角田陽一郎×俳優・柄本明「"本当の気持ち"は画面に映らないんだから。その人が何を考えて芝居してたっていいんです」

角田陽一郎×俳優・柄本明「"本当の気持ち"は画面に映らないんだから。その人が何を考えて芝居してたっていいんです」

俳優・柄本明氏(左)の映画体験をバラエティプロデューサー角田陽一郎氏がひもとく!

『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies〜その映画が人生を動かす〜』。

前回に引き続き、最新主演映画『ある船頭の話』が全国公開中の柄本明(えもと・あきら)さんが登場。撮影秘話と"映画館愛"を語ります!

■地方に行ったら昔ながらの映画館を探す

――最近ご覧になった映画で印象に残っている作品はありますか?

柄本 最近はね、以前ほど映画を見なくなっちゃって。でも、神戸に「元町映画館」というところがあって、近くに行ったときはそこでちょこちょこ見ているんですけど、『13回の新月のある年に』(78年)はよかったね。ドイツの映画監督ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの作品で、訳わかんなかったんだけど、ものすごく面白かった。

――訳わかんないけど面白かったというのは?

柄本 言葉にするのは難しいけど......。ゴダールの映画でもなんでも、説明できない面白さがあるじゃないですか。

――学生時代に憧れたとおっしゃっていたアングラ演劇しかり、そういう作品がもともとお好きなんですね。

柄本 もちろん、『男はつらいよ』(69年)も好きですよ?(笑)。でも、好みっていう話になってしまうとそうなる。要するに僕は映画好きというよりも、映画館好きなんですよね。

――(柄本)佑(たすく)さんも同じことをおっしゃってました!

柄本 うちの教育なのかな?(笑)。映画館という暗闇のなかに入ると、変な言い方だけど"のぞき"をしているような気分になれるんですよね。しかも、見ず知らずの他人と一緒に見ているという緊張感もある。

――ああ。どこか共犯者的なところもありますよね。

柄本 ところが、映画館ってどんどんと健康的な場所になってきているでしょ? 本編が始まる前に宣伝がいろいろ流れるけど、できれば僕は見たくないかな。不安な気持ちになる場所だから面白いのに、そういうものを見せられると......って考えるんですよ。

――最近はそういう雰囲気を残した映画館も少ないですもんね。

柄本 だから地方に行くと、必ず昔ながらの映画館を探すんです。すると意外な所にけっこうあったりして。この前、熊本県の天草市に行ったときに「本渡(ほんど)第一映劇」という映画館を見つけたんですけど、まあ素晴らしい場所でしたよ。家族でやってる小さな映画館で温かくてね。でも、客は僕ひとりだったんだけど。

――天草の映画館で柄本さんがひとりで映画を見てる......。それ自体がもう何かの作品のようですね。

柄本 そうやって昔ながらの映画館というものが過去のものになりつつあるんじゃないかなと思うとなんだか寂しくてね。

■やりがいがあろうとなかろうと

――公開中の主演作『ある船頭の話』はどんな作品ですか?

柄本 時代に取り残され、時代にあらがう男を描いた作品で、普遍的なお話なんですよ。ストーリーとして見るとそんなに何かがあるわけじゃないんだけど......。でも、生きてる人に共通するものが描かれてるんじゃないかな。

作品の舞台は日本だし、船頭という今はもうなじみのなくなった職業なんだけど、でもみんなどこかで共感できるものを持っているというか。

――監督はオダギリジョーさんなんですよね。現場ではどんな印象でしたか?

柄本 まじめでしたねえ。そして真摯(しんし)で。撮影中は口内炎がいくつもできちゃったそうですよ。

――かなり悩まれたと?

柄本 非常に悩まれただろうし、大変だったんじゃないかな。でも、一生懸命やっていたよね。

――柄本さんは映画の撮影において、監督とどのようなスタンスで向き合うんですか?

柄本 基本的に僕は監督と話しません。今回もそう。オダギリ監督とは俳優として何回か仕事してますけど、そんなに親しいわけでもないんです。だから、主演として声をかけてもらったときも「なんで僕なんだろうなあ」と思ったくらいで。

だけど監督自身も、なあなあでやりたくないという気持ちがあったみたいで、逆にこのくらいの距離感がよかったみたいですね。

――では、台本の話だけをするみたいな?

柄本 それが、ホン(台本)の話も一度もしなかったんです。現場に入っても、「柄本さん、あそこで立っていてください」と言われて、そのまま「よーいスタート!」って感じでした。テストもなかったから。

――台本はあるけど、ドキュメンタリー的なニュアンスもあったんですか?

柄本 どうでしょう。というのも、間にクリストファー・ドイルという撮影監督が入っていたんですけど、彼も「テストはやってもしょうがないんじゃないか」という考えなので。

――ウォン・カーウァイ監督の『恋する惑星』(94年)などで知られる著名な方ですね。

柄本 もちろん、段取りは事前に話し合っているんですけどね。まあ、それでも一発OKってことはほとんどなかったですし、撮っても撮っても撮り切れなくてねえ。大変な撮影でした。

――そうでしたか。

柄本 撮影は去年の7〜8月の40日間。炎天下、河原の岩場での撮影だったんですが、とにかく岩が切り立っていて移動するだけでも大変だったんです。肉体的にも精神的にも疲れましたね。

――大変な分、やりがいも大きかったですか?

柄本 やりがいねえ......。でも、それがあろうとなかろうと、撮らなきゃ終わらないですからねえ。それに極端な話、芝居なんて黙って立ってりゃ、その人が何を考えてたっていいんですから。「早く家に帰りたいな」とかでも。別に気持ちなんか画面には映らないんだから。

――なるほど。

柄本 心の中の声なんか聞こえやしないんですよ。何を考えていようと、カメラの前に立って、時間になったら終わるんです。まあ、そういう言い方をすると身もふたもないですけど(笑)。

――でも、柄本さんの演技を見て、「何を考えてるのかわからない」って思うのって、そこに理由があるのかもしれませんね。極端な話、もしかしたら「腹、減ったな」と思ってるかもしれないという。

柄本 今の人は"本当の気持ち"とか言ったりするけど、そんなものはどうだっていいと思うんだよね。

●柄本明(えもと・あきら)
1948年生まれ、東京都出身。1976年に劇団東京乾電池を結成、以後座長として舞台に立つ。2011年には紫綬褒章を受章した日本を代表する名俳優

■『ある船頭の話』全国公開中
脚本・監督:オダギリジョー 配給:キノフィルムズ
(c)2019「ある船頭の話」製作委員会


取材・文/テクモトテク 撮影/山上徳幸 

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