ウクライナで日本人写真家が見た惨状。首都郊外、戦火と虐殺の跡。

ウクライナ・ブチャ市内の様子(4月4日撮影)

ロシアによるウクライナ侵攻から1ヵ月あまり。ウクライナ軍の猛烈な抵抗に遭ったロシア軍は、首都キーウ周辺から一時撤退した。それにより、ロシア軍から解放された近郊の町、ブチャだが、残されたのはあまりに無残な光景だった。報道写真家・八尋伸氏が現地から伝える。

※この記事には、遺体を写したショッキングな表現の写真が掲載されています。ご了承の上、ご覧ください。

※4月11日発売の『週刊プレイボーイ』17号に掲載の記事より、写真を入れ替え再構成したものを配信しています。

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写真家・八尋伸氏は3月31日にポーランドから国境を超え、夜行バスでウクライナ西部の街・リビウに入った。そこで情報を集めた後、列車を使って首都・キーウに到着したのは4月1日の21時過ぎだった。

「通常だと6〜7時間の予定でしたが、おそらく侵攻の影響でしょう、途中、低速運行になったりと遅れが出て、結局10時間ほどかかりました。キーウ到着時は外出禁止令(21時〜翌朝6時)が出ていたので、駅から動けずにその場にとどまり続ける乗客も多く、その人たちを取材しながら私も夜を明かしました。乗客の多くはキーウを離れていた避難民で、ロシア軍撤退の報を聞いて戻ってきたと語っていました」

数々の戦場取材経験のある八尋氏ですら、「(避難民が)どうしてここに戻ってこようと思うのか不思議に思うほどの惨状」と語るブチャ市内の様子(4月4日撮影)

キーウは現在、比較的安全だと八尋氏は言う。

「私はキーウ中心部のメディアセンター付近のホテルに滞在していますが、レストランも開いているところはあるし、スーパーで食料を調達することもできます。リビウからの列車が動いているように、主要な交通機関もある程度機能しています。ロシア軍が侵攻後の統治の際のことを考え、あえて攻撃を避けたためでしょう。

また、ヨーロッパは民間の支援機関が非常に発達していて、市民に配給を行なうなど、生活を再開させるためのさまざまな援助が始まっています。

しかし、 キーウから車で30分ほどの町、ブチャの付近の森林地帯などには、まだロシア軍の兵が残っているという情報もあり、ウクライナ陸軍がパトロールを続けている状況です。ブチャの町なかはある程度自由に動けますが、軍によって取材規制が敷かれている区画も多く、報道できる内容は限定されます」

ブチャ市内の様子(4月4日撮影)

八尋氏が現地に赴いてあらためて驚いたのが、兵士に限らずウクライナ一般市民の気丈さと士気の高さだった。

「本当に、強い人が多いです。道を歩いていても避難民の人に笑顔で挨拶される。昨日ブチャで話を聞いた男性は、道の反対側が激戦の最前線になっているのに、その最中も、(砲撃を受けて)半分崩壊した自宅に住み続けていたと教えてくれました。杖をついて歩いている、80歳を優に超えたような老人が、です」

ブチャ市内の様子(4月4日撮影)

「そこには当然、同調圧力のようなものもあるでしょうけれども」と前置きしつつ、八尋氏は彼らの心中をこう推測する。

「自分の命の危険よりも先に、もっと広い視点で今回の侵攻をとらえている。自分ではなく、自分たちの子孫やもっと大きなもの、未来を守るために戦っているように見えます。

私も目撃した、ブチャの児童保養所の地下室で発見された遺体は、『ロシア軍に拷問され、処刑された民間人』だとウクライナ検察当局が報じましたが、『ロシアに侵攻されたら、自分たちも子孫も、こうした残虐な行為をされる』とウクライナ国民は侵攻当初から考えていたため、ここまで激しく抵抗してきたのだと感じます」

ブチャにある児童保養所の地下室から運び出された遺体。ウクライナ検察当局は「(発見されたのは)非武装の民間人で、ロシア軍に拷問を受けて殺害された」と発表した(4月4日撮影)

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ロシア側はウクライナ民間人の殺害を強く否定しているが、八尋氏が現地で見た民間人の遺体のなかには、激しい拷問を受け、後ろ手に縛られたものや、指先を銃で吹き飛ばされたような跡があるものもあった。 

今もなお市民の士気は異様なほど高いものの、

「それはウクライナ陸軍の情報統制の影響も少なからずある。疲弊はしているが、使命感がそれを凌駕している印象です。実際は(ウクライナ、ロシア共に)どちらもぎりぎりだと思います」


八尋 伸(Shin YAHIRO)
1979年生まれ、香川県出身。タイ騒乱、エジプト革命、ミャンマー民族紛争、シリア内戦、東日本大震災、福島原発事故、香港騒乱などアジア、中東の社会問題、紛争、災害などを取材、発表している。今後もしばらくキーウに滞在し、現地で得た情報をメディアに持ち込んで取材資金に当て、戦局を伝えていく予定だ

取材・撮影/八尋 伸 

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