平成という時代を生きた30歳に独占直撃!【さらば平成!第6回】おばたのお兄さん「パコーンって"跳ねた"あの瞬間」

平成という時代を生きた30歳に独占直撃!【さらば平成!第6回】おばたのお兄さん「パコーンって"跳ねた"あの瞬間」

『さらば平成』第6弾後編。階段でも「ま〜きの」ポーズをしてくれるおばたのお兄さん

今年度に30歳を迎える"黄金世代"の半生と共に平成をふり返る連載企画 『さらば平成!』。第6回はお笑い芸人・おばたのお兄さん。

あらゆるスポーツに対し才能を開花させてしまう器用さと、それがゆえにぶつかる挫折感については、前編にて触れた。そんななか、内定を蹴ってまで、お笑い芸人の道を目指したおばたがブレイクに至るまで直面したいくつもの苦難とは――。

* * *

「『芸人になりたい』と突然言いだしたから、親族からは猛反対されましたね。一回は僕も折れて、普通の社会人になることに決めたんです」

「芸人さんに関われるから」という理由で選んだのは、テレビ番組の制作会社。しかしこれが見事なまでの逆効果だった。内定後の研修に向かったおばたは業務中、制作スタッフ見習いとして何組ものお笑い芸人と接することになる。裏方として彼らと関わるうちに再燃する芸人への憧れ。結局おばたは入社2週間前、逃げるように内定辞退。そこからはしばらくライフグラフが低迷する時期が続く。

「大学は卒業したものの、NSCに入学するお金がなくて。だから毎朝4時半に起きて、アルバイトいくつもかけ持ちしてました。毎月20万ちょっと稼いで、一日700円で生活して、1年で150万円ためましたね」

いかなモチベーションがあれど、周囲が就職し家庭を築いていくなかでの「700円生活」は常人にはおよそ不可能といっていい。しかも、これまで経験してこなかったお笑いの世界――それもまだ初めの一歩であるNSCの門を叩くため――への準備段階にすぎない。

学生時代、素人ながら飛び込んだR−1ぐらんぷりの予選。その真剣勝負の場、自身の出番直前で爆笑をかっさらった鈴木Q太郎。そして、自身のネタで静まり返った会場を再び沸かせた友近。ふたりのステージをすぐそばで見ていたおばたとはいえ、艱難辛苦(かんなんしんく)の生活を支えていたものはなんだったのか。

「意地ですよ。内定蹴ったときは兄と母に泣きながら反対されたんですけど、やっぱりあの(Q太郎さんと友近さんの)爆笑を目の前で見ると、ね......」

そう言いながら、おばたはライフグラフを書く手を止めた。赤いサインペンで記された丁寧な筆跡。先生に添削をされているような気分になると共に、彼が中学・高校の教員免許を持っていることを思い出した。

こうして2012年、おばたは晴れて18期生として東京NSCへと入学する。同期にはひょっこりはん、"無駄づくり"で知られる藤原麻里菜などテレビで活躍する芸能人も多い。そう言うと、「あとレインボーも。大阪NSCだとガンバレルーヤとか」と補足してくれた。

「NSCには『なんとなく』で入ってきたやつが多かったんで、僕は体育会系出身なこともあってか闘争心むき出しでしたね。周りからしたら、トガってて近寄りがたかったんじゃないかな」

「R−1ぐらんぷりで思いのほかスベった」という動機こそ「なんとなく」ではないのか。インタビュー前であればそう感じたかもしれないが、おばたの並々ならぬ"意地"が、学生時代のささやかな思い出を単なるセンチメンタリズムとして終わらせなかったことは今では必然に思える。

現在の人当たりの良さそうな彼からは想像もつかないが、人並み外れたモチベーション走り続けてきた当時のおばたからすれば、周囲の芸人の卵たちなど"ぬるく"感じられたのだろう。

――などと考えていると、「そういえば僕、この頃『週刊プレイボーイ』さんの取材受けてるんですよ」と指摘され、少々慌(あわ)てた。取材に際し、彼の過去インタビューにはすべて目を通していたはずだったが、まさか自社の記事を見逃していたとは。

「2012年だったかな。NSC大阪校と東京校の同期生が合同で合宿を行なったんですが、それに潜入して記事を書いてもらって。みんなでモノボケしたり、与えられたお題でネタつくったり、僕はなぜかずっと青鬼のコスプレしてましたね。そこでズバ抜けていたのはやっぱり、ゆりやん(レトリィバァ)かな」

梅花はつぼめるに香あり。才ある者は若くしてその能力を発揮するというが、彼女は"とがっていた"というおばたも舌を巻くほどの実力であったらしい。ちなみに取材後、件(くだん)の潜入記事を探してみたところ、確かにおばたを指していると思しき箇所があった。

「青鬼(中略)などなど個性的な面々が」という十把(じっぱ)一絡げの一文。6年前、おばたはまだまだ雌伏(しふく)の時だったことがうかがえるが、芸人1年目であることを考慮すれば当然といえよう。しかし、むろんおばたがそのポジションで満足するはずはない。

「デビューして1年足らずで、(主に若手芸人がライブを行なう)ヨシモト∞(無限大)ホールのランキングでトップになったんですよ。10ヵ月で一番になったのは史上最速らしいんです」

少し誇らしげにおばたはそう語る。あまり知られていないが、彼はNSCの同期・池田直人とのコンビ「ひので」としてデビュー。ランキングトップになったのはひので時代の話であり、解散するまでの彼らのネタは、同期では群を抜いて"ウケて"いた。"草相撲"を少年マンガのテンプレートで再構成した「草相撲バトラー」や、女性に手品を見せることに快感を見いだす「サイコパス手品師」など、ネタの完成度だけでいえば1年目とは思えないレベルに達していた。しかし......。

「池田は『調子いいなあ』って言ってたんですよね、当時。でも僕は不満だった。テレビとか全然出られないし」

史上最速で吉本若手のトップに立つ。紛れもなく「調子いい」のだろうが、そこに甘んじないのが克己(こっき)心の塊であるおばたである。結局、漫才師としてネタを磨くことを優先させたい池田と、地上波番組への殴りこみを一番に考えるおばたは決裂し、コンビ解散に至る。2016年、イギリスが欧州連合から離脱し、米大統領選ではドナルド・トランプが凱歌(がいか)を上げるなど、世界情勢も大きく変化した年だ。

「解散したとき、相方とは同期で一番仲良かったこともあって、正直複雑でしたけどね。まあ、今では正直なんとも思わないですけど」

そう淡々と語るおばただが、内心では元相方のことを誰よりも気にかけているのだろう。テレビで活躍している同期芸人を筆者が挙げた際、「あと、レインボーも」と付け足すことを彼は忘れなかった。池田は現在、実方(じつかた)孝生とのコンビ・レインボーとして活動している。

「ピン芸人としての転機は、2017年1月の『爆笑そっくりものまね紅白歌合戦スペシャル』。『いろんな芸能人でPPAP』っていうネタで、小栗旬さんをはじめいろんな方の物まねをやったんですが、とにかくウケた。オンエア後、いろんな芸能人がSNSでつぶやいてくれたりして、パコーンって"跳ねた"んですよね」

「巨人が水面を大きな手でバッシャーンって叩く感じ」と、沸き立つ収録会場の様子を表現するおばた。余談だが、後に夫人となるフジテレビ・山ア夕貴アナウンサーも手を叩いて笑っている。もともと、ひので時代の単独ライブのトークなどで披露していたという「小栗旬ネタ」が、4年の歳月を経て花開いた瞬間だった。

「今では本物......ていうか、小栗旬さん本人が2ショットを撮らせてくれたり、電話で連絡くれたり、本当にありがたい限りですよね」

しみじみとそう振り返るおばたは、先のブレイクでSNSの力を身をもって実感している。インスタグラムでもショートネタを連投し、ツイッターの更新も手を抜かない。

「インスタで『パーソナルジムに通いすぎてる女子』っていうネタを上げてるんですが、けっこう反響が大きいんですよ。今、ジムに通って鍛えた体をSNSに投稿する女子、多いでしょ? ああいうのってみんなイジりたいけど、うまいイジり方がわからなかったと思うんですよね。

わからない、ということはつまり、"需要"がある。僕が芸人としてイジってあげることで、みんなモヤモヤとした『ジム系女子に感じるストレス』から開放されている部分もあるんじゃないかな。普通の人が『言語化できない』ところをうまくイジってあげる、そこにお笑いとしての需要があると思うんです」

SNSの投稿ひとつとってもおばたは手を抜かない。確固たる理論に耳を傾けていると、数年前、おばたが「自分に酔っているジムのパーソナルトレーナー」というネタを劇場で披露していたことを思い出した。正直、あまりウケてはいなかったが。

「あ、確かにやってましたね」。筆者の指摘に、数秒の間を置いておばたはつぶやいた。「いろいろやってると、役に立つんだなあ」――「ジムに通いすぎてる女子」は吉岡里帆や仲里依紗といった女優陣にもファンが多いのだ、とおばたは顔をほころばせ教えてくれた。

取材後、これから山アアナと過ごすんですか、という少々下世話な問いかけに、彼は笑って「この後『吉本坂46』の選抜メンバー発表なんです。僕もマネジャーも結果知らないから、緊張しちゃう」。吉本坂46とは、秋元康プロデュースによる坂道シリーズ第3弾として結成された音楽ユニットである。おばたが敬愛するはんにゃの金田哲、R−1ぐらんぷり覇者・なだぎ武、ゆりやんレトリィバァといったそうそうたる面子から、16人の1stシングル選抜メンバーが発表されるらしい。

インタビュー前編で、おばたと出身を同じくする能の大家・世阿弥(ぜあみ)の『風姿花伝』から「一芸に秀でよ」という格言を引いた。「まーきのっ」という一本槍を研ぎ続けたおばたは、取材を終えた2時間後、見事吉本坂46の選抜メンバーに選ばれ、年末のメジャーCDデビューが決定。「一芸に秀でよ」という一文、その後「一芸は万芸に通ず」と続くことを、おばたのお兄さんは知っていたのかどうか、果たして。

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おばたのお兄さんおばたのおにいさん
1988年6月5日生まれ、新潟県出身。吉本興業所属(NSC東京校18期生)。選抜メンバーに選出された音楽ユニット「吉本坂46」が『泣かせてくれよ』で2018年12月26日メジャーデビュー。公式Instagram【@bataninmari】

取材・文/結城紫雄 撮影/鈴木大喜

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