江口寿史がCDジャケットを集めた最新イラスト集『RECORD』を発表「僕の絵の基本はエモさですかね。楽しい中にも、どこか切なさがある」

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漫画家・イラストレーターの江口寿史(えぐち・ひさし)氏が、4月末に最新作品集『RECORD』(河出書房新社)を発売した。

これは江口氏にとって初のジャケットアートワーク集で、CDジャケットのために描き下ろしたイラスト29点をLPレコードサイズで収録した豪華な一冊。作品が特別仕様のプラスチックケースに入っており、その時々の気分で表面を入れ替えられるようになっている。そんな仕様からも、江口氏の強い音楽愛が感じられる。

今回の作品集の制作エピソードから、音楽への熱い想いについて、江口氏に聞いた。

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――最新作『RECORD』は、江口先生にとって初のジャケットアートワーク集。LPサイズといい、それをプラケースに入れて中身を入れ替えられる仕様といい、相当力の入った内容ですね。

江口 イラストをLPサイズの大きさで見せる、というのは前にも一度やってるんです。立花ハジメさんと作った画集『no matter』(1988年、双葉社刊)がそれですが、その時のイラストはCDジャケットのために描いた絵というわけではなく、まあ普通にいろんな仕事で描いた絵をサイズだけLPサイズにして収録したもので。

今回のは全ての絵がCDジャケットのアートワークとして描いたものばかりですから、正しい意味での「初の音楽ジャケットワーク集」ということですね。CDの絵として描いている時も、本心は「LPレコードサイズにしたいな」と思っているわけで。大きくした絵を1枚1枚レコードのように飾れたらいいな、というね。その夢を叶えた感じですね。でも実現するのはなかなか大変でしたけどね。

――担当編集の方によれば、企画から完成まで1年半かかったとか。

江口 そうですね。頭で描いた理想を現実に形にする過程でいろんな試行錯誤があったし、細かな仕様調整が必要だったし。前例がないですからね、こんな出版物。あと毎度だけどライナーノーツにも手こずっちゃって(笑)。

――32ページのブックレットに、ご自身で作品解説されてますよね。

江口 僕、大瀧(大滝)詠一さんとか山下達郎さんとかがリマスター盤を出す度に、自分で作品解説するライナーノーツが好きでね。自分でも単行本出すときは必ずなにかしらくどくど書くんだけど、今回は自分だけのことじゃないからね。中身の音楽自体は人の作品なんで。気兼ねも遠慮もあるし。書きづらいとこあって。それに今回、吉田拓郎さんに推薦文を寄稿してもらったんで、その返答になる後書きにしようと思ったら、それもまたプレッシャーになっちゃって(笑)。

――でも大瀧詠一さんもアルバム出すのに延期してましたし(笑)、待った甲斐がありましたよ。今回の作品の中で、特に思い入れがある作品は?

江口 思い入れはもちろん全部にあるけど、銀杏BOYZの『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』(2005年)はやはり僕の中では大きいかな。

――『ストップ!!ひばりくん!』(1981年)の扉絵を描き直したジャケットですね。

江口 そう。あれで僕のマンガを読んだことのない世代が大勢ファンになってくれました。一時期「銀杏の人」とも言われてましたしね(笑)。ある意味、自分のキャリアの上で転機になった作品で、あれがあったから今もこうして仕事しているというのはありますね。

――仕事の転機がCDジャケットというのが、マンガ界きっての音楽好きとして知られている江口先生らしいというか。もともと先生は『すすめ!!パイレーツ』(1977年)の頃からいろんなミュージシャンを作品中に登場させていましたね。

江口 やってました。毎日、レコードばかり聴いてたからね。僕、『パイレーツ』の頃は集英社に泊まり込んで描いてたんですけど、執筆室のフロアに『週刊プレイボーイ』の会議室があったんです。で、そこにオーディオセットとレコード会社から届く見本盤がたくさんあってね。聴いて気に入った曲をネタとしてマンガにしていたんです。サザンオールスターズの『勝手にシンドバッド』なんて発売前に描いたんじゃないかな(笑)。

あと集英社のある神保町にはレコード店もいっぱいあったんで、しょっちゅう覗きに行って。他にお金を使う時間もないから、月に軽く10万円くらいはレコードを買ってたかなー。

――そんなに! 先生が音楽にのめり込むようになったのは吉田拓郎さんだったそうですね。どこがよかったんですか?

江口 いやー拓郎さんにハマってた頃は「音楽に」というより「拓郎さんそのものに」ですね。拓郎さんの歌のリアルな生活感。それまでのフォークって社会的な歌が多くて。「私たち」とかね、主語が大きいのもちょっと嫌だった。拓郎さんは等身大の言葉で身の回りのことを歌うんです。それがすごくかっこよくて。あと言葉もコードも簡単で真似できそうなのもよかった。もちろんできないんですけどね(笑)。吉田拓郎になりたかった。

――要はすごくポップだったと。でも『パイレーツ』や次作の『ひのまる劇場』(1981年)、『ひばりくん』の頃はニューウェイブにハマってましたよね。日本のフォークと欧米のニューウェイブって、随分とかけ離れていると思うんですけど、何があったんですか?

江口 のめり込むようにいろんな音楽を聴き漁るようになったのは細野晴臣さんの影響が大きいですよね。僕、細野さんが音楽家の中で一番好きなんです。細野さんって、マンガ界でいえば手塚治虫先生みたいに、あらゆる分野の音楽をやってしまう人じゃないですか。それこそフォークからテクノ、民族音楽、環境音楽まで。70年代の終わり、細野さんがテクノを演り出したことで、自分も興味を持つようになったんです。クラフトワークから入って、ディーヴォにいって。同時にライ・クーダーとか沖縄音楽とかにも行くんですよ。細野さんを入り口にいろんな音楽世界が広がっていく。

僕、それまで加山雄三、歌謡曲、GS、拓郎さんって流れで音楽を聴いてたから、洋楽を聴いてこなかったんです。唯一聴いていたのはせいぜいサイモンとガーファンクルだけ。ツェッペリンもディープパープルも、ビートルズも聴いてなかった。洋楽はニューウェーブ以降から。だから同世代ではなく、下の世代との方が話が合うんですよね(笑)。

――先生のマンガを読んでニューウェイブに目覚めた当時の子供は多いです。ディーヴォなんて、マンガに何度も出てきたし。

江口 坂本龍一さんの『B2ユニット』(80年)ってアルバムが出た時、『週刊少年ジャンプ』に広告が載ったんですけど、あれはまあ確実に僕の功績ですよ(笑)。

――ジャンプに坂本龍一はすごい! ちなみにCDジャケットを手がけるときに特に意識する点は?

江口 レコード店で一番、目立つようにすることかな。僕は音楽への憧れがものすごくあるんです。だからジャケットを頼まれたら「絶対に売ってやろう」って思う。それこそ手にとって、ジャケ買いさせるのを目標に描きますね。

――どれも女のコの絵なのはそういった理由ですか?

江口 いや、それはそういうオファーが多いからです(笑)。僕は風景だけの絵とかも描きたいんですけど、それは僕には求められてないみたいで。

――その「一番、目立たせたい」みたいなサービス精神は、先生が『週刊少年ジャンプ』出身っていうのもあるんですかね?

江口 あー、それはあるかもしれない。描いたからにはとにかくウケたいですから。漫画であれイラストであれ(笑)。あとジャケットは、絵を描く媒体として楽しいってのもあります。広告の仕事みたいに「女の子の表情は必ず笑顔で」とか、「スカートを短すぎないように」とか、細かいこと言われないから。割と任せてもらえる。

――自由度が高いと。描く女のコがそのアーティストのファンにいそうな印象を受けるんですけど、リサーチなんてするんですか?

江口 いや、そういうのは特に(苦笑)。曲を聴いてるとなんとなくわかっちゃいます。あと僕の絵はエモいんですよ。楽しげな中にも、どこか切なさがあるというか。だからそんな風に思い入れを持って受け止めてもらえるんじゃないかな。『パイレーツ』でもたまにエモい話とかあったでしょ(笑)。

――妹の体に憑依して活躍する、沢村真投手の話とか......。

江口 そうそう! ああいう読んでキュンとするものが好きなんですね。ジャケもやっぱりそんなキュンとくる部分をどこかで意識していますね。

――ちなみに今までCDジャケットにまつわるお仕事で、印象に残ってることはありますか?

江口 吉田拓郎さんのジャケットを描かせて頂いたことかな。子供の頃に好きだった人の作品をやるってのは、特別な想いがありますよ。でも僕、拓郎さんとの打ち合わせに2時間くらい遅れちゃったんです(苦笑)。いや、それ地下鉄の事故でですよ。寝坊とかじゃないから! でも怒らずに待っててくださって。僕のイラスト集を見て「こういうコいるよね〜」なんて言ってくれて、本当にうれしかったなぁ。あと出来上がったジャケも喜んでくれたのもホッとしました。

――何事につけ「遅れる」のが江口先生らしいというか(苦笑)。最後に、今後ジャケットを描きたいミュージシャンはいますか?

江口 もし細野さんから依頼が来たら絶対にやりたいけど、細野さんは僕に発注しないと思いますね(苦笑)。あとユーミン(松任谷由美)とか矢野顕子さんのジャケットとかね。でもやりたいと言って、やれる仕事ではないですから。それに聴いたことないアーティストでも一緒にお仕事させてもらうとやってよかったと思うことは多いし、その時々の出会いを大切にしたいですね。それでいつか今回の作品集の第二弾が作れたらいいかなって。

――すごい創作意欲ですね。

江口 でも、今回収録したジャケットって1992年から2020年までのなんで、おおよそ30年分なんですよ。だからそこまでにはまだ当分は時間がかかってしまいそうですけどね(笑)。

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■江口寿史(えぐち・ひさし)
1956年生まれ。1977年『週刊少年ジャンプ』にてデビュー。代表作に『すすめ!!パイレーツ』『ストップ!!ひばりくん!』など。1980年代以降はイラストレーターとしても多方面で活躍中。近著に『King Of Pop』5000円(税別)/玄光社、『Step』2000円(税別)/河出書房新社など

●『RECORD』4500円(税別)/河出書房新社
【収録作品】(※発表順)
BAHO『HAPPENINGS』/VARIOUS ARTIST『IS RELEASE A HUMOUR? 〜we love TELEX〜』/BBB『BBB』/朝日美穂・直枝政広&ブラウンノーズ『TRIBUTE TO YASUYUKI OKAMURA EP』/VARIOUS ARTIST『どんなものでも君にかないやしない 岡村靖幸トリビュート』/ROUND TABLE『SUNNY SIDE HILL』/吉田拓郎『一瞬の夏』/銀杏BOYZ『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』/MAMALAID RAG『the essential MAMALAID RAG』/SHIT HAPPENING『Lodge』/lyrical school『datecouse』/Shiggy Jr.『LISTEN TO THE MUSIC』/新・チロリン『Last Pajama Party』/東京スカパラダイスオーケストラfeat.片平里菜『嘘をつく唇』/Shiggy Jr.『ALL ABOUT POP』/大森靖子『MUTEKI』/lyrical school『WORLD'S END』/so nice/RYUTist『日曜日のサマートレイン』/lyrical school『BE KIND REWIND』/so nice『光速道路』

取材・文/大野智己

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