速見コーチの“暴力指導”は「世代間連鎖」によるもの?

速見コーチの“暴力指導”は「世代間連鎖」によるもの?

速見コーチ自身も暴力的指導を受けて育った

 臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になった著名人やトピックスをピックアップ。記者会見などでの表情や仕草から、その人物の深層心理を推察する「今週の顔」。今回は、パワハラが取り沙汰されている体操の速見佑斗コーチの記者会見に注目。

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 宮川紗江選手に対する暴力行為で、日本体操協会から無期限の登録抹消処分を受けた速見佑斗コーチが9月5日、謝罪会見を開いた。東京地方裁判所へ地位保全の仮処分を申し立てていたものの、それを取り下げ、処分を受け入れた上での会見だ。

 会見場に姿を現した速見コーチは、深々と頭を下げて席についた。フラッシュを浴びるその表情は硬く、背筋を伸ばして座りながらも、肩には力が入っているように見える。かなり緊張していたのだろう。冒頭、謝罪の言葉を述べながら息継ぎをする度に、その肩が大きく上下していた。

 宮川選手や体操関係者らに対して、謝罪の言葉を述べてから3度頭を下げた速見コーチ。「暴力行為はどういう理由であれ、決して許されることではない」と話し、今後、どんな小さな暴力であっても行わないと誓った。

 速見コーチ自身、現役時代に「そういった(暴力を交えた)指導を受けていた」とし、暴力は指導の一環かと問われた際には「そういう認識を持っていた」と真っ直ぐ前を向いて語った。自らの経験から体操競技の指導法を学び、それを自分の指導スタイルとしてきたことがわかる。そこには指導方法だけでなく、パワハラや体罰という「世代間連鎖」が起こっていたのだ。

 世代間連鎖とは、親から学んだことを、無意識のうちに自分も同様に行うようになること。中には、好ましいことも好ましくないことも含まれる。ある時、自分の子供や目下の人に対して、親と同じような怒り方をしていることに気付いて驚いた、なんてことがあれば、それは世代間連鎖だ。問題のある家庭なら、それは親から子供へ受け継がれ、同じような問題が繰り返されることになる。家族問題で使われることの多い心理学用語だが、指導者と選手という密接な関係ならば、やはり世代間連鎖も起こりやすい。

 体操競技は、ひとつ間違えば命に関わる大けがにつながる。速見コーチもそのように指導されてきたため、危険な場面ではそれだけ厳しく指導する、叩いてでもわからせるという認識があったという。宮川選手自身、会見で、暴力を受けた時の状況を「技の途中で力を抜いてしまうことなど、大けがや命に関わるような場面」と語っており、怒られても仕方がないと理解していたと話す。暴力が容認されるような危険な場面と強い信頼関係があったからこそ、パワハラとも体罰とも捉えられていなかったのだ。

 危険が伴う場面で指導者に感情をぶつけられると、指導される側は自分が熱心に指導されている、きちんと見てもらえているという感覚を抱くのではないだろうか。2012年に発覚した、大阪市立高校の部活動での、顧問による体罰がいい例だ。体罰を受け、全国大学体育連合が調査を実施したところ、体罰を振るわれた経験のある学生のうち6割が「体罰や暴力は必要」と考え、体罰経験のある学生の方が「将来はスポーツ指導者になりたい」と回答しているという結果が出ているのだ。

 速見コーチ自身も、自身が経験した暴力を交えた指導に対して、「教えてもらえたという感謝の気持ちがあった」と語った。そこにはポジティブな感情があったことがわかる。そのため、自らが受けてきた指導に対する疑問も、自らの指導法に対しての疑問も持つことはなかったのだ。また、世代間で連鎖する間に、社会環境も世間の認識も変化している。当時はそんなものかと思われていたことが、今は社会的に容認されないこともある。だが、どういう理由・時代であれ暴力は許されない。そこに気付くことが、世代間連鎖を断ち切る最初のステップである。

 今後、速見コーチが指導する際、選手らの気の緩みやミスによる危険をどうわからせるのか…? 経験は連鎖するだけに、注目が集まる。

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