亡き父と認知症の母に思いを込めて モンゴル歌謡で“生命の真実”を歌う

亡き父と認知症の母に思いを込めて モンゴル歌謡で“生命の真実”を歌う

10月19日に新曲、「JAMAAS 真実はふたつ」(日本コロムビア)をリリースする八代亜紀

 ジャズにハードロックにブルースに……。ジャンルを問わない音楽に挑戦し続ける八代亜紀が、今度はモンゴルの歌「JAMAAS(ジャマース)」の日本語カバー曲を歌う。
 
 同曲はモンゴル語で「真実」を意味し、1990年の民主化運動で活躍したドグミド・ソソルバラム氏の作詞によるもの。原曲が表現する「人生の真実・摂理」を一人の女性の生涯を描き日本語の歌として、生まれ変わった八代オリジナルの「JAMAAS 真実はふたつ」。キャリアを重ねた今、持てるもの全てを注ぎ込んだ渾身の一曲といえる。

 今、なぜ八代が、モンゴルの歌を? その理由は20年前にさかのぼる。当時のフレルバータル駐日モンゴル大使夫人が八代の大ファンでコンサートを訪れ、何度か「『モンゴルの大平原で『舟唄』を歌ってほしい」と切望していたが、実現に至らず。しかし、2012年にフレルバータル大使が再任を契機に、巡り巡って八代との再会を果たしたことで急に歯車が回り始める。今年7月末〜8月初旬にはモンゴルでの初のコンサートが行われ、同国文化大使にも任命された八代が、「JAMAAS 真実はふたつ」に込められたさまざま思いを語ってくれた。
 

 

―「JAMAAS 真実はふたつ」とはどんな歌ですか?

八代:ソソルバラムさんの歌う「JAMAAS」を聴いたとき、メロディーがとても日本的で歌謡曲、流行歌のような感じに思えました。覚えやすくてスーッと入ってきました。「JAMAAS」とは「真実」という意味なのですが、日本人にわかりやすいように直訳ではなく、「生きていくうえで真実はふたつあり、『生まれること』と『亡くなること』なんだよ」っていうように歌詞が作られていましてね。その詩がすごくステキで「命っていうのは、神様から借りている物、借り物だから、自殺しちゃいけない、殺し合ってはいけない。そういう“時期”が訪ねて来たら、その借りていた命を「ありがとう」って感謝して返そう、それが「JAMAAS」なんです。

―ものすごく哲学的な歌詞ですね。

八代:こういうメッセージを歌手生活46年の八代亜紀ですから、そろそろ歌ってもいいかな、って思って歌いました。ちょうどよい時期に出会えてよかったと思います。

―この歌を歌うとき、だれを思い浮かべますか?

八代:父と母を思い浮かべて歌います。父は亡くなり、母は今、少し認知症で、寝たきりです。昨日、会いましたよ。「あたしだよ、亜紀だよ、亜紀だよ、お母さんとお父さんの子供だよ」って言ったら、いつもならわからないはずなのに、「あー、無理せんば」って急に思い出したように言ってくれたんです。

 認知症になる前は「いつも仕事が忙しいから、体壊さないように、無理しないようにね」っていつも言ってくれていたんです。昨日は、そのことをふと思い出したのかもしれませんね。

 歌の途中に所属事務所社長の希望であんこ、浪曲「夢か現か幻か 諸行無常と言うけれど♪~」というのを入れてます。レコーディングのとき、楽譜に「浪曲風に、自由に」としか書かれていなくて、はじめはわからなくてどうしよう、と思っていたのですが、

 「いつもあなたがお父さんが歌ってくれた浪曲と言って、僕たちに歌ってくれていた歌、それを歌って」と言われて自由にレコーディングしました。そうしたら、みんな鳥肌立っちゃって。父はもう亡くなっているのですが、その年齢を私が追い越し、これから先もまだまだあると思わせてくれる。これこそ「JAMAAS」なんだな、と思いました。それだから浪曲を入れたいって思いが、私にもありました。

―初めてのモンゴルでのコンサートはいかがでしたか?

 7月31日に首都・ウランバートル市内のオペラハウスで「文化交流コンサート」をしました。この建物は終戦後に日本人抑留者たちが建てたもので、頑丈なつくりで外装も内装もすばらしいかったです。たくさんのお客さんが来てくれました。

 滞在中、ショッピングの時間を3時間くらいしか取れなかったんですが、街中を歩いていると、「コンサート、見に行きましたよ。すごくよかった」ってモンゴル語で声をかけられました。すごくうれしかったです。

 8月3日にはウランバートルから100キロくらい離れた13世紀村というチンギス・ハーンがいた時代の街並みを再現した場所があってそこで、コンサート、献歌をしました。大草原の真ん中で観客は誰もいません。岩の上のステージで歌い始めたら、どこからともなくメェメェメェ〜って羊や馬がいっぱい集まってきました。風と声と空と大地が一体化したコンサートでしたね。声の周波数、動物たちにも届いたのでしょうね。日が落ちて、最後に「舟唄」を歌い終わったら、帰っていきました。

―モンゴル国文化大使にも任命されました

 8月1日にモンゴル外務省任命式がありました。モンゴルの伝統的な音楽を日本の人たちに聞いてもらえる機会をつくりたいと思います。音楽性、技術ともにすごく高いんですよ。「ホーミー」って知ってますか? 喉の楽器です。喉の奥から音を出すんです。果てしなく広い草原で声が届くように、風に負けない発声法から音楽として発展していったものだと聞いています。大使として5年の任期がありますから、日本とモンゴル、音楽を通じた交流をしていければいいなと思います。

―「JAMAAS」をだれに届けたいですか?

 今、虐待とか育児放棄、いじめ、意味のわからない殺人とかすごく多いじゃないですか。そこで命はとってもすてきだよ、優しいよ、ということを理屈で教えるんじゃなくて、歌で伝えられたら、いいなと思います。ぜひとも「JAMAAS」を聴いていただいて、ご自分で感じ取ってほしいです。

■八代亜紀(やしろ・あき)■
熊本県八代市出身。 1971 年デビュー。 1973年に出世作「なみだ恋」を発売。「愛の終着駅」「舟唄」など、数々のヒット曲を出し、80年には「雨の慕情」で第22回日本レコード大賞を受賞。芸能生活40周年を迎えた2010年には、歌唱技術が認められて、文化庁長官表彰を受賞。以後、ジャズやハードロックなどジャンルを超えた歌に挑戦し、2015年にはブルースアルバム「哀歌ーaiutaー」を発売。2016年には哀歌ツアーを東京・大阪で行い、夏にはFUJI ROCK FESTIVAL等野外フェスにも参加。10月19日に「JAMAAS 真実はふたつ」(1204円+税、日本コロムビア)をリリースする。