反体制派リーダーとしてロシアで服役中! 「プーチンが最も恐れる男」ナワリヌイとは何者か

現在、ナワリヌイ氏(46歳)は、ロシア国内で最高度の警備レベルの刑務所で服役中だという

プーチン大統領の暴走を止めるのは、ウクライナの必死の抵抗か、大国の介入か。ただ、ロシア国民によるプーチン追放の可能性は、あまり語られていない。そんななか、同国の反体制派のリーダー、ナワリヌイを追ったドキュメンタリー映画が日本で封切られた。この映画で見えてくるのは、独裁体制と戦うことの苦難だ。

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■反プーチンを貫く男の〝ある誤算〟

「反プーチン」を掲げるロシア人の政治指導者として最も有名な人物、アレクセイ・ナワリヌイ氏が、「過激派組織設立」の罪で刑事訴追をされたのは今年5月31日のこと。現在、彼はロシア国内に収監されており、今回の訴追により刑期が15年になる可能性があるという。

同氏について、時事通信社の元モスクワ支局長で、現在は拓殖大学の特任教授を務める名越健郎氏が解説する。

「彼が反政府活動家として頭角を現したのは、おそらく2011年頃。この年に行なわれたロシア下院議員選挙で政権与党『統一ロシア』の不正を訴え、同党を『詐欺師と泥棒の党』と酷評したことで、一躍注目を集めることになりました。

弁護士、政治家であるとともに人気ブロガーでもあったナワリヌイは、巧みな言葉選びのセンスでSNSでの発信力を高めます。また、組織的な調査報道の手法で、プーチン政権と結びついた大富豪『オリガルヒ』たちや政権幹部たちの不正や汚職の実態を告発する動画を次々と公開して支持を集めます。

こうした活動によりロシアの反政府活動の中心的存在と見なされるようになり、やがて一部の欧米のメディアは彼のことを『プーチンが最も恐れる男』と呼ぶようになったのです。

ちなみに、ナワリヌイの告発の中には政権内部からの情報リークを感じさせるものも多かった。事態を重く見たプーチン政権は水面下で彼の排除に動きます」

そして2020年8月、飛行機で国内を移動中のナワリヌイが猛毒の神経剤「ノビチョク」で毒殺されかけた事件が起きた。

プーチン大統領の周辺では過去にも多くの政敵が「謎の死」を遂げている。例えば、06年10月、プーチン政権に批判的なジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤ氏が自宅アパートのエレベーター内で射殺され、翌月にはFSB(ロシア連邦保安庁)の元中佐で、当時イギリスに亡命中だった反政府活動家のアレクサンドル・リトビネンコ氏が放射性物質のポロニウム210で毒殺された。

15年にはエリツィン政権時の副首相で一時は「プーチンの最大のライバル」ともいわれた政治家のボリス・ネムツォフ氏がモスクワ川の橋の上で銃撃されて死亡している。

18年には同じくイギリスに亡命していた元スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏とその娘がノビチョクで暗殺されかけた「ソールズベリー事件」が起きた。

「エリツィン政権の首相だったプーチンが大統領の座に上り詰めるきっかけとなったのが、1999年のロシア高層アパート連続爆破事件と、その後に始まった第2次チェチェン紛争での対応でした。

しかし、表向き『チェチェン独立派のテロ』だとされているアパート連続爆破事件は、実はプーチンのFSBによる自作自演だったといわれています。その後、この問題を追及していたジャーナリストら数人が謎の死を遂げました」(名越氏)。

ただ、名越氏は「それでも、大統領就任直後のプーチンには『柔軟な現実主義者』というイメージがあった」という。

「それが大きく変わったのが04年です。この年、ウクライナで親欧米派が大統領選挙の不正に抗議して選挙結果を覆す『オレンジ革命』が起きたのに加え、NATO拡大でバルト3国を含めた7ヵ国が新たにNATOに加盟。

これに国内で頻発したチェチェン独立派のテロも加わったことで、ロシア内外の脅威を恐れたプーチンは一気に強権化しました。以来、国内の反体制派を徹底的に弾圧し、大統領の独裁化を進めてきました」(名越氏)。

ちなみにウクライナ侵攻後も、エネルギー企業「ガスプロム」の幹部など有力実業家や富豪、その家族15人が、自殺や心中などの形で相次いで死亡している。

映画『ナワリヌイ』で、ナワリヌイ氏は自身が毒殺されかけたことについて、こう話している。

「有名になればなるほど安全になると思っていた」

自分の名前がロシア中に広がれば、プーチンは安易に手が出せない。反体制派の大きな怒りを呼び、それは政権のリスクになるからだ――しかし、本人が映画内で「大誤算だった」と言うように、その計算はプーチンの恐ろしさを真に理解していたものとは言えなかったのだろう。

■反プーチンの火は消えたのか

ナワリヌイ氏がネット調査報道集団「ベリングキャット」と組んで毒殺未遂の真犯人を追いつめるシーンは、この映画のハイライトだ

どれだけ国際社会から孤立しても、プーチンの暴走は止まる気配がない。ナワリヌイ氏が獄中に囚(とら)われの身になった今、ロシアで「反プーチン」の声が上がることはないのだろうか?

「21年にロシアに帰国したナワリヌイが逮捕された際には、彼の逮捕に抗議する大規模なデモも起きましたが、プーチンはこれを強引に力で抑え込み、彼の活動を支えていた反政府派の国内基盤は崩壊しました。

ロシア政権中枢にいる幹部やオリガルヒは、たとえ内心で〝プーチンの戦争〟にウンザリしていても、クーデターを起こそうというような気概のある人物はいません。ロシア国内の反政府活動の機運はもはや風前のともしびと言っていいでしょう」

映画『ナワリヌイ』の終盤では、ナワリヌイ氏を拘束しようとするロシア当局に対して抗議デモを行なう大勢の市民の姿が映し出されている。ロシア国民の反プーチンの火は、まだ消え切ってはいないことを示すシーンだろう。ナワリヌイ氏は映画内のインタビューで支持者にこう語りかけた。

「もし私が殺されることになったら、それは私たちがそれほど彼らにとって脅威だということだ。諦めてはならない」

この言葉はロシア国民に届くのだろうか。

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●『ナワリヌイ』 
新宿ピカデリーほかにて公開中。全国順次公開予定。監督:ダニエル・ロアー 上映時間:98分。
ロシア国内の反体制派から支持を集める政治活動家ナワリヌイ氏を追ったドキュメンタリー。彼は2020年8月、移動中の飛行機内で何者かに毒物を盛られ、死の淵をさまよう。ドイツ・ベルリンの病院に避難し一命を取り留めた彼は、自ら真相究明に乗り出す。毒を盛ったのは何者なのか? 暗殺未遂の陰で糸を引く勢力の正体は? やがて療養先のドイツからロシアへの帰国を決めたナワリヌイ。空港には彼を支持する大勢のロシア市民と治安警備隊、そして身柄を確保せんと準備するロシア治安当局の姿があった。

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取材・文/川喜田 研

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