、今は僕ひとりではなく、「この話題はちょっと敏感だな」と思ったら社員全員に見せて、「ここまでならOK、これ以上言うとNG」と確認しています。

――『お久しぶりです、武漢』を拝見しましたが、制作時、武漢現地取材の案には社員の方々が皆反対したそうですね。

竹内 ロックダウン解除直後で、メディアにも取り上げられず、安全なのかどうかわからない状況だったので無理もありません。でも単純にひとりのドキュメンタリストとしての好奇心が勝り、行くことにしました。

事前にSNSで取材に応じてくれる人を募集すると、多すぎるくらいの応募が来て「今の武漢を知ってほしい」という強い思いを感じましたね。それが作品に生きていると思います。

――感動しました。取材の相手は監督とは初対面の方々ばかりなのに、一気に距離が近くなっているのが印象的でした。

竹内 もともと僕のフォロワーですからね。どんな作品を作ってきたかわかっているので、信頼関係ができているのです。この本で紹介した人たちもそうで、だいたい取材相手とは仲良くなるので、今では中国全土に友達がいます。

日本のテレビでドキュメンタリーを撮っていたときは、取材相手は僕を、例えば「『ガイアの夜明け』のディレクターさん」として見るんですね。親しくなることもありますが、関係性が違います。また、相手が企業さんだと「宣伝になるぞ」みたいな打算も働くでしょう。

でも今はフォロワーを取材しているわけで、ファンと一緒に作っている感じです。SNS時代のドキュメンタリーの作り方といえるでしょう。

――なかには竹内監督の作品に登場したことで有名になった方もいるのではないでしょうか?

竹内 いっぱいいますよ。人生を変えてしまったパターンもけっこうあります(笑)。例えばこの本にも書いた、深?(しんせん)で起業した青年のひとりは、取材当時まだサラリーマンでした。ところがその回がバズって、中国で知られるようになり、やがて独立して起業しました。

――背中を押した形ですね。変化と競争が激しい現代中国のノリも影響してそうです。

竹内 そのとおりです。こっちは、波に乗った者勝ちみたいなところがありますから。

――現代の中国に社会主義らしさを感じる場面はありますか?

竹内 生活している分には特になく、日本と同じです。ただ、非常事態になるとやはり社会主義の顔が出てきますね。コロナ禍でそれを強く感じました。全市民のPCR検査とか。

――南京の現在の状況は?

竹内 こっちは通常ですよ。マスクもしていません。南京は感染者数ゼロが続いているので(3月7日時点)。

今は深?で警戒が厳しくなっています。隣り合わせの香港で感染が拡大しているから。そこら中に臨時のPCR検査場があり、毎朝検査してるそうです。

また、深?ではドローンでPCR検査の検体を運んでいます。先日取材してきましたよ。検査場から病院まで、少しでも早く確実に運べるから、もうバンバン飛ばしてました。

――最後に、次回作の展望をお聞かせください。

竹内 次は旅モノのドキュメンタリーを撮っています。長江の源流から河口まで6300qを走破しようと思って。前にNHKの番組で旅したことがあるのですが、それから10年たち、どのように変化したのかを、一本の大河を通じて見ていきたいです。よかったらご覧ください。

●竹内 亮(たけうち・りょう)
1978年生まれ、千葉県出身。中国・南京在住。ドキュメンタリー監督として、テレビ番組の企画・演出を手がける。テレビ東京『ガイアの夜明け』『未来世紀ジパング』、NHK 『世界遺産』『長江 天と地の大紀行』などを制作。2007年にギャラクシー作品賞を受賞。2013年に中国に移住し、翌年南京市で映像制作会社「和之夢文化伝播有限公司」を設立。15年『我住在這里的理由(私がここに住む理由)』の制作を開始。日本に住む中国人、中国に住む日本人の視点から、それぞれの国の社会を伝える番組で、200人近くを取り上げてきた

■『架僑 中国を第二の故郷にした日本人』
KADOKAWA 1870円(税込)
中国在住の竹内亮監督による、累計再生回数6億回超えのドキュメンタリー番組『我住在這里的理由(私がここに住む理由)』。この番組では、2015年より日本に住む中国人と中国に住む日本人、約200人が登場。本書は特に濃い人を厳選し、竹内氏がカメラをペンに持ち替えて描いたルポである。中国式漫画ビジネスに挑む漫画家、定年退職後に語学力ゼロでカレー屋を興した男など、中国で奮闘する日本人が見た現実、彼らから見える実態とは――
本人襲撃_竹内亮2.jpg

取材・文/前川仁之

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