従来の戦争を無力化するゲームチェンジャー。アゼルバイジャンvsアルメニア、「無人機」戦争の衝撃

 空対地ミサイルを2発搭載できるトルコ製の大型無人機TB-2。アゼルバイジャン軍による無人機戦術の「真打ち」として登場した

強力な対空防御網を携えた重厚な戦車がドンと陣取り、作戦を進めていく――。そんな従来型の戦場は今後、姿を消していくのかもしれない。

ゲームチェンジャーは「無人機」。中央アジアの紛争ではっきり見えた、新たな戦術の脅威を徹底分析する!

(この記事は、10月12日発売の『週刊プレイボーイ43号』に掲載されたものです)

■大型の無人機をおとりにした特攻作戦

9月27日にアゼルバイジャン(以下、アゼル)国内のナゴルノ・カラバフ自治州で始まったアゼル軍とアルメニア軍の軍事衝突。その背景はかなり入り組んでいる。

ナゴルノ・カラバフ自治州はアゼル国内に位置するものの、アルメニア人による未承認の政府が実効支配している。そして、今回の衝突の引き金をアゼル、アルメニアのどちらが引いたかは明らかではないが、周辺諸国はさまざまな思惑から両国を後押ししているのだ。

国際政治アナリストの菅原出(いずる)氏が解説する。

「アゼルを主に後押ししているのはトルコです。トルコは、停戦合意したリビア内戦に参戦していた傭兵(ようへい)をナゴルノ・カラバフの戦闘に送り込んでおり、アルメニア側はその規模を約4000人と見積もっています(実際の数字は不明)。

一方、アルメニアのほうはトルコと関係の悪いUAEが後押ししていて、今回の戦闘にUAEが支援するシリアやイラクのクルド民兵が加わっているようです。

この紛争の背後には中東をめぐる『トルコvsUAE・イスラエル・サウジアラビア・エジプト連合』の対立構図が見られます。トルコの弱体化を狙って反トルコ勢力がアルメニアを支援し、逆にトルコはこの機会に勢力拡大をもくろみ、紛争が激化しているのです」

前述のとおり、ナゴルノ・カラバフ自治州はアルメニア人が実効支配している。そのため、「待ち構える自治州軍・アルメニア軍vs攻め込むアゼル軍」というのが衝突の基本構図だ。

フォトジャーナリストの柿谷哲也氏が、アルメニア側の体制を解説する。

「自治州は陸軍の兵力2万5000人、空軍のSu(スホーイ)−25攻撃機2機、Mi(ミル)−24戦闘ヘリ4機を有し、さらにアルメニア陸軍のT−90戦車、T−72戦車、ロケットランチャーも駐留しています。

そして空軍戦力は脆弱(ぜいじゃく)であるものの防空体制は整っており、ロシア製のS−300長距離対空ミサイル、9K33オサー短距離対空ミサイルを配備しています」

これに対して、アゼル軍が差し向けた"刺客"は――大小さまざまな無人機(ドローン)だった。

まず、アゼル領内から次々と離陸したのは旧式のAn(アントノフ)−2輸送機。北朝鮮では特殊部隊を敵地に潜入させるために使われているこのAn−2を、アルメニア防空部隊は次々と撃墜した。

しかし、これは罠だった。アゼル軍のAn−2は簡易なラジコンのように改造された無人機で、単なる"おとり"だったのだ。

続いて、アゼル軍の移動車両から空に放たれたのは、イスラエル製の全長2.5m、翼幅3mの無人機「ハロップ」。高いステルス性と最大1000qの飛行能力を備え、標的が発する電波を感知すると自律飛行で"特攻"し、自爆攻撃を行なう。

"カミカゼ・ドローン"の異名を持つこのハロップは、An−2が撃墜される際、アルメニア軍のS−300対空ミサイル発射システムのレーダー電波を感知し、23sの爆薬を抱えて特攻。アルメニア軍の"対空防御の要"を次々と破壊した。同様の手法で、計14基の短距離対空ミサイルシステム9K33オサーもハロップの餌食となった。

こうして航空優勢が確保された自治州上空に向けて、今度はアゼル領内からトルコ製の大型無人機バイラクタルTB−2(全長12m、翼幅6.5m)が離陸した。

「TB−2は2019年からイラク、リビア、シリアで実戦投入されています。24時間滞空でき、行動半径は150q。トルコ国産のMAM−L空対地ミサイルを2発搭載しています」(前出・柿谷氏)

TB−2は自治州上空に侵攻すると、戦車を中心とするアルメニア機甲軍に襲いかかった。さらに、無人機による弾薬庫の破壊も相まってアルメニア軍の劣勢はますます強まり、自治州ではアルメニア軍の敗走が始まったとの報道もある。

アゼル軍が投入した輸送機An-2の無人機型を、アルメニア軍の対空ミサイルS-300(写真)が撃墜する際の電波を別の無人機が感知し、特攻を仕掛けた

■無人機戦術の利点は「無人であること」

アゼル国防省は、この紛争で自国軍の無人機から撮影された映像を次々と公開している。とりわけ衝撃的なのは、アルメニア軍の戦車や装甲車が無残にやられていく映像だ。空対地ミサイルの餌食となり炎上する戦車、あるいは戦車や装甲車に特攻していくカミカゼ・ドローンからの映像......。

前出の柿谷氏は、戦車を中心とする陸上部隊に対する無人機攻撃の特性についてこう説明する。

「無人機は対戦車ヘリコプターと比べ小型で探知がしづらい。そのため、一般的にハッチがあり装甲が薄く戦車の弱点とされる直上から攻撃できる点が特に有利です。

例えばシリア内戦でも、シリア政府軍の戦車は無人機による通常爆弾攻撃で被害を受けています。また、特攻タイプのカミカゼ・ドローンは、いわばステルス性の高い"対戦車巡航ミサイル"の役割だといえるでしょう」

そしてもちろん、無人機戦術の最大の特徴は「無人である」という点だ。無人機に詳しい元航空自衛隊空将補の杉山政樹氏はこう語る。

「味方の兵士が死ぬリスクを冒さずに攻撃できるわけですから、安価で安全な軍事作戦であることは間違いありません。まともな空軍戦力がなくても、安上がりな無人機で航空優勢をつくれるとなると、その敵側からすれば従来のような戦車の戦い方がもうできなくなるというケースも大いに出てきます。

無人機の攻撃にいいようにやられてしまうような状況なら、戦車はいわば"走る棺桶(かんおけ)"です。火を噴く戦車の映像は、それを象徴していると思います。現在、米海兵隊が戦車部隊の撤廃を検討しているという話も、そういった点を考えてのことでしょう」

■自衛隊には防御策がない?

人的被害がなく、コスト面でも優秀な無人機戦術。大型・高性能・高価な無人機となればやはり今も最強なのは米軍だが、近年、この分野において"物量作戦"を準備しているのが中国だ。

「このアゼル軍の無人機戦を見て、頭に浮かんだのが中国です。中国は近年、台湾の対岸地域に無人機専用基地を造っていると聞きます。もし台湾有事となった場合、今の中国と台湾の空軍戦力の差に加え、無人機によるスウォーム攻撃(集団攻撃)が加わったら、圧倒的に中国側が優位になるでしょう。

また、日本にとっても対岸の火事ではありません。中国空軍が戦闘機などの大型有人機をどれだけ保有しているかはある程度判明していますが、無人機の機数はまったくの不明です。こちら側がせいぜい100機、200機だと考えているところに、500機、1000機と投入されたら、守り切ることは極めて難しくなります」(杉山氏)

もちろん、こうした事態に軍事大国がただ手をこまねいているわけではない。9月3日には、米空軍ネバダ基地で、移動式レーザー兵器による無人偵察機の撃墜テストに成功したとの報道もある。

元米陸軍大尉で、第82空挺師団時代には対戦車戦闘班に所属していた飯柴智亮(いいしば・ともあき)氏が言う。

「対無人機用の電子兵器開発は現在最もホットな分野で、妨害電波で無人機を無力化するシステムが各種開発されています。また、"戦車の敵は戦車"とよく言いますが、それと同じように"Anti−UAV UAV"、つまり無人機(UAV)を無力化するための無人機の開発もすでに始まっており、今後加速していくと自分は予測しています」

しかし一方で、世界最大の無人機開発・生産・運用国である中国の脅威に対し、日本の態勢は極めて不十分だと前出の柿谷氏は指摘する。

「世界各地の武器展示会で無人機の展示を見てきましたが、最近は電子戦型の進化が目覚ましい。ミサイルや爆弾を搭載するのではなく、部隊系の通信網を麻痺(まひ)させるための無人機が今後はどんどん登場してくるでしょう。

こうした動きがあるにもかかわらず、日本は対無人機戦の研究・対策に関して世界から著しく遅れていると感じます。その理由のひとつは、国内メーカーによる開発に固執し、外国製の新しい無人機とその防御装置をどんどん試しながら技術を更新していくという考え方がないからでしょう。現状では無人機に対する防御策もほとんどないといっていいと思います」

激変するトレンドから日本はすっかり取り残されてしまっているようだ......。

取材・文/小峯隆生 写真/時事通信社

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