『マツコの知らない世界』総合演出が『相撲道』でドキュメンタリー映画初挑戦「自分のバラエティのスキルをいかにスライドできるか、新しい挑戦です」

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「武器を持たぬ侍たちのエンターテイメント・ドキュメンタリー」と銘打たれた相撲ドキュメント映画『相撲道〜サムライを継ぐ者たち〜』の公開が、10月30日より始まった。監督を務めたのは、坂田栄治。TBS社員として『マツコの知らない世界』『細木数子のズバリ言うわよ!』などの総合演出をしたテレビマンだ。

20年以上、バラエティ畑にいた坂田がなぜドキュメンタリーを、そして映画という土俵で撮ったのか。その理由とともに相撲の魅力やバラエティの現在を語る。

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■力士個人や技術ではなく"相撲文化"を伝えたかった

――さっそくですが、今作を撮ったきっかけは?

坂田 東京オリンピックの年に、日本のために自分の映像制作能力を使って何かできないかと思っていました。そんなときに、相撲部屋の朝稽古を見て衝撃的だったんです。

それから両国国技館に行って、その迫力に驚かされたんです。NHKで見てたものと全く違うじゃんと。観客のお祭りとして楽しんでいる空気も知らなかった。そこで、これは映画だなと思いました。映画ならテレビと違い海外の人にも観てもらえますし。

――朝稽古のどこに衝撃を受けたんですか?

坂田 自分があまりに相撲を知らなかったことですね。もちろん相撲の取組もテレビで見てたし、力士個人に密着したドキュメンタリーも見てたんですよ。でも、それは力士個人だったり、その技術面を見ていただけで、"相撲文化"には目を向けていなかったんです。

お相撲さんがどんな稽古をしているか知ってます? 作中でも流れますが、多くのお相撲さんがいる中で土俵はひとつ。稽古をするためには土俵の取り合いが必要。相撲の稽古は社会の縮図なんですよ。手を上げた人にはチャンスがあるが上げなくても生きていける。

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――10人以上の力士が廻しをつかんで前進する「ムカデ稽古」や大型重機用のタイヤを持ち上げる稽古なども印象的でしたが、何人もの力士たちがぶつかり稽古に挑むために、真剣な表情で迫る光景は異様でした。

坂田 そうでしょう。そういう場面は個人を主人公にしたドキュメンタリーや報道では描かれないんですよ。でもそれが、相撲の文化のひとつとして、自分が思った稽古のすごさなんです。

■バラエティこそ万能 そのスキルを広げるのが現代

――ところで、坂田監督はTBSでバラエティ番組を作っていたと伺いました。なぜ今回、ドキュメンタリーを?

坂田 まずバラエティってテレビ局のなかで、どこか虐げられてるんですよ。でも、俺はバラエティ番組を当ててる人達は最強だと思ってて。だって、バラエティ番組って形がないでしょ。お笑いだけじゃなく、再現があったりクイズも出来たりなんでも出来る。ドキュメンタリーはバラエティ番組の中でやってる一部なんですよ。

『マツコの知らない世界』もドキュメンタリーだから。マツコ(・デラックス)さんが何を感じるのか、ゲストもどうマツコさんを驚かせるのかっていうドキュメンタリー。それの延長線上なんです。

――たしかにバラエティにはあらゆる要素があります。むしろジャンルを特定できないものをバラエティと呼んでいる気がします。バラエティとドキュメンタリーの共通点に気づいたきっかけはあったんですか?

坂田 30代前半に辰吉丈一郎さんのドキュメンタリーを撮ったことがあるんですよ。そこで、やってることは一緒だなと確信しました。この人をどう撮影してどう見せるか、どう視聴者に辰吉丈一郎さんの魅力を伝えるのか、構成は一緒なんですよ。

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――それから、ドキュメンタリーを撮りたいと思っていたんですか?

坂田 バラエティで忙しかったけど、どっかで撮りたいとは思ってたし、あとは新しい挑戦をしたかったんです。番組もいくつか当てたし、このままやってても自分にとって進化がないというか、同じことやってるだけだなって思ってて。

今回ドキュメンタリーはできたけど、CMやMVも作りたいし、フィクションを作ったことは無いからドラマも挑戦したい。地上波だけやってていい時代じゃないんですよ、もう。自分のスキルをいかにスライドできるか、どう生かすか、幅広くできた方がいいなと。漫画原作の話も進んでいたんですけど、それもテレビの台本を書くことと漫画の企画を考えるのは同じなんですよ。

――それこそ映像や企画のスキルでいうとYouTubeは?

坂田 獣神サンダーライガーさんや細木かおりさんのYouTubeを手掛けてます。YouTubeが盛り上がってるのにYouTubeチャンネルやらなかったのは歯がゆかったから、ようやくって感じですけど。

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――ひとつのジャンルに固執せず幅を広げるというのは、今の時代らしいですね。

坂田 そうですね。ただ今回ドキュメンタリーを撮れたのは、いいタイミングでした。今、ドキュメンタリーめちゃくちゃ人気で、例えばNetflixには面白いドキュメンタリーがたくさんあリます。日本でいうバラエティってものは衰退してきてる。予算もやれることも限られたなかで昔のバラエティはもうできない。だからいいタイミングで挑戦できたなって思います。

――いろいろな新しいことに挑もうとしている坂田監督ですが、最後に映画のPRをお願いします。

坂田 格闘技で基本的に頭突きって禁止なんですよ、危険すぎて。なのに相撲では許されている。それに100キロ以上の巨躯がぶつかり合う衝撃は、毎日交通事故に遭うようなもの。そんな超人たちが生きる相撲の世界を知ってほしいです。特に相撲を知らない人が「お相撲さんってカッコイイな」と思ってくれたらうれしいです。

■『相撲道〜サムライを継ぐ者たち〜』
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TOHOシネマズ 錦糸町、ポレポレ東中野ほか全国公開中。
1500年以上もの歴史の中で日本人の暮らしに深く根付き、今や国技となった「相撲」。そこには知られざる世界があった――。2018年12月〜2019年6月の約半年間、境川部屋と田川部屋の二つの稽古場に密着。想像を絶する朝稽古、驚きの日常生活、親方・仲間たちとの固い絆、そして、本場所での熱き闘いの姿を追いかける中で、相撲の魅力を歴史、文化、競技、様々な角度から紐解いていく。

取材・文/鯨井隆正

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