落語界の「一門」にも注目 印象に残る「三遊亭」の実力

落語界の「一門」にも注目 印象に残る「三遊亭」の実力

「三遊亭」の力を実感

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、噺家の一門「三遊亭」の、芸と噺の幅広さと実力についてお届けする。

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 毎日のように落語を観に行っているので、当然いろんな一門の噺家に出会うわけだが、1月22~29日の1週間で強く印象に残った高座には「三遊亭」の演者が多かった。

 上野鈴本演芸場の1月下席夜の部の主任は三遊亭歌奴。よく通る美声の持ち主で、押し出しのいい堂々とした高座態度が二ツ目の「歌彦」時代から好きだった。22日のトリで歌奴が演じたのは六代目横綱の出世譚『阿武松』。歌奴の十八番と言える演目だ。マクラで披露する大相撲の「呼び出し」「行司」「場内アナウンス」等の物真似も楽しい。

 25日には成城ホールの「三遊亭白鳥・桃月庵白酒ふたり会 Wホワイト」で久々に白鳥の『メルヘンもう半分』を聴けたのが嬉しかった。古典『もう半分』の居酒屋夫婦をムーミン谷から駆け落ちしてきたスナフキンとミー、八百屋の爺さんをムーミンに置き換えた噺だが、白鳥はラストに何重ものヒネリを加えて感動の結末に至る。自ら創作した物語の演者としての白鳥の「上手さ」を強く感じさせる名作だ。

 28日は練馬文化センター小ホールで「三遊亭歌武蔵・柳家喬太郎・三遊亭兼好三人会 落語教育委員会」。角界出身の歌武蔵ならではの漫談(通称「支度部屋外伝」)も最高だったが、そこからの『宗論』でのハジケかたが凄かった。歌武蔵の「フラ」を存分に味わえる爆笑編だ。

 休憩を挟んで高座に上がった兼好は『短命』。八五郎の明るいキャラに兼好独特のトボケた可笑しさが溢れ、五代目圓楽系の演出の楽しさを独自に進化させている。あれこれ要求された女房が怒るのではなく「案外面白いわね、この遊び」と楽しんじゃうのが兼好らしくて笑った。

 29日は深川江戸資料館で「三遊亭遊雀・三遊亭萬橘二人会」。萬橘はヘンな田舎者の芸者が出てくる演出が秀逸な『棒鱈』と物わかりの悪い旦那のバカバカしさが突き抜けている『洒落番頭』。何をやっても一筋縄ではいかない萬橘らしい2席だ。

 遊雀は昨年ネタ下ろしをしたという『淀五郎』が素晴らしかった。まず市川團蔵の「皮肉屋」っぷりが豪快でいい。五街道雲助や春風亭一朝の團蔵とは異なる人物造形が新鮮だ。中村仲蔵が淀五郎に具体的なテクニックを伝授するのではなく、「了見」だけを説くのは珍しい演出だが、遊雀の工夫だろう。見事な判官が出来上がったのを脇から見た團蔵が「ハッハッハ!」と大笑いして嬉し泣きしながら言う「俺の目に狂いはなかった……なぁ? そうだろ!」は良い台詞だ。仲蔵、團蔵、ともに淀五郎のことが大好きなのがよくわかる、爽快な『淀五郎』だった。

●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。

※週刊ポスト2019年3月15日号

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