いま最もカッコいいプロ野球ユニフォームを作るデザイナー・大岩Larry正志「オタク的知識が、ユニフォームのデザインを強靭にして格を与える」

いま最もカッコいいプロ野球ユニフォームを作るデザイナー・大岩Larry正志「オタク的知識が、ユニフォームのデザインを強靭にして格を与える」

プロ野球チームのユニフォーム手がけるデザイナー・大岩氏。彼のデザインには膨大な知識と野球への敬意がベースにあり、多くのファンから支持を得ている

通常のホーム、ビジターに加え、日曜限定のサードやイベント用、さらには復刻やファン専用など、近年は百花繚乱の様相を呈しているプロ野球のユニフォーム。 その中でも、ひときわ洗練されたデザインで、プロ野球ファンの間で「いま最もカッコいいユニフォームを作るデザイナー」として有名な人物が、大岩Larry正志(おおいわ・らりー・まさし/43歳)さんだ。

彼は大学卒業後、フリーのグラフィックデザイナーとして活動を開始。2008年に埼玉西武ライオンズの交流戦ユニフォームを手がけたことを機に、福岡ソフトバンクホークス、東北楽天ゴールデンイーグルス、東京ヤクルトスワローズのユニフォームをデザイン。なかでもイーグルスが初優勝した2013年、田中将大投手も着ていた鮮やかな緑色のユニフォームは高い人気を誇った。

そんな彼が考える、魅力的な日本のプロ野球のユニフォームとはどんなものか? 直撃し、プロ野球のユニフォームを手がけるようになったきっかけから、ユニフォームへの想いを聞いた。

――大岩さん! 最近、プロ野球のユニフォームって種類が多すぎませんか? 通常のホーム、ビジターに加え、サード、イベント、復刻......もう何がなんだかわからないというか。

Larry 確かにやや過熱気味だとは思いますね。でもそれが日本のプロ野球を盛り上げる一助になっているのは確かだし、球団もグッズ化して売り上げがアップすればありがたいだろうし、いいと思いますよ。第一、ひと昔前は日本のプロ野球ユニフォームなんて一部のマニア以外、誰も見向きもしませんでしたから。90年代にメジャーがブームになって、向こうのユニフォームをファッションとして着ている人をよく見かけたけど、日本のチームのユニフォームを着る人なんて見たことなんてなかった。長年のファンからしたらうれしいですよ。

――確かに、なんとなくカッコ悪いものだと思われてましたよね。

Larry でしょ? 僕がユニフォームのデザインをやろうと思ったのは、まさにそれが理由。だったら俺が変えてやるぞって、勝手に使命感にかられたんです(笑)。

――当時、すでにプロ野球の仕事をしていたんですか?

Larry 全然(笑)。一介のグラフィックデザイナーです。ただ自分で言うのもなんだけど、自分の野球知識には相当な自信がありました。子供の頃から30年以上、お小遣い全部、プロ野球の雑誌やグッズに投じ、毎試合結果と出来事、選手の成績を記録。93年、松井秀喜は打率2割2分3厘、ホームラン11本で、みたいな(笑)。野球知識検定だって満点を取りましたから。

――すごい! でもどういう経緯でプロのユニフォームを?

Larry 2003年、想い余って理想のユニフォーム展をやったんです。そうしたらありがたいことに、あるスポーツメーカーさんがスポンサーになって現物を作ってくれて。当時、日韓W杯直後でサッカー企画の持ち込みは多かったようだけど、野球関連を提案したのは僕だけだったみたい。しかもそのメーカーさんは野球に力を入れ始めた頃だったんです。

――おぉっ! なんてタイミングのいい!

Larry それを2年続け、ほんの少し自信がついた後、2007年に行きつけの美容室から電話がかかってきて。お客さんに交流戦用の特別ユニフォームのデザイナーを探している西武ライオンズ(現・埼玉西武ライオンズ)の球団スタッフがいるから一度会わない?って。美容師さんが僕を紹介してくれたんです。で、お会いして、溜め込んでいた野球知識やユニフォームへの想いを熱く語ったら仕事をいただくことになって。その担当の方が、会社の中でものすごく推してくれたみたいです。

――それはどのあたりを?

Larry というか、まだその頃は、ユニフォームのデザインってサプライヤーの内部デザイナーが手がけるもので、外注するという発想がなかったんです。でもイベント感を強く打ち出したいから今までと違うやり方でやりたいと。で、これが僕が初めて作らせて頂いた2008年の西武ライオンズの交流戦ユニフォームです。

――肩に「×」のようにも見える星のマークがついていますね。

Larry イベント感を出すということだったのでキャッチーなものをワンポイント入れました。これはセ・リーグのチームと「交わる」という意味と「白星」の意味をかけています。また全体の色は普段のブルーを基調としつつ、それまで西武ライオンズが使ったことがない黒を、力強さを示す色として使用して。あと、背番号の下には『No Limit!2008』というチームのスローガンも入れました。

――評判はどうだったんですか?

Larry よかったです。選手も喜んでくれたみたいだし。ただ同時に、自分の中でより思い切ったデザインをやってみたいとも思いました。それが実現できたのが、西武の後、お声をかけていただいた楽天イーグルスの2013年の夏季ユニフォーム。

――普段のえんじ色と大きく異なる、緑のユニフォームですね。

Larry いくつか色とテーマを提案し、最終的にこの色に決まりました。えんじ色のアンダーシャツとの相性もよかったし。でも最初は奇抜に映ったらしく、SNSでは叩かれましたけどね(笑)。緑は東北の緑が変わらず美しくあることへの願いが込められています。またワッペンは東北6県を表現する6枚の葉がひとつの円を描いて並ぶようにデザインしました。

――全体に色味が派手で、メジャーのユニフォームっぽいですね。

Larry かなり意識しています。レターとその縁取りの色の組み合わせなど特にそうですね。気を使ったのは胸番号や背面の選手名の文字と背番号のサイズ。日本のは小さいんですよ。なのでドデカくしました。じつはこのユニフォームも先のライオンズのユニフォームもすごくよかったことがあって。

――どんなことですか?

Larry どちらもそれぞれのシーズンで優勝したんです。こういう勝負事に関わる仕事って、縁起はすごく重要なんです。おかげでファンにとっても大切なユニフォームになってくれました。

――大岩さんはその後、ヤクルトやソフトバンクなどのユニフォームを多数手がけます。今までで一番気に入ってるのは?

Larry どれも優劣はつけられませんが、初めてホームとビジターのユニフォームをデザインさせていただいた点でヤクルトのユニフォームには思い入れはありますね。

――2016年から現在も続くデザインですが、特にホームで意識したのは?

Larry これは何よりシンプルさを心がけました。お馴染みの赤ストライプの幅をメジャー並みに細くし、間隔を広げスッキリさせました。また首回りと袖口に赤・白・青のリブをつけ、新しさも少し加えて。これは伝統をそのままアップデートさせた自分の中では完璧なデザインです。表参道のハイブランドのショップの前で着てる人を見かけても、デザインに引けをとってないんじゃないかと自分では勝手に思ってます(笑)。

――もともとアメリカのユニフォームみたいにかっこいいものをと始めた訳ですが、日本とアメリカの違いはどこにあると思います?

Larry アメリカのユニフォームって最初、普通の洋服から始まり、そこから変わっていった100年以上の歴史があるんです。でも日本のは、アメリカのを模して、こんな感じだよねってなんとなく作られてきた感じがするというか。突拍子もないデザインになることもあるし、歴史への敬意を感じられないことが多い。そこの違いですね。そもそも日本にはスポーツを専門に扱うデザイン事務所がないから仕方ないのかもしれないけど。

――え、そうなんですか?

Larry アメリカは、野球だけでマイナーを含め250チーム。アメフト、バスケ、ホッケーなどを含めるとプロスポーツのチームは相当な数になります。なのでスポーツ専門のデザイン事務所も大変な数があるんです。

――専門家以外でいえば、日本のプロ野球では有名ファッションデザイナーが起用されることもありますね。

Larry ファッションデザイナーの仕事は服のシルエットなど、立体的な部分。しかし野球のユニフォームのシルエットは選手が個人個人で決めてしまうので、胸のロゴや番号やネームの書体などが必要となると、ジャンルとしてはグラフィックデザイナーの仕事なんじゃないかとずっと思ってました。そこに、歴史を含めたプロ野球の詳しい、いやオタク的ともいえる膨大な知識がプラスされると、それがデザインを強靭にして、格を与えるんだと思います。

――なんだか特撮モノのグッズみたいですね。昔はメーカー内のデザイナーが作っていたものが主流でしたけど、いまは海洋堂をはじめとするオタク揃いの外部メーカーが数多く作る、みたいな。

Larry 近いかもしれません。いずれにせよ、スポーツのユニフォームは選手が変わってもデザインは永遠に残るもの。僕は現在、仕事の95%がスポーツですが、日本にも専門的なデザイナーはもっといるべきだと思いますね。

――今後のビジョンはありますか?

Larry 現在はユニフォーム以外にポスターやカード、冊子、フィギュアなどの様々な分野のデザインをさせていただいているんですが、最終的にはスタジアムのデザインをやりたいです。じつは大学の建築科を出ているんです(笑)。あとはいつかメジャーのチームのユニフォームを手がけてみたい。日本人選手は増えたけど、デザイナーでメジャーに行った人は恐らくまだいないはず(笑)。是非、新しい歴史を作りたいと思いますね!

■大岩Larry正志(おおいわ・らりー・まさし)
1975年生まれ。滋賀県出身。大学卒業後、フリーのグラフィックデザイナーとして活動開始。現在は東北楽天ゴールデンイーグルスや東京ヤクルトスワローズのユニフォームを手がけるほか、ポスターやグッズなどのデザインを手がけている。またプロ野球以外にはBリーグ・滋賀レイクスターズや仙台89ers、カーリング・北海道銀行フォルティウス、スーパーラグビー・サンウルブズのデザインも手がけている

取材・文/大野智己 撮影/石川耕三

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