速度無制限なのになぜトラブルが起こらないのか? クルマ大国ドイツの「あおり運転」事情

速度無制限なのになぜトラブルが起こらないのか? クルマ大国ドイツの「あおり運転」事情

ドイツの速度無制限区間がある自動車専用道路「アウトバーン」。時速200キロで走っていても、バンバン追い抜いていく車がいる

8月27日、社会問題化している「あおり運転」の罰則強化を検討する初めての会合を自民党が開いた。

では、アウトバーンを車がビュンビュン飛ばすドイツでは、あおり運転はどうなっているのか? 自動車ジャーナリストの竹花寿実(たけはな・としみ)氏が解説する。

■アウトバーンのあおり運転は命に関わる

――あおり運転が話題です!

竹花 話題っていうか(笑)、たまたまセンセーショナルな映像が表に出てきたことで、メディアが面白がって取り上げてるだけ。あおり運転自体は昔からそこら中で起きている。それにしても先日の常磐自動車道で撮影された映像は衝撃的だった。

――大阪でも61歳の僧侶があおり運転で書類送検されて注目を集めました。

竹花 アレもヒドい。駐車場から道路に飛び出してきて、危険を感じた後続車がパッシングしたら、それに腹を立てて何度も急ブレーキをかけて、しまいには降りてきて暴力行為って......。聖職者も人の子とはいえ、アレはいただけません。

――ところで、ドイツも自動車大国ですが、あおり運転はある?

竹花 僕はドイツにいた8年間、毎年4万kmくらい走っていたけど、いやがらせを受けたことはほとんどなかった。

――えっ、ドイツにあおり運転はないんスか?

竹花 確かにアウトバーンの速度無制限区間で追い越し車線を猛烈な勢いで走ってきて、後ろからパッシングするようなドライバーもそれなりにいるけど、走行車線に避けても執拗に追いかけてくるような状況は見たことがない。

――日本と何が違う?

竹花 最も違うのは交通環境。日本の高速道路とドイツのアウトバーンでは、道幅も、交通量も、平均速度も、運転マナーも、何もかもが違う。

――具体的にはどう違う?

竹花 アウトバーンは日本の高速道路より車線が広くて、日本より交通量も少なく、トラックが追い越し車線に出てくることもないから、走っていてストレスが少ないの。でも平均速度が高いから、みんな周りのクルマの動きをよく見ている。だから後方から速いクルマが近づいてきても、スムーズに避けられる。

――確かにストレスが少ないのは大きいかも。

竹花 うん。運転中のストレスが少なければ、キレることもあまりない。時々狂ったように後方からパッシングしながら迫ってくるクルマもいるけど、避けてしまえばその後絡んでくることもないし。

――速度無制限区間があることも、あおり運転が少ない理由のひとつですかね。

竹花 それはあると思う。速度無制限区間の追い越し車線は、場所にもよるけど平均速度がだいたい180キロ前後なんだけど、300キロで迫ってくるクルマもいる。だから、何かあるとマジで命に関わるワケ。だからみんな速度は高いけど、慎重にマナーに気をつけて走っている。

――なるほど。逆に日本みたいに最高速度が100〜120キロと中途半端だと、気を抜いて周りの交通状況に気を配らない人が増えて、トラブルの原因になっているかも。

竹花 その可能性はある。あと、日本の高速道路には通行帯規制を無視して走る大型トラックが多いのも問題に拍車をかけているのは間違いない。アウトバーンでは2車線の速度無制限区間や上り坂では、渋滞中でもトラックは第一通行帯を走らなければならなくて、それが徹底されているの。だから一般の乗用車はストレスなく走れる。

――そこは日本もお手本にするべきですね。

竹花 あと、通行料金が全線無料であることも、アウトバーンが快適な理由のひとつ。

――それは単純にうらやましい!

竹花 いや、アウトバーンが無料なのはおサイフに優しいだけじゃなくて、いつでもどこでも乗り降り自由ということなんだよ。つまり、「ちょっと混んでるなぁ」と思ったら、一般道に降りてお茶を飲んで、渋滞が緩和されてからアウトバーンに乗り直しても、経済的負担は変わらない。

――そうか! 渋滞のなかで我慢する必要がないワケだ。

竹花 だからってワケじゃないけど、ドイツにはいわゆる"走り屋"がいない。

――えっ、こんなにハイパフォーマンスカーを世に送り出している国なのに!?

竹花 うん。走るのが好きな人は、アウトバーンがすいているときならいつでもタダで300キロで走れるし、街の中心部を離れれば、すぐに速度規制が100キロになるし。わざわざ峠道まで行って一般車両に迷惑をかけながら走るヤツらはいません。

――意外です。ドイツの一般道の交通マナーは?

竹花 最近は移民や周辺諸国出身の人が増えたので、以前ほどではないけど、日本よりはいい。市街地の50キロとか30キロの速度規制はみんな守るし、無理な割り込みをする人はほとんどいない。信号がない交差点では必ず右方優先(日本とは逆)を徹底するし、横断歩道では歩行者がいればみんな一時停止する。

――大人な交通社会ですね。

竹花 いやいや、ドイツは街中にオービスが多いし、横断歩道がない場所でも道路を渡る人が多いから、日本以上に気をつけて走る必要がある。だから結果的にあおり運転をするような人はいないと。

――日本がドイツから学ぶべき点は?

竹花 道路の造りは難しいけど、トラックの通行帯違反を厳しく取り締まるといった交通ルール運用の徹底は、運転中のストレス低減の参考になると思う。

――確かに。

竹花 あと、あまり現実的ではないけど、高速道路に速度無制限区間をつくれば、みんな運転が命がけになるから、逆にあおり運転をする人が減るかも......冗談です(笑)。

●竹花寿実(たけはな・としみ)
1973年生まれ。東京造形大学デザイン学科卒業。自動車雑誌や自動車情報サイトのスタッフを経てドイツへ渡る。昨年まで8年間、ドイツ語を駆使して、現地で自動車ジャーナリストとして活躍

構成/竹花寿実 撮影/本田雄士 写真/時事通信社

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