昭和女性ポップス座談会・前編 半田健人が選んだ「先駆者的」名曲

昭和女性ポップス座談会・前編 半田健人が選んだ「先駆者的」名曲

左からさにーさん、田中稲さん(PC画面)、半田健人さん

 近年、海外の音楽ファンから注目されているのが、1970〜1980年代に日本の音楽シーンを席巻した「シティポップ」だ。中でも、竹内まりや『PLASTIC LOVE』(1984年)や松原みき『真夜中のドア〜stay with me』(1979年)といった女性アーティストによる楽曲の人気が高い。

 そこで、昭和ポップスをこよなく愛する、俳優・歌手の半田健人さん、昭和歌謡ライターの田中稲さん、ウェブサイト『昭和ポップスの世界』を運営するさにーさんに、「昭和女性ポップス・マイベスト10」をセレクトしてもらった。そのランキングを受けての座談会を開催。まずはそれぞれの6位から10位を紹介する。

■半田健人さんの「昭和女性ポップス」マイベスト10
1位:伊東ゆかり『グリーン・ジンジャー・フライング』(作詞:ジェリー伊藤、作曲・編曲:東海林修/1971年)
2位:弘田三枝子『マイ・メモリィ』(作詞・作曲:弘田三枝子、編曲:鈴木宏昌/1977年)
3位:いしだあゆみ『バイ・バイ・ジェット』(作詞:橋本淳、作曲:細野晴臣、編曲:萩田光雄、細野晴臣/1977年)
4位:和田アキ子『私夢を見るの』(作詞・作曲:石津善之、編曲:馬飼野俊一/1973年)
5位:あべ静江『長距離電話』(作詞:藤公之介、作曲:佐藤健、編曲:林哲司/1977年)
6位:小川知子『別れてよかった』(作詞 : なかにし礼、作曲・編曲 : 川口真/1972年)
6位:由紀さおり『ヴァリーエ』(作詞:山上路夫、作曲:S・リタルド、編曲:渋谷毅/1971年)
6位:麻生よう子『逃避行』(作詞:千家和也、作曲:都倉俊一、編曲:馬飼野俊一/1974年)
6位:岡崎友紀『グッドラック・アンド・グッドバイ』(作詞・作曲:荒井由実、編曲:萩田光雄/1976年)
6位:桑江知子『Mr.Cool』(作詞:佐藤奈々子、作曲・編曲:小林泉美/1980年)

【プロフィール】
半田健人さん/俳優・歌手。1984(昭和59)年生まれ。『仮面ライダー555』(テレビ朝日系)で初主演。2014年に『せんちめんたる』をCD&LP同時発売。2017年全曲自宅録音『HOMEMADE』リリース。作曲家、タレントとして活動。ラジオ『林哲司・半田健人 昭和音楽堂』(SBS静岡放送、日曜21時〜21時30分)に出演中。

■田中稲さんの「昭和女性ポップス」マイベスト10
1位:岡田奈々『青春の坂道』(作詞原案:中司愛子、作詞:松本隆、作曲:森田公一、編曲:瀬尾一三/1976年)
2位:和田アキ子『古い日記』(作詞:安井かずみ、作曲・編曲:馬飼野康二/1974年)
3位:五輪真弓『恋人よ』(作詞・作曲:五輪真弓、編曲:船山基紀/1980年)
4位:谷山浩子『まっくら森の歌』(作詞・作曲:谷山浩子、編曲:乾裕樹/1985年 NHK『みんなのうた』初出)
5位:大貫妙子『黒のクレール』(作詞・作曲:大貫妙子、編曲:坂本龍一/1981年)
6位:泰葉『フライディ・チャイナタウン』(作詞:荒木とよひさ、作曲:海老名泰葉、編曲:井上鑑/1981年)
7位:山口百恵『絶体絶命』(作詞:阿木燿子、作曲:宇崎竜童、編曲:萩田光雄/1978年)
8位:大場久美子『エトセトラ』(作詞:小林和子、作曲・編曲:萩田光雄/1978年)
9位:中島みゆき『ファイト!』(作詞・作曲:中島みゆき、編曲:井上堯之/1983年)
10位:高田みづえ『硝子坂』(作詞:島武実、作曲:宇崎竜童、編曲:馬飼野康二/1977年)

【プロフィール】
田中稲さん/昭和歌謡ライター。1969(昭和44)年生まれ。大阪を拠点に活動する昭和歌謡ライター。ほかにも、ドラマ、NHK紅白歌合戦、懐かしブームなども得意テーマとしている。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)など。CREA WEBにて『田中稲の勝手に再ブーム』、DANROにて『いつも心にぼっち曲』を連載中。

■さにーさんの「昭和女性ポップス」マイベスト10
1位:和田アキ子『あの鐘を鳴らすのはあなた』(作詞:阿久悠、作曲・編曲:森田公一/1972年)
2位:岩崎宏美『思秋期』(作詞:阿久悠、作曲・編曲:三木たかし/1977年)
3位:ペドロ&カプリシャス『ジョニィへの伝言』(作詞:阿久悠、作曲・編曲:都倉俊一/1973年)
4位:ちあきなおみ『夜へ急ぐ人』(作詞・作曲:友川かずき、編曲:宮川泰/1977年)
5位:しばたはつみ『マイ・ラグジュアリー・ナイト』(作詞:来生えつこ、作曲:来生たかお、編曲:林哲司/1977年)
6位:渡辺真知子『かもめが翔んだ日』(作詞:伊藤アキラ、作曲:渡辺真知子、編曲:船山基紀/1978年)
7位:大橋純子『サファリ・ナイト』(作詞:竜真知子、作曲・編曲:佐藤健/1978年)
8位:原田知世『天国にいちばん近い島』(作詞:康珍化、作曲:林哲司、編曲: 萩田光雄/1984年)
9位:河合奈保子『ラブレター』(作詞:竜真知子、作曲:馬飼野康二、編曲:若草恵/1981年)
10位:能瀬慶子『アテンション・プリーズ』(作詞:喜多條忠、作曲:浜田省吾、編曲:船山基紀/1979年)

【プロフィール】
さにーさん/1992(平成4)年生まれ。1970〜1980年代のヒット曲の情報サイト『あなたの知らない昭和ポップスの世界』を運営。昭和ポップスの魅力を伝えるため、ラジオやテレビにも出演。『らじるラボ』(NHKラジオ第1)で、『さにーのZOKKON!昭和ポップス』(毎月第2・第4金曜午前10時半〜11時)を担当。

──今回は赤い鳥『翼をください』が発売された「1971年以降の昭和女性ポップス」を条件に各自、ベスト10を選んでいただきました。まずはそこから……。

半田:その前に、ぼくに1970年に発売された作詞家・安井かずみさんの『ZUZU』というLPをぜひ紹介させてください! これが、ハイパーアルバムなんですよ、ぼくの中で。おふたりは聴いたことはありますか?

田中:いいえ。ただ、安井かずみさんは好きなのですごく興味あります!

半田:このLP、安井さん自身が作詞と歌唱を、作曲や編曲は、かまやつひろしさん、沢田研二さん、日野皓正さんなど、安井さんの友達12人が手掛けたものです。1曲目からボサノバ調で力が抜けていてしゃれた歌。はっきり言って、このLPは“ユーミンよりも早いユーミン”。これこそシティポップ、日本のポップスの礎というべき隠れた名盤だと思うのです。

──1970年にこんな隠れた名盤があったんですね。

半田:隠れた名盤といえば、あべ静江さんの『TARGET』(1976年)や、いしだあゆみさんの『アワー・コネクション』(1977年)は、歌謡畑の人がポップスに挑戦したLPです。

──昭和女性ポップスの世界は、シティポップ以外にもいろいろあって深いですね。早速、6〜10位を見ていきましょう。

半田:実は、今回はほかの人とかぶらぬよう「スタート地点は歌謡曲ながら、時代によってポップスにチャレンジした先駆者」という視点で選びました。そのため、6〜10位の5曲は同率6位です。

 まず、小川知子さんの『別れてよかった』(1972年)は、サウンド的にA&M音楽(※1)を志向した曲です。作曲・編曲の川口真さんは、ヨーロッパ系の要素を歌謡曲に取り入れた先駆者で、ウイスパー系で囁くように歌わせています。ジャンルレスと評価される金井克子さんの『他人の関係』(1973年)の下敷きになったのでは?と、ぼくは勝手に推察しています。

【※1/A&Mレコード」は、アメリカのトランペット奏者で音楽プロデューサー 、ハーブ・アルパートらが設立したレコードレーベル。深夜ラジオ『オールナイトニッポン』のオープニング曲のような、アメリカ音楽とメキシコ音楽を合わせたような曲調が特徴】

 由紀さおりさんの『ヴァリーエ』(1971年)では、すごくかわいらしい声が印象的。歌謡曲とは違う発声法をする点がさすがです。最近では斉藤和義さんの『歌うたいのバラッド』(1997年)もカバーしているほど、由紀さんはジャンルレスです。

 麻生よう子さんの『逃避行』(1974年)は作曲の都倉俊一さんの存在が大きい。和製カーペンターズというか……カーペンターズの『Close to you(遥かなる影)』(1970年)をどこか彷彿させます。

 桑江知子さんは好きな歌手の1人で、特に『Mr.Cool』(1980年)は本当にメロウ。いまのシティポップファンにも受け入れられるクオリティーです。

 岡崎友紀さんの『グッドラック・アンド・グッドバイ』(1976年)は、言わずと知れたユーミン提供のオリジナル曲。彼女の手にかかるとすべてがポップスになる。ユーミンの天性の音楽性も大きいですね。

田中:私の10位、高田みづえさんの『硝子坂』(1977年)は、よく行くバーの外国人客に大人気で、ジュークボックスでかかると、最高に盛り上がるそうで、とても興味深くて。

半田:何が外国人ウケするか、わからないからね。

田中:9位は中島みゆきさんの『ファイト!』(1983年)。この歌を聴いて号泣した人を近くで見たことがあって、そのとき、歌の力を見せつけられたのが選んだ理由です。

半田:暗い歌い始めからの盛り上がりがすごい。ただ、ポップスの印象からはいちばん遠いかもしれませんね。

──中島みゆきさんは、1975年に『時代』で「ポプコン」(※2)から出てきたので、ポップスと捉えていいと思います。

半田:そうか、ポピュラーソングコンテスト出身ですね。

【※2/「ポプコン」とは、『ヤマハポピュラーソングコンテスト』のことで、1969年から1986年まで行われた、ヤマハ音楽振興会主催のポピュラー音楽の作品コンテスト】

田中:8位が大場久美子さんの『エトセトラ』(1978年)。歌唱力はともかく声がかわいい! 「出る音程を使って、素材の素晴らしさをおいしく料理しましょ!」と、プロの作家たちが全力を出したらこうなるという曲。タイトルも、ちょっと舌っ足らずな感じがアイドルとの相性抜群ですね。

半田:マニアな視点ですね。

田中:7位が山口百恵ちゃんの『絶体絶命』(1978年)。“歌ってドラマなんだな〜”と思った曲。最初、女性のけんかから始まり、男性が来て、最後は主役が負ける(笑い)。

さにー:その3人のドラマを2分50秒しかない中で作れるのがすごいです。

田中:長男の三浦祐太朗さんに、男性を奪い取った方の女性のスピンオフ曲を歌ってほしいですね。

 6位の泰葉さんの『フライディ・チャイナタウン』(1981年)は、出だしのインパクトだけで絶対売れると思った名曲です。

半田:すごくいいイントロとアレンジで、井上鑑さんは、この年『ルビーの指環』も手がけていて、編曲者として脂が乗り切っていた時期ですね。

さにー:では、私の10位は、能瀬慶子さんの『アテンション・プリーズ』(1979年)。これは編曲がすごい。後ろで細かい音がたくさん鳴っていて、キラキラしているところが好きなんです。

半田:編曲家の中でも船山基紀さんは、物足りない歌に化粧させたら業界ナンバー1!

田中:今回知ったんですが、作曲が“浜省”なんですか?

半田:そう。浜田省吾さんって、自分が売れる前に楽曲提供が多かったですからね。

さにー:“アイドル最高峰曲”を入れたくて思いついたのが、9位の河合奈保子さんの『ラブレター』(1981年)です。曲調も歌詞も、どストレートにアイドルソング。これを歌のうまい奈保子さんが歌うと完成され、無敵のアイドルポップスになる。

 次の8位が、原田知世さんの『天国にいちばん近い島』(1984年)。これはカラオケで歌うと、サビで涙があふれる。好きな理由がいちばん説明しにくい曲です。

半田:ぼくも似た経験をしたことがあります。サビにきた途端、グッとくるんだよね〜。この曲はAメロがメジャーキーなんだけど、サビで転調してマイナーになる。

さにー:なるほど。7位は大橋純子さんの『サファリ・ナイト』(1978年)。大橋さんはどうしても入れたくて、曲で悩みました。都会に生きる男女の悲哀を歌った中でも、この曲は、最先端の都会をサファリとしたところがものすごいなと思って。そして、6位が渡辺真知子さんの『かもめが翔んだ日』(1978年)。

田中:いいよね、この曲。

さにー:この曲って、真知子さんじゃなければ成立しないかなと思って選びました。天性の明るい真知子さんの声に、潮風を感じ、海を感じるんですよね。なぜか。

田中:そう。まさに真知子さんならでは、ですよね。

取材・文/北武司 撮影/浅野剛

※女性セブン2021年5月20・28日号

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