ウクライナ戦争でアメリカが得る、"値千金の実戦データ"とは? 元アメリカ陸軍大尉が解説

携帯式対戦車ミサイル・ジャベリン。無人ドローンから得た位置情報で待ち伏せし、ジャベリンを撃つ戦法が首都防衛戦でおこなわれた(写真/米国防省)

「米軍は今、ウハウハでしょうね」

そう語るのは、アフガニスタンでアメリカ陸軍82空挺師団兵士として実戦を経験し、後にS2情報担当将校として活躍した飯柴智亮(いいしば・ともあき)氏だ。それはどういう意味なのか?

「アメリカがウクライナへ供与した兵器がロシアとの戦争で使われており、それによって兵器の実戦データが蓄積されています。軍隊にとって実戦データほど貴重なものはありません。

例えば、アメリカは155mmM777榴弾砲90門をウクライナに供与しました。1門約2億5000万円しますが、1発600万円するM982エクスカリバー砲弾を使用した実戦データがとても重要なのです。砲弾の単価が高いため実射する機会が滅多に無く、さらにアメリカ国内では射程50キロ以上で撃てる射場は少ないですから」

米国製155mmM777榴弾砲から発射される砲弾がこの戦争の行方を決めるのか?(写真/米国陸軍)

M982エクスカリバー砲弾は最大射程57キロ、誤差2mの命中率だ。

「この砲弾は今までの撃ちっ放しの砲弾と異なり、小型翼を複数装備して滑空し、GPS誘導で正確に着弾します。

正直な話、155mm砲弾の着弾位置が目標の2m先だろうが10m先だろうが、狙われた敵兵は死んでしまいます。しかし、誤差2mという高い精度は、目標近くで近接航空支援を行う特殊部隊員にとっては、自分の安全が保障されて非常に有難いのものなのです」

そんな155mm砲はウクライナで活躍している。5月15日の報道によると、ウクライナ東部ドンバス地方で、ドネツ川渡河作戦を9回試みたロシア軍機甲部隊を155mm砲で砲撃。ロシア軍の渡河を阻止し、戦車・装甲車両を80両破壊、兵員487名が戦死した。

ロシア軍T72戦車がウクライナ軍によって次々と砲撃されている(写真/柿谷哲也)

ロシア軍T90戦車も次々と撃破されている(写真/柿谷哲也)
「これについては、ウクライナ軍の索敵能力に驚きました。渡河作戦は無防備になるため隠密におこなわれますので、それを見つけた能力は大変なものです。発見後、目標を破壊するのはエクスカリバーがあれば簡単ですが、この戦闘だけでもエクスカリバーについてかなりのデータが取れたはずです」

また、ウクライナ首都キーウ防衛戦で活躍した、アメリカ提供の携帯式対戦車ミサイル・ジャベリンについては、アメリカはどんな実戦データを期待するのだろうか。

「敵戦車を撃破した距離、ロシア製各種戦車別にどんなダメージを与えたか、逆に撃破できなかったケースでの原因や、不発等でうまく作動しなかったケースなどでしょうね」

射程10キロの自爆ドローン・スイッチブレードについては?

「この武器は、飛行を開始して自爆するまでの映像が残ります。なので、どのくらいの距離でどう破壊できたのか、またその命中率やどこに命中したのかなどまで細かくわかります。実戦データの分析が映像によって正確に出来ることはとても貴重になります」

自爆ドローン・スイッチブレードは、目標撃破までの動画が残る(写真/米国海兵隊

スイッチブレードは射程距離10キロで、装甲車両まで破壊可能とされている(写真/米国海兵隊)

また、無人ドローンで撮影された無数の動画が、さまざまなケースでの分析に役立っているという。ウクライナでの戦争においては、砲弾、ミサイル、自爆ドローンの標的となるロシア軍のいる場所を、無人ドローンによって発見したとの報道が多い。

「元情報将校の立場から言わせて頂くと、無人ドローンが敵兵力の映像を送ってきても、その部隊の兵士の士気や訓練水準などは分かりません。そういった敵を見る目利きができるのは、狙撃班の人員です。だから狙撃班は必ず偵察小隊に所属しています」

今回の戦争で得られた実戦データは、米軍でどのように扱われるのか。

「陸戦で得た実戦データは、バージニア州シャーロッツビルにあるNGIC(National Ground Intelligence Center)に送られ分析されます。あまり詳しい事は述べられませんが、そこからあらゆる対抗策やマニュアル、対抗兵器などが産まれます」

先頭よりロシア軍機甲部隊T14アルマータ戦車、BMD−4M空挺戦闘車、BTR−MD空挺兵員輸送車(写真/柿谷哲也)

今、アメリカは第2次大戦後初めて「米兵を死なせずに得られる実戦データ」を収集している。それによって、兵器メーカーは新兵器を開発し儲けを得始めているようだ。

「アメリカが抱える大赤字をこのような形で補填するのはもちろん健康的ではありませんが、今アメリカはなりふりかまっていられない経済状況下にあることも事実です」

複雑な気持ちを抱えながら、ウクライナ戦争はまだ終わらない。

取材・文/小峯隆生

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