『攻殻機動隊 SAC_2045』W監督・神山健治×荒牧伸志に聞く!「現実は"攻殻"の世界にどれだけ近づいた?」

荒牧伸志監督(左)と神山健治監督。モーションキャプチャで使用する広々としたスタジオで撮影。ここで、『攻殻機動隊 SAC_2045』のリアルな動きがつくられる

人間が"電脳化"して脳からネットへアクセスできる世界で、テロや汚職を撃つ「公安9課」の戦いを描いた『攻殻機動隊』。2017年にはハリウッド映画化されるなど、約30年にもわたり世界から支持されてきたSFの金字塔に、最新作が登場!

フル3DCGの新たな装いで始まる"攻殻"はどんな景色を見せてくれるのか!? 神山健治監督と荒牧伸志監督を直撃!!

■見えない戦争を可視化した世界

――『攻殻機動隊 SAC_2045』(以下、『SAC_2045』)の舞台は2045年の近未来ですが、そこでは「サスティナブル・ウォー(持続可能な戦争)」と呼ばれる戦争状態がずっと続いているという設定です。どういったところからこのアイデアが生まれたんですか?

神山健治(以下、神山) 脚本を作っているとき、半分冗談、半分本気で「今って弾が飛んでこないだけで、戦争状態だよね」って話してたんですよ。今の日本は戦争をしているわけでもないし、日常的に武器を目にすることもないけど、軍事費はどんどん上がってるじゃないですか。つまり、われわれも戦争産業には相当加担しているわけです。税金という形で。

――確かにそうですね。

神山 今は見えないその戦争を可視化した世界が、この『SAC_2045』の舞台ですよ。ただ、そういう状況は公安9課(主人公の草薙素子[くさなぎ・もとこ]らが所属する機関)の連中にとっては好ましいものではないかと思ったんです。戦いのなかに身を置いてきた彼らには、むしろ生き生きできる世界なんじゃないかと。

そこからさらに広げて、「全世界同時デフォルト」とか「ポスト・ヒューマン」っていう本作のキーワードを考えていきました。

本作の主人公、草薙素子は全身義体のサイボーグで、超凄腕のハッカーでもある。通称は「少佐」

――今回は今までの攻殻シリーズとは舞台が違うものの、"攻殻らしさ"を強く感じる作品になっていると思いました。そのバランスはどう構築していったんですか?

荒牧伸志(以下、荒牧) そこは難しいところでしたね。士郎正宗さんの原作コミックや、押井(守)さんの映画版(95年公開の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』)って、当時はまだ見たことがないテクノロジーがいっぱい出てきたじゃないですか。

でも、今や現実のほうがどんどん作品世界に近づいてきている。脳をコンピューターネットワークにつなぐ"電脳化"も、今で言うとスマホを頭に埋め込んでるみたいなことですよね。

――そう言われるとわかりやすいです(笑)。

荒牧 だからすごく作品の設定を理解しやすくはなったと思うんですけど、その分、"未来感"はなくなってしまった。じゃあ、街をもっとサイバーパンク風に描けばいいかというと、おそらく現実の未来はそうならない。

だから今回は、街や人の着ているものは今と大して変わらないけど、電脳化されているせいでひとりひとり見ているものが違う......といったような描写を丁寧に積み重ねていきました。そこに"攻殻らしさ"を感じてもらえたらうれしいですね。

■テクノロジー以上に人間は変化する

神山 僕がそもそも「S.A.C.」(02年放送のテレビシリーズ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』から始まるシリーズ)でやろうとしたのは、SF的な要素やガジェットを使って、トラディショナル(伝統的)なものを描くっていうことだったんです。

例えば、原作の「人形使い」(*1)のエピソードなんかも、テクノロジーがあるからこそ起きた事件ではあるけど、本質的には「異文化同士の交流」とか、そういうただの"出会い"の話なんですよ。

(*1)人形使い...原作コミック『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』や押井守監督による『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(95年)に登場する正体不明の凄腕ハッカー。これらの作品では、人形使いとの出会いによって、草薙素子の人生は大きく変わる

荒牧 新しい形のコミュニケーションだよね。

神山 そうそう。そこで僕が「S.A.C.」でやろうとしたのは、"全体と個"の話でした。社会やインフラという全体の中で、どうやって個人が生きていくかっていう根源的なこと。それを今回もやっています。

荒牧 ただ、漠然とした言い方ですが、テクノロジーの進化以上に人の意識の変化は複雑で大きいものになるんじゃないかという予感があります。

神山 それは僕も脚本を書きながら思いました。今回、作品を作る上でのサブテキストとして小説『1984』(*2)を開いたのですが、昔とはまったく違うふうに読めたんです。例えば、小説の中では「テレスクリーン」という技術がすごく恐ろしいものとして描かれているけど、これは今で言うとインターネットのことですよね。

(*2)小説『1984』...イギリス人作家、ジョージ・オーウェルによる1949年刊行の古典的SF小説。究極の全体主義体制のもとで人間性を貫こうとした男の悲劇的な運命を描く。本作に登場する絶対的な支配者「ビッグブラザー」、テレビと監視カメラが一体となった装置「テレスクリーン」などは、今もSFファンに語り継がれている

荒牧 『ターミネーター』の敵「スカイネット」も、インターネットのことですよね。

神山 うん。そう思うと「いいやつなんじゃね?」みたいな気もしてくる(笑)。

荒牧 「インターネットが相手じゃ勝てないよな」とか(笑)。こういうふうに、テクノロジーの進歩によって人間の意識の転換はすでに起きています。その変化も本作で描こうと思いました。

元公安9課のメンバーであるトグサは、物語の鍵を握る存在に

■20分強のモーションキャプチャに3日間

――本作はモーションキャプチャを使ったフル3DCGアニメーションとして、これまでの攻殻のイメージを覆す新鮮なビジュアルになっています。具体的にどんなふうに作っているんですか?

荒牧 モーションキャプチャは、人間の役者に演技をしてもらって、その動きを記録する技術です。そのデータを、アニメーターが修正しながら3DCGのキャラクターに落とし込んでいくんですね。

神山 普通のアニメだと、アニメーターがキャラクターの芝居を作るんですが、それをまず生身の役者にやってもらうということです。監督としては、欲しい絵をどうやって具現化するかという方法論のひとつなので、本質的には今までのアニメ作りと変わりません。

ただ、レスポンスが圧倒的に早い。手描きのアニメとなると、作画の打ち合わせをしてから絵に起こしてもらう時間が必要ですが、モーションキャプチャだとその場で演じてもらって、その場で修正できますからね。

荒牧 キャプチャする際は僕らだけじゃなくアニメーターやレイアウターにも見てもらって、僕らのやりたいことを共有しながら、必要であれば意見してもらいます。このキャプチャの作業には、20分強の1話を作るのに3日間かけています。

神山 でも、アニメーターひとりひとりと作画打ち合わせするのと比べたら、圧倒的に早いですよね。今のアニメは50人くらいのアニメーターが関わっているから、とうてい3日間じゃ打ち合わせできない。

荒牧 「いつ打ち合わせできる?」「まだ半分しかできてねぇよ!」っていう事態が起きたりね(笑)。従来そこにかけていた時間をすべて演出につぎ込めるっていうのは、この作り方のいいところです。

草薙素子の長年の相棒として今作でも活躍する元レンジャー部隊のバトー

――本作に登場する「ポスト・ヒューマン」は、見たことがないような独特の動きをしています。あの動きはどうやって作っているんですか?

神山 基本的には、ほかのキャラクターと同じように役者に演じてもらってCGに落とし込んでいます。ただ、バク転で階段を上るなんてことは人間にはできないので、アニメーターにいろいろ動きを加えてもらっていますけど。

荒牧 でも、ポスト・ヒューマンは苦労しましたよね。シナリオに「至近距離から撃っても弾が当たらない」とあるのですが、「ヤバいな、これどうやって表現すればいいんだ」と(笑)。

それで、アクションコーディネーターと一緒に試行錯誤しました。モーションキャプチャになって工程は変わりましたが、欲しいイメージを得るために悩んで作り、最終的に絵にするっていうところは今までのアニメとやっぱり変わらないですね。

シリーズでおなじみの思考戦車「タチコマ」も健在

――最後に、本作はNetflixで全世界に配信されますが、それを意識した部分は?

神山 一番考えたのは、視聴環境の変化。この作品の前に荒牧さんと、同じくNetflixで全世界配信された『ULTRAMAN』を作らせてもらっているんですけど、そこで初めて「全話一気見できちゃうんだ」っていうことに気づいたんです(笑)。

荒牧 むしろ一気見させないと負けかなって思いましたね。

神山 視聴者が簡単に先を読める展開だと、続けて見てもらえない。だから作り手の僕らも想像できないくらい物語を展開させていかないといけないんですね。

荒牧 それと同時に、もう一度見直したくなるような部分を用意したり、ネットで情報を調べながら見ると違う楽しみ方ができるといいなってことは考えました。

神山 だから、そういう見方に堪えられる"強度"がないといけない。その強度のある作品になっていると思うので、ぜひ見ていただきたいです。

「かねてから『攻殻機動隊』をフルCGで作りたいと考えていました」という荒牧監督が神山監督の共同制作を希望したことから、W監督体制につながったという

●神山健治(かみやま・けんじ)
1966年生まれ、埼玉県出身。アニメ監督、脚本家、演出家。『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(2002年)で監督とシリーズ構成を兼任。監督作は『東のエデン』(09年)、『ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜』(17年)、Netflixオリジナルアニメシリーズ『ULTRAMAN』(19年、荒牧伸志と共同監督)など

●荒牧伸志(あらまき・しんじ)
1960年生まれ、福岡県出身。アニメ監督、メカニックデザイナー。2004年に監督を務めた『APPLESEED』でモーションキャプチャを導入、世界初3Dライブアニメとして世界のアニメに影響を与えるなど、日本の3DCGアニメの第一人者として知られている。ほかに監督作は『APPLESEED ALPHA』(14年)など

■Netflixオリジナルアニメシリーズ『攻殻機動隊 SAC_2045』
原作:士郎正宗「攻殻機動隊」(KCデラックス)
監督:神山健治×荒牧伸志
2045年、すべての国を震撼させた経済災害「全世界同時デフォルト」の発生とAIの超進化により、計画的かつ、持続的な"産業"としての戦争が可能になった「サスティナブル・ウォー」の時代に突入した世界。全身義体のサイボーグ・草薙素子とその仲間たちは、かつて電脳犯罪や対テロにおいて卓越した電脳・戦闘スキルで戦う情報機関「公安9課」に所属していたが、今はアメリカ大陸西海岸で傭兵部隊として腕を振るっていた。そんな彼女たちの前に驚異的な頭脳と身体能力を持つ謎の存在「ポスト・ヒューマン」が立ち塞がる。大国間の陰謀渦巻くさなか、公安9課、通称"攻殻機動隊"が再び組織される
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(c)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊 2045製作委員会

取材・文/西中賢治 撮影/榊 智朗

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