復刊号が発売2日で重版! 日本で最も熱い映画雑誌『映画秘宝』復活記念対談 編集長・岩田和明×アートディレクター・高橋ヨシキ

「書き手の『業を肯定』する落語的な映画雑誌です」と語る岩田和明編集長(右)と「ゾンビと食人族とブルース・リーがあるから、『秘宝』は大丈夫!」と語る高橋ヨシキ氏

日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが、"地獄でも見たい新作映画"をレビューする『週刊プレイボーイ』の連載『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』。

今回は特別版として、復刊号が発売2日で重版となった日本で最も熱い映画雑誌『映画秘宝』の編集長・岩田和明氏と、同誌のアートディレクターでもある高橋ヨシキ氏の対談をお届けする。

■節操がないからいろんな「入り口」がある

――いきなりですが、おふたりにとって、『映画秘宝』(以下、「秘宝」)はどんな雑誌なんですか?

岩田和明(以下、岩田) 「出版界の常識を破り続ける、文字どおり掟(おきて)破りな奇跡の映画雑誌」ですね。僕が関わった13年間、実売数がずっと変わらず、休刊前の1年間は粗利が右肩上がり。復刊号も発売2日で重版。版元の双葉社で編集歴30年の局長も「初体験だ!」と驚いてました。

4月21日に双葉社より復刊を果たした『映画秘宝』

――なぜそんな雑誌を宝島社は手放したのですか?

岩田 知りません(笑)。昨年の12月初旬に休刊と告げられた後、双葉社に復刊の相談をしに行きました。そしたら「秘宝」ブランドをすごく面白がってくれて、いちばん欲しがってくれたんですよ。洋泉社の泉から、『映画秘宝』という双葉が芽吹いたという感じでしょうか(笑)。

高橋ヨシキ(以下、高橋) 僕が思うに『秘宝』というのは「好きなものは好きでいいに決まっている」というメッセージだよ。世間がどう言おうが、それでいいんだ、という。節操がないから、いろんな「入り口」がそこにはある。その意味で、とても雑誌的な雑誌なんだと思うよ。

岩田 古今東西の映画はもちろん、テレビドラマから配信まで、まさに節操なく多様性に富んだ多ジャンルの作品を全部面白く濃く紹介した上で、どんなに短い原稿でも、それぞれのジャンルのコアなファンに深く刺さるように書く。そこから別の記事へ読者の興味のコンボが起きるように意識しています。

「秘宝」はホラーやアクションが得意ジャンルと言われますが、僕自身が最も好きなのは新旧の日本映画だし、表紙がアニメ映画『この世界の片隅に』(*1)のときもあるし、レザーフェイス(75年公開『悪魔のいけにえ』に登場する、人肉マスクをかぶったチェーンソー使いの伝説的な殺人鬼)のときもあるっていう節操のない振り幅とコンボの魅力こそが雑誌の面白さだと思っています。

それと「秘宝」最大の功績といえば、『サイテー映画』や『底抜け超大作』『切株映画』など、映画の新しい価値体系を提示して映画の見方を変えたことですよね。

(*1)『この世界の片隅に』(2016年、日本、片渕須直監督)...戦時下の広島・呉を生きる人々を描いた同名マンガの映画化。2016年度の映画秘宝ベスト10で2位を獲得。その後、映画秘宝はヒロインの声優を務めた「のん」を猛プッシュ。本作のヒロイン・すずや、2017年公開の『ワンダーウーマン』のダイアナを完全再現させた表紙を掲載するなど、独自路線で突っ走った

高橋 「人体がバラバラになるという点において、『プライベート・ライアン』(*2)とスプラッター映画は同じ地平にある」とかね(笑)。とんでもないマニアの人が記事を書いているのも面白い。まったく話についていけなくても、何かに夢中になることの「楽しさ」がすごく伝わってくるという。

(*2)『プライベート・ライアン』(1998年、アメリカ、スティーブン・スピルバーグ監督)...第2次世界大戦時のノルマンディー上陸作戦を舞台にした戦争ドラマ。冒頭約20分のあまりにリアル、あまりに阿鼻叫喚な戦闘シーンは、今も映画ファンの語り草に

岩田 言ってる意味はよくわからないけど、やけに盛り上がってるから見てみようかなと(笑)。そんなふうに書き手の皆さんには忖度(そんたく)なしで常に自由にフルスイングしてもらってます。

高橋 それでいろんな人を怒らせることもあるよね(笑)。

――おふたりが「秘宝」に関わるようになった経緯を教えてください。

高橋 1998年からですね。ヘンテコな映画のホームページをやっていたら、編集部から声をかけてもらって。

岩田 僕は06年に編集部員募集に応募して入りました。前職はエロ本編集者だったんですが、実はそのときからヨシキさんとはお付き合いがありまして。「バックヤードレスリング」というアメリカ南部でビール片手に家の裏庭で殴り合う暇な貧乏白人動画の原稿とかを書いてもらってました(笑)。

今でも貧乏白人の映画がNetflixとかで配信されると、ヨシキさんが「秘宝」で記事にしてますよね。そのときから何も変わってない(笑)。

高橋 ホワイト・トラッシュ文化研究は、僕のライフワークなの!(笑)

岩田 ライフワークといえば、ヨシキさんが担当している「秘宝」の読者投稿コーナーは21年も続いています。同じ人がここまで長く読者投稿コーナーを担っている雑誌は、世界的に例がないかも。ギネスに申請してもいいですか?

高橋 どうでもいい(笑)。投稿コーナーは読者との距離感が近くてね。深夜ラジオの感覚に近いものがある。

岩田 実は僕も深夜ラジオのノリを意識して記事を作ってます。深夜ラジオって、リスナーがネタを発展させて膨らませていくじゃないですか。その連続性こそが定期購読者を生む鍵じゃないかと思って。

「秘宝」の読者コーナーでいえば、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(*3)公開後に「V8!」って連呼する投稿が大量に届いて、公開から数年後までその流れが継続しました。実に深夜ラジオ的。

(*3)『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年、アメリカ、ジョージ・ミラー監督)...核戦争後の荒廃した世界を舞台にしたアクション映画。2015年度の映画秘宝ベスト10で堂々1位。今年4月発売の復刊号でも2010年代のベスト映画として表紙に。「V8」はイモータン・ジョー(ラスボス)の私設部隊「ウォー・ボーイズ」があがめるV型8気筒エンジンのこと。誰もが本作を見た後に「V8! V8!」と叫びたくなる

■逆境の映画界で「秘宝」は輝く

――「これぞ映画秘宝!」という印象的な企画、特集は?

高橋 大判化したての頃、校了中に『DEAD OR ALIVE 犯罪者』(*4)を見た町山(智浩)さんが、「これを載せないなんてありえない!」と無理やりページをねじ込んだことがあったけど、あれは"秘宝的"なシーンかも。『チャーリーズ・エンジェル』(*5)のとき、僕も同じことをしましたが。

(*4)『DEAD OR ALIVE 犯罪者』(1999年、日本、三池崇史監督)...竹内力、哀川翔W主演のコテコテのVシネマ......と思いきや、あまりにぶっ飛んだラストシーンで「日本映画史に残る」とまで評された一品

(*5)『チャーリーズ・エンジェル』(2000年、アメリカ、マックG監督)...70年代後半に人気を誇ったテレビシリーズのリメイク作で、美女3人による底抜けに明るいスパイアクション

岩田 首脳陣の欲望や業を最優先して誌面に反映するのも「秘宝」ならではですよね。「業の肯定」という意味では落語的な雑誌だと思います。

高橋 あとは『キル・ビル』(*6)が製作中、というニュースを受けて、そのときわかってた情報だけに基づいてフェイクポスターを作ってみたり。

(*6)『キル・ビル』(Vol.1:2003年、Vol.2:2004年、アメリカ、クエンティン・タランティーノ監督)...一族郎党を皆殺しにされた元殺し屋女による復讐劇。タラ監督の日本映画や香港映画への愛がパンパンに詰まった作品

岩田 えっ、あれは映画を見てから作ったのではなく?

高橋 だって、まだ製作中だったから。断片的な情報を基に作ったんだ。あのポスターは当時割と話題になって、タランティーノも来日時に「これ知ってる! ネットで見たよ」と言ってたね。

岩田 以降、ヨシキさんはタラの新作が来るたびにフェイクポスターを作り続けて、彼が来日するたびに渡してますよね。結果、タラは自分の映画館で『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19年)を上映したとき、劇場前にヨシキさんのフェイクポスターを飾ってました。

高橋 プレゼントしたやつだね。

岩田 あと、伝統的な「秘宝」のすごさといえば"先取り"ですね。今年の米アカデミー賞は韓国のポン・ジュノ監督が作品賞と監督賞を獲りましたが、「秘宝」はすでに10年前に『殺人の追憶』(*7)を00年代のベスト映画に、ポン・ジュノをベスト監督に選んでます。

アメコミ映画も「マーベル・シネマティック・ユニバース」(*8)が流行する15年以上前から「このアメコミを読め!」とかでっかく特集してましたよね。

(*7)『殺人の追憶』(2003年、韓国、ポン・ジュノ監督)...80年代韓国の軍事政権下で起きた実在の連続殺人事件をモデルにしたサスペンス作。日本でもヒットし、ポン・ジュノ監督の名前は一躍有名に

(*8)「マーベル・シネマティック・ユニバース」...マーベルのスーパーヒーロー実写映画を、ひとつの世界観でクロスオーバーさせるプロジェクト。シリーズ累計の興行収入は堂々の世界歴代1位。ちなみに、ヒーローたちが大集合する"お祭り"が、あの『アベンジャーズ』シリーズ(2012年〜)だ

高橋 先取りと言うとカッコいいけど、いつも同じことを言い続けてるから、時代が動くと当たったように見える、というのが正解かも。

岩田 ブレずに、ずっとゾンビの話をしていたら、『ウォーキング・デッド』(*9)のブームが起きたり(笑)。

(*9)『ウォーキング・デッド』...2010年から放送のテレビドラマ。あらゆる生き物を食い尽くし、人間をゾンビ化させる生ける屍「ウォーカー」から逃れアメリカを旅する人々を描いた。これまでシーズン10まで制作されている大人気シリーズ

高橋 長年にわたって『食人族』(*10)の話をしていたけど、まさか『グリーン・インフェルノ』(13年)が登場するとは思わなかったしね。

(*10)『食人族』(1983年、イタリア、ルッジェロ・デオダート監督)...アマゾンの秘境を訪れたテレビレポーターが人食いの風習がある部族に食い殺されるまでを描いたフェイクドキュメンタリー。同作をモチーフにヒットしたのが『グリーン・インフェルノ』(2013年、アメリカ、イーライ・ロス監督)

岩田 僕の企画で近年の「秘宝」の流れを決定づけたのは、ヨシキさんが全3部作とも特集デザインを手がけてくれた「ホビット完全攻略」(13年2月号)ですね。

はっきりとこれは今のダメな映画パンフレットを仮想敵にして作りました。作品愛と濃い解説が詰まったこの特集号が売れた結果、「究極攻略」路線と派生ムック本の流れが生まれた。

――コロナ禍によって立て続けに新作映画が公開延期になってますが、そのなかで復刊号を出すことに躊躇(ちゅうちょ)はありましたか?

岩田 まったくなかったですね。逆にピンチこそチャンスじゃないかと。飛んできたコロナ禍という球をバットの芯でどう完璧に打ち返すかだけをひたすら考え続けた結果、たまたま復刊号の「元気が出る映画特集」がホームランを放り込んで共感の嵐を呼んだだけです。

高橋 「秘宝」は新作情報だけの雑誌じゃないのも強い。たとえ新作が今後10年作られなかったとしても、ゾンビと食人族とブルース・リーがあるから大丈夫!(笑)

――映画がある限り、「秘宝」は死なないと。

高橋 地上波のテレビで洋画がバンバン見られた時代も過去のものになり、映画に「偶然」出会うチャンスは明らかに減りました。だからこそ「秘宝」や週プレでの連載などを通して、「映画ってほんとに面白いんだぞ!」と伝え続けたいですね。

岩田 週プレ読者の皆さんは、ぜひ「秘宝」の読者コーナーに投稿してください! ヨシキさんと活字で会話ができますよ!

高橋 何言ってるかわからない!

『映画秘宝』2020年7月号/税込1,320円で双葉社より発売中。『時をかける少女』原田知世(C)KADOKAWA 1983

●岩田和明(いわた・かずあき)
1979年生まれ、千葉県出身。舞台スタッフ、出版社勤務などを経て06年より『映画秘宝』編集部に所属。12年より編集長。企画・編集した本に、別冊映画秘宝シリーズ『ロード・オブ・ザ・リング&ホビット 中つ国サーガ読本』『ブレードランナー究極読本&近未来SF映画の世界』(ともに洋泉社)など多数

●高橋ヨシキ(たかはし・よしき)
1969年生まれ、東京都出身。映画ライター、デザイナー、サタニスト。『映画秘宝』ではアートディレクター、読者投稿コーナーを担当。著書に『新悪魔が憐れむ歌』『スター・ウォーズ 禁断の真実(ダークサイド)』(ともに洋泉社)、『暗黒ディズニー入門』(コア新書)など。現在、長編初監督作品『激怒』を製作中

■『映画秘宝』とは!?
1995年に町山智浩氏と田野辺尚人氏が創刊。大作映画はもちろん、B級作から日本非公開のZ級作まで幅広く取り上げる総合映画雑誌。発行部数は公称5万部。熱すぎるライター陣による前のめりなインタビュー、作品解説、評論などで映画ファンから愛され続けている。版元の洋泉社が親会社の宝島社に吸収合併され、宝島社が同誌継続の意思を否定したことで今年1月に休刊したが、4月21日に双葉社より復刊を果たした

取材・文/加藤よしき 写真/五十嵐和博(高橋ヨシキ)

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