ムロツヨシ『大恋愛』で拓く新境地 ヨン様を彷彿させる演技

『大恋愛〜僕を忘れる君と』(TBS系)ムロツヨシの演技評価 『冬のソナタ』に似た構造?

記事まとめ

  • 『大恋愛〜僕を忘れる君と』(TBS系)が見逃し配信の再生回数歴代最高を記録したそう
  • 「喜劇」イメージ一色のムロツヨシのシリアスな演技が光っているという評価も
  • ドラマの構造自体が『冬のソナタ』のような成功パターンを踏んでいるという分析も

ムロツヨシ『大恋愛』で拓く新境地 ヨン様を彷彿させる演技

ムロツヨシ『大恋愛』で拓く新境地 ヨン様を彷彿させる演技

今回はシリアスな演技が光るムロツヨシ

 恋愛ドラマが充実している今クール、ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が注目するのが金曜22時枠だ。実は同作品、“ヒットの法則”も見てとれるという。

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 秋ドラマの中で、どこまで化けるかわからない潜在的エネルギーを感じさせる作品が『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系金曜22時)。何と、見逃し配信の再生回数が「歴代最高」を記録した、というのですから。

 その物語はーー若年性アルツハイマーになった女医の尚・戸田恵梨香と、引っ越しのアルバイトをしている元小説家の真司・ムロツヨシ。偶然出会った2人は生活環境の違いを乗り越えて、大恋愛へ。

 医師との婚約を解消し、真司の部屋で同棲を始めた尚。この恋愛は成就したかに見えた。しかし記憶は次第に薄れていく。厳しい現実をどう直視し受け止め、それでも愛し続けるのか。愛しい相手にとって「本当の幸せ」とは何なのか。自分との関係を続けていくことは、「本当の幸せ」なのか? 2人は自問自答を繰り返し……。

「若年性アルツハイマーと恋愛」という物語の設定は、すでにどこかで見たようなパターンではあります。しかし、演じている役者2人がキラキラと輝いて新鮮で、物語の既視感を打ち破っていく勢いがある。その点こそ、ドラマの見所でしょう。

 とにかく、尚を演じる戸田恵梨香さんがノっている。みずみずしくて自然体でハマリ役の勢い。竹を割ったようなすっきりとした性格も、ピタリ戸田さんにあっています。背筋をまっすぐに伸ばし、いつも前を向いて走っていく。男になよなよと頼るようなタイプではない女。その「強さ」が、しかし病の影響で「弱さ」にからめとられていく過程が切なく浮かび上がってくる。

 中でも、尚と真司がじゃれあう子犬のように連続キスする場面は今後も語り継がれるであろう、名シーンと言ってもよいのではないでしょうか? 相手のことをものすごく「好き」だという感覚を、2人の役者が瞬間のうちに全身で表現していました。だからこそ、後日の「別れよう」という一言はあまりに衝撃的。真司が尚の将来をとことん考えた結果だとしても……。

 そう、尚の存在以上に魅力的なのが、ムロツヨシさん演じる真司です。ムロさんといえば、これまでは「おふざけ」「喜劇」のイメージ一色。ぼさぼさ頭、まん丸い目にほくろ。身長168 cm、ころっとした体つきもまたコメディアン向き。だから、「笑わせることが彼の持ち味」だと、多くの人は思わされて(錯覚させられて?)きたのです。

 しかし、実はそうではなかった。シリアスな演技がこれほど光るとは……。

 人間の厚みと複雑さ、哀しみ、ペーソスが滲み出す横顔。張り詰めた空気を柔らかくしてくれる人。受け止めてくれる男。そう、病の進行で不安にかられる尚にとって、暖かな体温を感じ、「ぎゅっと抱きしめたいテディベア」的存在です。

 真司はシリアスな役どころではあっても、クソ真面目ではなく、ふとふざけたりじゃれたりするから余計に暖かみがある。そのあたりをムロさんが絶妙に演じています。

 元小説家・間宮真司の人物設定は、「深い孤独と特殊な育ちからくる独特な感性で、自らの不幸を自ら救うように小説を書きはじめる」(番組公式ページ)。それが奇しくもムロさん自身の生い立ちとかぶる点も複雑な味わいを醸し出しています。

 幼い頃に両親が離婚し子供の時から養育者が次々に変わっていった、という複雑な生い立ちのムロさん。絶えず人を笑わせないといけないという感覚も、数奇なその人生から身についたのだとか。親戚等の家で暮らす子としては、「嫌われたら生きる場所がなくなってしまうという防衛本能だったんです。それに家庭内で不幸じゃないってことをアピールしなきゃいけなかった」とインタビューで振り返っています。

 もし、ふざけることが習性となっていたのだとすれば……これまでのコメディアン的振る舞いは、どこか過去にとらわれていた姿。しかし今回、おふざけに走らずブレーキを踏んだことによって、いよいよ「役者としてのムロツヨシ」が立ち現れたのかもしれません。真司役でムロさんは新境地を拓いた、と言えるのではないでしょうか?

 今回のドラマはその構造自体、成功パターンを踏んでいそうです。まっすぐに生きる女と、ふわりと優しく受け止める男──これって、中年女性が大好きな恋愛ドラマのパターンですから。『冬のソナタ』のヨン様を見ればわかるように。

 いよいよ後半へ突入した『大恋愛』。どこまで大化けするのか、目が離せません。

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