陰謀論は一度消えても、若者の間でまた"リバイバル"する

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『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、アメリカの若者に拡散する陰謀論について指摘する。

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米中西部ウィスコンシン州ケノーシャで、警察官が29歳の黒人男性の背後から7回発砲し、重傷を負わせた事件に対する抗議活動は全米に拡大。"震源地"のケノーシャではその一部が暴徒化し、今度はアサルトライフルを持った17歳の白人少年がデモ参加者を襲撃、3名の死傷者が出る惨事も起きてしまいました。

人口10万人規模の田舎町ケノーシャの地元警察にはもともと"荒々しい振る舞い"をするカルチャーがあったようで、過剰な正当防衛で市民を射殺したケースが過去に何度もありました。ただ、その"被害者"には白人も含まれており、内部に明確な黒人差別カルチャーがあったかどうかは定かではありません。

数年前には"おかしな振る舞い"をしていた当時21歳の白人男性が警察官に射殺され、遺族が州を相手に訴訟を起こし勝訴したにもかかわらず、同州が警察改革に乗り出すことはなく、今回も警察官はボディカメラさえ装着していなかった。警察の横暴が全米で問題視されていてもこの体たらくですから、地元警察の体質は推して知るべしでしょう。

一方、デモ隊が暴徒化した要因はやや複雑です。まず地元警察はマンパワーに乏しく、大挙して訪れた「Black Lives Matter(BLM)」運動のデモ隊に対応できず機能不全に陥ってしまった。

この事態を収拾すべく州兵の派遣が検討されましたが、同州のトニー・エバーズ知事は民主党系で、BLMに共鳴する姿勢を見せるために州兵の派遣規模はかなり小さなものになりました。

その結果、興奮状態にあるデモ隊のコントロールに失敗。そしてデモ隊の暴動や略奪に危機感を覚えた「ミリシャ」と呼ばれる右派の民兵集団がケノーシャに集結したのですが、その中に、アサルトライフルを持った17歳の白人少年もいたのです。

ミリシャは白人至上主義的な色合いもありますが、基本的にはテロを起こすような集団ではありません。しかし、この少年は「何か」が違った。――少年の素性についてアメリカではさまざまな報道がなされており、彼のフェイスブックには"警官の人権擁護"を主張する「Blue Lives Matter」運動への共感や、自らアサルトライフルを持った写真などがアップされていました。

「白人警官も被害者。警察と一緒に暴徒から街を守るため、銃を取らなきゃ!」という極めて純粋な気持ちが見てとれますが、それが極右系の陰謀論に煽られた結果であることも推察されます。

近年、ネットでの陰謀論の拡散が問題視されてきましたが、どうやら若者を中心にその程度はひどくなっているようです。先日はTikTokで、歌手のジャスティン・ビーバーが世界を陰で支配する秘密結社「イルミナティ」による小児性愛組織「ピザゲート」の被害者だという荒唐無稽(こうとうむけい)な陰謀論が広まりました。

ピザゲート論は4年前の米大統領選の際に流布し、2018年頃には収束していましたが、その経緯を知らず、「ネタをネタだと認識できない」若年層の間でリバイバルしたわけです。

日々、膨大な情報のなかから"正しい"ものを拾い続けることは誰でも難しい。特に社会経験が少ない若者にとっては、この世界は落とし穴だらけでしょう。そんなカオスを生んだ"犯人"は誰か。次回はそんな話をしたいと思います。

■モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(関テレ)、『所さん!大変ですよ』(NHK総合)、『Morley Robertson Show』(Block.FM)などレギュラー出演多数。2年半に及ぶ本連載を大幅加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

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