株高と失業率の低下をウリにしてきたトランプにとって、新型コロナは最大の「逆風」?

「大規模な減税政策や保守的な最高裁判事の指名、軍事予算の拡大などで着実に公約を果たしてきた。トランプ政権はアメリカ民主主義の産物」と語る渡瀬裕哉氏

2016年の大統領選でトランプ政権が成立して以来、世界はドナルド・トランプという「トンデモ大統領」に振り回されてきた......。多くの日本人はそうとらえているはずだ。

大統領選挙から3年4ヵ月余り、その言動で数々の批判を浴びながらも、アメリカ国内には依然、多くのトランプ支持者がいるのはなぜなのか? その鍵を握るのが、トランプ大統領を生み出す原動力となったアメリカ共和党内の「保守派」といわれる人たちの存在だ。

国際情勢アナリストとして活動し、アメリカ政界に独自の人脈を築いてきた渡瀬裕哉(わたせ・ゆうや)氏が、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)を上梓(じょうし)。トランプを支える保守派の実態と、今年秋に控えた大統領選挙の行方を占う。

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──日本のメディアや識者が伝えるアメリカは一面的だと?

渡瀬 わかりやすく言うと、「強い民主党バイアス」がかかっているのです。ご存じのとおり、アメリカ政治は基本的に共和党と民主党の二大政党制で成り立っているわけですが、実は日本のメディアやそこに登場する識者のほとんどが、民主党的な視点でしか物事を見ていません。

というのも、日本で「米国通」といわれる研究者や政治家、官僚らの多くがアメリカ留学経験者で、彼らが学ぶハーバード大学やジョージタウン大学などの一流大学は、ほぼ例外なく民主党の牙城だからです。

そのため、日本で伝えられるアメリカ像は偏ったものになり、「トランプはトンデモ大統領で、彼を支持する連中もバカ」といった非常に雑な理解で片づけてしまうことになる。しかし、これはアメリカの一面を見ているにすぎません。

──では、トランプ政権を生み、支持するのはどんな人たち?

渡瀬 アメリカの共和党は「主流派」と「保守派」の大きくふたつの派閥に分かれています。例えば、ブッシュ親子などは主流派に属していて、彼らは民主党との政策協議に応じるような、やや中道寄りの人たちです。

もう一方の保守派がトランプ政権を生み出した人たちで、彼らはアメリカ合衆国の建国理念と、合衆国憲法の精神を守ることを何よりも重視する「ガチガチの護憲派」です。

例えば、彼らが「銃規制」に強く反対するのもそのためで、銃規制は武装の権利を認めた「憲法修正第2条」に反するから絶対に許せない。その感覚はある意味、日本の左翼の「9条護憲」に近いといっていいかもしれません(笑)。

──合衆国憲法原理主義ということですか?

渡瀬 まさにそんな感じですね。彼らが「増税」や「同性婚」「妊娠中絶」に反対するのも同じです。税金は憲法で定められた「財産権の侵害だ」ととらえ、政府が同性婚や中絶を認めるのは、それを受け入れない自分たちの「信仰・信教の自由の侵害だ」というのが、共和党・保守派の一般的な考え方です。

また彼らは、「共和党は税金を払っている人たちのための政治」を目指す政党で、「税金の恩恵を受ける人たち」のための政治ではないという考え方なので、「社会保障のために増税が必要だ」なんて言った時点で誰も相手にしません。

植民地時代、イギリスが課す税金への抵抗から起きた「ボストン茶会事件」をアメリカ独立の出発点だと信じる彼らにとって、税金は基本的に「悪」。唯一の例外が軍事費で、強いアメリカを守るための税金は「愛国心」を理由に許されるのです。

トランプは、彼らの民意を背に前回の選挙に勝利して大統領となり、就任後は大規模な減税政策や保守的な最高裁判事の指名、軍事予算の拡大などで着実に公約を果たしてきました。従って、トランプ政権はアメリカ民主主義の産物なのです。

──トランプ政権は秋の大統領選挙で2期目に挑みます。対抗馬となる民主党の候補者予備選挙もヤマ場を迎えていますが?

渡瀬 民主党は間違いなく、バイデンで決まりでしょう。アメリカの大統領選挙は州ごとに行なわれ、それぞれが獲得した選挙人の総数を争うので、共和党、民主党の力が拮抗(きっこう)した「接戦州」が勝負を分けることになる。

なかでも「ラストベルト」と呼ばれる中西部の製造業地帯は、16年の大統領選挙でも勝敗を決した"関ヶ原"ですが、再生可能エネルギーへの大幅な転換を中心とした「グリーン・ニューディール政策」を強く訴えるサンダースでは、既存のエネルギー産業関連に携わる労組などの支持を得られない。

民主党支持者の多くが「急進左派のサンダースではトランプに勝てない」と考え、中道派のバイデンに回ったのはそのためです。

──では、トランプ対バイデンだとして勝負の行方は?

渡瀬 トランプ陣営は想像以上に厳しい状況にあるとみています。ひとつは、前回の選挙から離反気味だった共和党内の「リバタリアン派」(*)が、トランプ政権の「国境の壁政策」「貿易戦争」に反対して、トランプ支持からやや離れていること。

前述した接戦州では、毎回ほんのわずかの票の差が勝敗を決しています。リバタリアンは共和党内では少数派ですが、選挙では活発に活動するので、彼らの支持を取り戻すことは課題です。

また、テキサス、アリゾナ、ニューメキシコなど、アメリカ南部の国境沿いに位置する「サンベルト」と呼ばれる州で、人種構成の変化などによって民主党支持者が増えています。「ラストベルト」の戦いが重要なのは今回も同じですが、「サンベルト」はこれまで共和党の牙城だっただけに足元が揺らいでいるのは大きな不安材料です。

(*)移民政策推進、軍事費削減、マリフアナ解禁や同性婚などの政策をめぐって主流派と対立する共和党の勢力

──新型コロナウイルスの感染拡大の影響は?

渡瀬 アメリカ国内でも急激に感染拡大が広がっており、株式市場の暴落も始まりました。この先、影響がどこまで広がるのかわかりませんが、これまで株高と失業率の低下を最大のウリにしてきたトランプ陣営にとっては、これが最大の「逆風」になるかもしれませんね。

ちなみに、仮にトランプが再選されれば、日米関係も含めて、基本的にこれまでどおりだと考えていいでしょう。

逆にバイデンが勝って、民主党政権が誕生すれば、増税や新たな規制の導入で経済の悪化は避けられない。また民主党政権の場合、軍事予算も削減されることになり、日本は対中国の安全保障でも見放され、結果的に「自立」を迫られることになるかもしれませんね。

●渡瀬裕哉(わたせ・ゆうや)
パシフィック・アライアンス総研所長、早稲田大学公共政策研究所招聘研究員、事業創造大学院大学国際公共政策研究所上席研究員。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。著書に『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)など

■『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』
(PHP新書 880円+税)
トランプ大統領の台頭をポピュリズムと揶揄するひと言で切り捨てたり、ステレオタイプに危険視する傾向が見られる日本のメディアや論壇。しかし、現実のアメリカ政治は「選挙」の影響を確実に受けていると著者は主張する。トランプ大統領はワシントンD.C.における政治的基盤が弱く、また民主党に対して選挙で圧勝できるだけの力を持つ人物ではない。そしてトランプ大統領の意思決定は「選挙」による影響を受けやすい立場に置かれている。「選挙」の観点から2020年以後のアメリカ政治を予測する
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インタビュー・文/川喜田 研 撮影/樋口 涼

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