朝ドラ『まんぷく』 正確な時計の代わりとなってくれたドラマ

朝ドラ『まんぷく』 正確な時計の代わりとなってくれたドラマ

『まんぷく』クランクアップを迎えた安藤サクラと長谷川博己

 誰もが結末を知る物語だけに難しさもあったのかもしれない。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が朝ドラを総括する。

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 半年の間、月曜〜土曜日に放送されてきたNHK連続テレビ小説『まんぷく』もいよいよ来週、その幕を閉じます。ちょっと寂しい。というのもこの朝ドラ、他の作品とは異質な、明らかに傑出した特徴があったから。それは、「抜群の安定感」「変化することのない一貫性」でしょう。

 インスタントラーメンを開発した安藤百福夫婦がモデル。頭の中が仕事で一杯の立花萬平(長谷川博己)と、その夫を支える妻・福子(安藤サクラ)の物語。福子は家庭内を切り盛りするだけでなく、仕事上でも夫を支えヒントを出したり新商品について重要な助言をする。ちょっと素人の思いつきのようにも見えるけれど、しかしアイディアはどんぴしゃ当たる。問題が解決され開発は進んでいく──というパターンが繰り返される安定ぶりでした。

 一方、母・鈴(松阪慶子)の決まり文句は「私は武士の娘です」。こちらも一貫性がありました。福子の姉・咲(内田有紀)は家族思いで、亡くなった後まで繰り返し画面に登場しあの世からアドバイスをするという、こちらもまた実に堅実なパターンを踏襲しました。そう、いずれのキャラクターもブレのない安定飛行を続け、ふと物語の進行を忘れてしまうほど、いつ見ても変わらない姿を維持してくれました。

 ささやかな変化の味付けといえば、若者たちの恋愛エピソード。噂話の舞台といえば、近所の喫茶店「パーラー白薔薇」がお定まり。他に類を見ない筋のわかりやすさ、揺らぎの少ない舞台設定。

 過去の朝ドラを振り返ってみれば……波瑠主演の『あさがきた』は幕末〜明治という変革期の中、大阪の両替商・加野屋に嫁いだ女性が主人公でした。しなやかで力強く生き抜こうとする女性経営者が、時に時代の波にもまれて波乱の人生にハラハラドキドキ。あるいは有村架純主演の『ひよっこ』は、高度成長期に田舎から上京してきた金の卵たちの行く末や失踪してしまったお父さんはいったいどこにいるの、とヤキモキしました。

 もし今回のドラマがこうした類いの過去作品のように未知の展開に突入したら……視聴者の目は画面に吸い寄せられ、洗いものの手は止まり、出勤の準備や仕事の準備に支障をきたし、朝の化粧も遅れたり手抜きになるはず。15分間テレビの前から離れられず、その分忙しい朝が益々忙しくなっていたはず。

 しかし今回はそうした想定外の展開もなく、着実にパターンを繰り返してくれたおかげで、視聴者も朝の準備をスムーズに進めることができたのでした。特に最後の数ヶ月間は、物語の行き着く先を誰もが知っていました。「まんぷくヌードルが開発され大ヒットする」という堅固な着地点を。

 だから忙しい時間帯、無駄にバタバタしなくて済んだのでした。そう、正確な時計の代わりとなってくれたのですから。

 加えて、今回の朝ドラは時代背景もさほど詳細が描かれないので、あれこれと時代考証に気をもむ必要はありません。あの時代の生活はこうだったとかトレンドの服や髪型について議論したり時代背景がおかしいとツッコミを入れる隙も、ありませんでした。

 まんぷくヌードルの開発シーンもどこかで見たような安定感。そう、テレビ番組の中に挿入される再現ドラマのテイストに似ています。商品開発秘話を紹介する時にしばしば挿入される小ドラマに。その特徴は、簡便なセットと小道具、研究室といえば白衣がお定まり。机を囲んで社員が議論をしている風。まさしく開発シーンは余計なお金をかけず予算枠を守ろうという安心感に満ちていました。

「インスタントラーメンの父である日清食品・安藤百福の奮闘と夫を支えた妻・仁子の物語」。一行で総括できるすっきりとしたドラマ。無駄な余韻を残さない潔さでした。

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