『サバイバル・ウェディング』と波瑠自身のサバイバルを考察

『サバイバル・ウェディング』と波瑠自身のサバイバルを考察

時間は限られている?(番組公式HPより)

 作品への評価と役者の評価は必ずしも一致しない。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏がこのクールで感じたミスマッチの最たる例が波瑠、なのだという。

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 陶器のような白い肌に大きなアーモンドアイ。化粧っけを抑えた透明さ、ショートヘアの知的ビューティー…NHK連続テレビ小説『あさが来た』で国民的評判をとった波瑠は、私の中でそんな女優として立ち現れました。

 『あさが来た』のヒロイン・白岡あさは、幕末から大正の時代にかけて様々な困難に立ち向かいしなやかに実業を切り盛りした女性起業家。あさを演じた波瑠の立ち姿が実に清々しく、毎朝画面で会うのが楽しみでした。

 『あさが来た』は国民的な支持を得て、波瑠の評判もうなぎ登り。だから、後に民放ドラマで「ラブコメ」の主役をやる、しかも不倫劇と聞いた時は、ちょっと心配になりました。せっかく波瑠が獲得した、しなやかで強く清廉なイメージが崩れてしまいわないかと、まるで親類縁者にでもなったかのように気を揉んだのです。

 しかし、しばらくすると、それが杞憂だとわかりました。

『あなたのことはそれほど』(TBS)で波瑠が演じた主人公は、屈折や罪悪感を抱くことなく夫以外の男・元同級生に惹かれる妻。しかし単なるおバカさんではなかった。ある種の滑稽さや空虚さ、妙なリアリティを感じさせてくれた。全体を俯瞰するようなクールな距離感も。波瑠の新たな姿に出会った気がして、正直嬉しかったのです。

『あなたのことはそれほど』は、当初特にテーマが話題となり、視聴者からの拒否反応は大きいものがありました。「あまりにゲス」「感情移入できない」「波瑠はなぜこんな役を引き受けたのか」という批判も。こうした拒絶反応、今から思えば朝ドラの「あさ」像と大きくかけ離れていたがゆえ、のものだったでしょう。

 驚かされたのは、それに対して真っ正面から発せられた波瑠の言葉でした。

「面白いと言ってくださる方も、不倫劇を見ていて気分が悪くなる方もいらっしゃると思いますが、私達はただこのドラマを観てくださったことに感謝するだけです。こういう内容の作品ですからね。しょうもないとか馬鹿とか最低とか言われても、観て感想を抱いてもらうっていうことで私は報われるような気持ちです」。

 よほどバッシング的な意見が多かったのでしょう、こうした記述も本人のブログにありました。

「私は、自分が何か得をするためにこのお仕事をしてるつもりもないので、わかりやすい言葉で言うなら損の連続になったとしてもいいのです」「苦労が大きければ大きいほど何かを自分の中に残してやる〜って」「意味のない時間なんてないです」

 役者・波瑠の強い意志。毅然とした態度。本人自身「主人公に共感はできない」という役を思い切り、いわば役者として別の人格を味わい楽しみながら演じきった。一部の人に不快感を与えるほどの演技で。「自分」というものを確固として保持している波瑠に、他に類型がいない女優さんだな、と魅了されました。

『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』(関西テレビ)、『未解決の女 警視庁文書捜査官』(テレビ朝日)、『もみ消して冬』(日本テレビ)等、刑事や弁護士などの役柄も次々にこなし、一方『お母さん、娘をやめていいですか?』(NHK)では、毒親と娘の関係という緊張感に包まれたテーマに斬り込み好演。

 仕事が途切れない人気者となって、そしてこの夏。今放送中のドラマが『サバイバル・ウェディング』(日テレ系・土曜22:00)。波瑠は主役の黒木さやかを演じています。その内容は、しかし……。

 さやかは、勤めていた出版社を寿退社した日に婚約を破棄され恋人に逃げられてしまう。カリスマ編集長・宇佐美博人(伊勢谷友介)に、「半年以内に結婚」という条件を出され婚活体験を連載することで女性誌編集部に拾われる。

 編集長・宇佐美は常に上から目線で、さやかに言い放つ。「B級女」「一生独身決定」「お前の市場価値が相対的に低いからだ」。さやかは編集長の指示を受け「男に愛される女に」変わっていこうと奮闘。伝授された恋愛テクニックを追求し“愛されファッション”に身を固めて婚活に邁進……知的クールビューティー波瑠のイメージとはあまりにかけ離れた、自己肯定感の低い主人公。不条理に振り回され、しかしどこか仕方ないと受容しているようなさやか。現実ならセクハラ・パワハラと判定されそうな編集長と部下の関係。

 もちろん、波瑠は挑戦のつもりかもしれません。ブログに書いていたように、一つのドラマへの出演が「損の連続になったとしてもいいのです」「苦労が大きければ大きいほど何かを自分の中に残してやる〜って意地」と感じながら仕事をしているのかも。

 でもだからって、ここまでやる必要があるのかなと、ドタバタラブコメを見ていてふと辛い気分になってしまったのも事実です。事務所との関係や芸能界の駆け引きなど大人の事情は山ほどあれど、役者は時に、自分の意志によって踏みとどまることがあっていいのではないでしょうか。

 波瑠はこれから何をどのように選択していくべきなのか?女優として、本当の意味でサバイバルしていくためには?──などと『サバイバル・ウェディング』を見ながら、むしろ「波瑠自身のサバイバル」について真剣に考えてしまいました。基本的に骨太で自分を持っていて、不条理を突破し活き活きとした夢を見させてくれる役者さん。そんな波瑠の魅力を信じている一人として、ちょっと辛口のエールを送ります。

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