党内対立、対中政策で"火種"を抱えるバイデン政権。それでも日米関係に「影響ナシ」の皮肉なワケ

「日米関係ってアメリカの対中政策の『変数』でしかない。単純に中国との関係が悪ければ日本とはいいっていうだけの話です」と語る渡瀬裕哉氏

過激なトランプ支持派による「連邦議会襲撃」という衝撃的な事件を経て、ようやく船出したバイデン新政権。大統領選に加え、議会上院でも民主党が勝利して始まった「トランプ後のアメリカ」はどうなるのか?

大統領選前の昨年9月に『2020年大統領選挙後の世界と日本』(すばる舎)を上梓(じょうし)し、共和党に深い人脈を持つ政治アナリストの渡瀬裕哉氏が、アメリカ政治の今後と日米関係の展望を語る。

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――年明け1月5日に行なわれたジョージア州の上院決選投票でも、当初の予想を覆して、民主党が勝利しました。

渡瀬 共和党の選挙キャンペーンがアホすぎました。ひと言で言えば「自殺」ですよ。

去年の大統領選後、トランプと共和党の一部は「ジョージア州の選挙でひどい不正があった」と訴え続け、ジョージア州の選管責任者をつるし上げた。

そうやって「ジョージア州の選挙はインチキだ」と訴えながら「皆さん、決選投票には行ってください」と言われても、誰が投票に行くんだって話です。負けるに決まってます(笑)。

――さらに衝撃的だったのが、その翌日、1月6日に起きた「連邦議会襲撃事件」です。

渡瀬 こちらも「自殺」ですね。この事件でトランプの政治生命は完全に終わりました。あれは紛れもなく「テロ」ですから。

トランプは選挙で負けた後も不正を訴えて陰謀論をあおり続け、その主張がすべてファクトチェックで否定されているのに、取り巻きの弁護士たちも一緒になって支持者の怒りに火をつけた。それを真に受けた、おかしな連中に「みんな連邦議会議事堂に集まれ!」って呼びかけたら、当然ああなりますよね。

たぶん、トランプはギリギリのところまで支持者をたきつけておいて、ああなる直前に止められると思っていたのでしょうが、炎が一気に燃え広がり止められなかった末の「自爆」です。

――狂信的なトランプ支持者という「可燃物」の取り扱いを誤って大爆発させちゃったと?

渡瀬 そうです。皆さん、連邦議事堂というのは日本の国会だと思っているかもしれませんが、天皇や王様のいない、民主主義が国家の中心であるアメリカ人にとって、連邦議事堂は国会であると同時に、皇居のような国家の象徴でもある。

だから、あれは「暴徒が国会兼皇居の中に押し入って警察官が死亡し、天皇陛下の椅子に座って記念撮影した」みたいな話で、アメリカ人はガチのテロ行為だと思っている。

――トランプはなぜ、そこまで支持者をたきつけたんでしょう。

渡瀬 今後に向けて、自分の政治的影響力を残すということを、お得意の「ディール(取引)」のつもりでやってたら、行きすぎて爆発したという話だと思います。爆発しなければ資金調達もできて、政治的な影響力を残すことができたでしょうが、あれですべてが終わりましたね。

――大統領、議会の上院、下院を民主党が押さえる「トリプルブルー」という造語を最初に使ったのは渡瀬さんだそうですが、バイデン政権下のアメリカは今後どうなるのでしょう?

渡瀬 民主党は中道派と左派に分かれていて、バイデンは中道派、バーニー・サンダースとかが左派なんですけど、基本的にバイデンは極端に左派的な政策はやりたくない。アメリカの融和を訴えつつ、共和党の中道派も巻き込みながら政権運営をやっていきたいと考えている。

一方、民主党の左派の人たちは、「オレたちが過半数を取ったんだから、左派の政策をガンガン進めよう」と思っている。バイデン政権の閣僚の多くは中道派が占めており、左派は不満を膨らませているはずです。

では、バイデンが左派に配慮せずに政権運営できるかといえばそれも難しい。だから大統領就任初日から、パリ協定復帰やWHO脱退撤回など大統領令を15個も出して、「左派に配慮している」というパフォーマンスをしているわけです。

ただその内容を見れば、トランプ政権の政策を元に戻しただけで、中道路線は変わらない。政権1年目はそこそこの政権運営ができると思いますが、次第に左派の不満がたまってきて、2年後は民主党内で中道派と左派の対立がヒートアップしてくる可能性は高いでしょうね。

――一方、惨敗した共和党は?

渡瀬 こっちは「全治4年」じゃないですか。実は昨年の連邦議会選の数字だけを見ると共和党はかなり強かったんです。だから2年後の中間選挙に勝って、4年後の大統領選も勝てる可能性はあったと思います。

ところがトランプの悪あがきと、先ほどの「自殺行為」の結果、共和党は連邦議会の中でも真っ二つに割れちゃって、本当の敵である民主党そっちのけで内部闘争や近親憎悪がすごいことになっている。この先、トランプ派はどんどん減り続け、以前の伝統的な共和党員が主導権を握っていくのだと思います。

――新政権の外交政策は?

渡瀬 外交や安全保障政策の基本的な方向性が「対中」というのはトランプ政権時代と変わりませんが、アメリカは自分たち一国で中国を抑え込むのは無理だとわかったので、日本、インド、オーストラリア、ヨーロッパ諸国なども巻き込み、いわゆる「国際協調」で中国に対抗するというのが、バイデン政権の外交の軸になると思います。

ただしヨーロッパ諸国を巻き込もうとすると、必然的にロシアや中東、トルコなどとの関係で、さまざまな火種が絡んでくることになる。今のアメリカにそのグチャグチャに対処する力があるかは大いに疑問です。

――日米関係への影響は?

渡瀬 こちらは変わらず強固ですよ。何しろ「対中」というアメリカの基本方針が同じなので変わりようがない。日米関係ってアメリカの対中政策の「変数」でしかないので、単純に中国との関係が悪ければ日本とはいいっていうだけの話です。

ところが日本って、キャバ嬢やホステスに「いつか結婚するって言ってくれたじゃないか、こんなに貢いだのに」と言いだすオヤジと同じで、「僕たち同盟関係で事実上結婚してるよね」と思い込んでいる人が多い。

アメリカって、今の中国、以前のソ連や日本のように「自分に挑戦してくる仮想敵国」をひとつ想定し、そいつを潰(つぶ)す手段に誰を利用できるかを常に考えている国なんです。それなのに、日米関係しか目に入らない日本の陰謀論にまみれた一部の保守派は本当にバカだなあと思いますね。

●渡瀬裕哉(わたせ・ゆうや)
パシフィック・アライアンス総研所長。国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員。1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。機関投資家・ヘッジファンド向けのアメリカ政治講師として活動。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。著書に『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『税金下げろ、規制をなくせ〜日本経済復活の処方箋〜』(光文社新書)など

■『2020年大統領選挙後の世界と日本 "トランプorバイデン"アメリカの選択』
(すばる舎 1600円+税)
共和党保守派と深いパイプを持ち、日本人が知らないアメリカ政治の実情を明らかにする著者が、コロナ禍でのアメリカ政治の動向、昨年大統領選を戦ったバイデン&トランプ両陣営の選挙戦略などについて徹底解説。昨年9月に刊行された著書だが、現在のトリプルブルー政権について「最も可能性が高い」と予測し、その後の民主党内の"きしみ"についても指摘

取材・文/川喜田 研 撮影/樋口 涼

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