海上自衛隊の艦隊が出撃する『IPD22』の意味とは?

IPD22艦隊の旗艦『いずも』。ヘリ搭載護衛艦

6月13日(月)、海上自衛隊はハワイ、インド、オーストラリア、フィリピン、ベトナム及びソロモン諸島、フィジー諸島など12ヵ国を訪問し、各国海軍との共同訓練に参加するため、IPD22艦隊を出撃させる。IPDとは、「インド洋太平洋方面派遣」の略であり、10月28日(金)まで約5か月間にわたる行動だ。

その艦隊の旗艦は、第1期空母改装を終えたDDHヘリコプター搭載護衛艦『いずも』。これに哨戒ヘリ搭載護衛艦『たかなみ』『きりさめ』2隻に、艦名未公表の潜水艦1隻、P1哨戒機1機が随伴するという陣容だ。

いつもならば出撃する潜水艦名は明かされるが、今回は秘匿されている。そのことからも、太平洋インド洋の緊張の高まりが伺える。写真は『そうりゅう』

近い将来、『いずも』にF-35B戦闘機を搭載しイージス艦を加えれば、完璧な海上自衛隊空母艦隊となる。

このIPD22艦隊の意図を、海上自衛隊潜水艦『はやしお』元艦長で元第二潜水隊司令、現在は金沢工業大学 虎の門大学院教授の伊藤俊幸氏(元海将)に話を聞いた。

「米ソ冷戦の頃は、横須賀のアメリカ海軍第7艦隊の空母機動部隊は、半年間かけて東南アジアを1周していました。今では中国の動きが活発化しているため、第7艦隊の行動範囲もインド洋太平洋地域へと拡大し、第7艦隊が横須賀に戻るとすぐにアメリカ本土サンディエゴの第3艦隊の空母部隊も半年動くようになった。つまりアメリカは1年中、インド洋・太平洋・南シナ海に存在し続けており、これを「海軍力によるプレゼンス」といいます。

その間アメリカの艦隊は、周辺国海軍との共同訓練や寄港をします。国際法上、軍艦は治外法権など特別の地位を持っていますから、軍艦が寄港した瞬間から当該国とのやり取りは外交として扱われます。つまり軍艦の行動は、国家の行動といってよいのです」

海自イージス艦が随伴すれば、海自ライトニング空母艦隊となる。写真はイージス艦『あしがら』、後方は米海軍ミサイル駆逐艦『ラッセン』

そのような世界情勢の中で、海上自衛隊艦隊はどう動いてきたのだろうか?

「米ソ冷戦時代の海自艦艇は、津軽、対馬、宗谷の三海峡に、情報収集や警戒監視を目的としてソ連艦艇に張り付き追跡していました。これは、そのまま相手に対する存在感、つまりプレゼンスを示すことになり、ソ連がロシアになった今でも「海洋における力の均衡」を保つ重要なツールとして抑止力になったのです。「力の均衡」が崩れると、今回のロシアによるウクライナ侵攻のような事態が起こります。

防衛省・自衛隊の「防衛力整備」、つまり防衛費の使い方に関し、冷戦時代には『基盤的防衛力』と呼称し、「力の真空を作らないために最低限必要な防衛力を保持」するという方針でしたが、民主党政権時に『動的防衛力』と名称を変えました。これは海空自衛隊が冷戦時代から行っていた「警戒監視による抑止」に焦点をあて、防衛力を整備する方針に変えたからです。安倍政権以降は『統合機動防衛力』と呼称しています」

5月2日、中国海軍空母『遼寧』を旗艦とする機動部隊8隻が宮古海峡を通過し、先島諸島南岸海域に5月22日まで展開、海自は『いずも』で警戒監視に当った。これも海洋における日中海上兵力の均衡を保つための統合機動防衛力としての行動だ。

「いずも」では同時に5機の哨戒ヘリが発着艦できる

「ただ正直なところ、少し違和感がありました。それは『いずも』という護衛されるべき艦艇に警戒監視させたことです。中国海軍にとって情報収集価値の極めて高い艦艇をわざわざ目の前にさらしたことは、"サービスしすぎ"と言われても仕方がないと思います」

前出の通り、6月13日から出撃するIPD22艦隊の旗艦は、海自『いずも』だ。

「アメリカの空母は航空機90機を搭載することができ、他国本土を攻撃できる軍事力を持つ別格の存在です。中国空母『遼寧』、海自『いずも』は、どちらも戦闘機を15機しか搭載できません。このレベルの空母は、艦隊防空用空母と呼ばれます。

艦隊は戦闘機の攻撃に対して極めて脆弱です。そのため、例えば「戦闘機部隊接近」という情報を得たならば、直ちに艦載戦闘機を発艦し、空母部隊本体は遠くに離隔させます。発艦した戦闘機部隊は空中戦により敵機を無力化し、そこから洩れて艦隊に襲い掛かる敵機やミサイルはイージス艦が排除する、という考え方です。家に例えるなら、空母がない艦隊とは屋根がない家であり、イージス艦という傘だけで土砂降りに耐える状態、といえます」

『いずも』はいずれF-35Bを運用し、空母となる。写真は、米海兵隊F-35Bが『いずも』で発着艦テストをしている様子(写真/米海軍)

中国空母艦隊が南太平洋のソロモン、フィジー諸島に姿を現した場合に、アメリカ空母艦隊が対応出来なければ海自空母艦隊の出番となるのだろうか?

「今の『いずも』にはヘリコプターしか搭載されていませんが、平時ですしプレゼンスすることが目的なのでそれで問題はありません。6月13日からのIPD22艦隊は、正にアメリカ空母機動部隊のミニチュア版として、その地域の安全保障を補完する役割を果たすのです。このように日米の艦隊が交代で動き、「法と自由を守る」国々のシンボルとしてこの地域にプレゼンスしつづける行動は、「自由で開かれたインド太平洋構想(FOIP)」の一つの具体的手段として位置づけられるのです。

今回、IPD22艦隊はソロモン諸島、トンガ、パプアニューギニア、パラオ、バヌアツ、フィジーなどにも入港します。前述したように寄港した瞬間から外交関係ですから、中国が攻勢を強めているこれらの国々への対応となるわけです」

今の海自艦隊の戦力は、どれくらいのものなのだろうか? 現役時代、伊藤艦長の潜水艦は1998年のリムパック演習で、アメリカ海軍の強襲揚陸艦一個部隊の全滅を含む15隻を撃沈している。

「有事となれば、IPD22艦隊に随伴している海自潜水艦1隻で、現時点の中国空母『遼寧』艦隊なら全滅は可能です。海自潜水艦にはそれくらいの能力はあるのです」 

伊藤氏が参加したRIMPAC98の日米バイラテラル艦隊

しかし、中国艦隊も日々戦力が向上している。

「『いずも』にF-35Bを搭載させた訓練を早急に開始すべきでしょう。航空自衛官を海上オペレーションに慣れさせるのには時間がかかりますから」

空・海自衛官たちの空母訓練は、まだ緒に就いたばかりのようだ。

『いずも』はステルス戦闘機を運用する「ライトニング空母」に生まれ変わる(写真/米海軍)

取材・文/小峯隆生 写真/柿谷哲也

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