『テレ東音楽祭』高視聴率を実現した“正直路線”の丁寧な作り

『テレ東音楽祭』高視聴率を実現した“正直路線”の丁寧な作り

6回目となった『テレ東音楽祭』の評価は?(HPより)

 6月26日に放送された『テレ東音楽祭2019』(テレビ東京系)が視聴率9.7%(ビデオリサーチ調べ/関東地区。以下同)を記録し、今年6回目を迎えた特番で歴代最高の数字を叩き出した。辻希美と加護亜依のユニット『W(ダブルユー)』が13年ぶりに復活し、嵐やKing & Prince、森高千里などがメドレーを披露。歌手の個の力で興味を引き寄せたのは間違いないが、それに加え、製作陣が細やかな配慮で視聴者を飽きさせなかった点も大きい。

『テレ東音楽祭』の魅力は、情報量の多さにある。他局の音楽特番も最近は、映像の日付を記載し、当時のテロップを消さずに載せるようにしているが、『テレ東音楽祭』は以前からその2つを遂行し続けている。できる限り、あの頃のまま“正直に”オンエアしている。

 今回も、辻と加護のモーニング娘。のオーディション風景を振り返る『ASAYAN』のVTRを当時の川平慈英の〈ASAYANクッ〜〜〉というナレーションから始めた。わずか3秒の挿入だが、この配慮が視聴者に懐かしさを感じさせる。

 19歳の広末涼子の映像ではワイプで映る篠原ともえや後藤真希、矢口真里、保田圭もそのままオンエア。あの頃の情景を甦らせた。

 昨年に引き続き、酒井法子の歌唱シーンでは〈ナレーター 田代まさし〉の文字とともにマーシーの声が流れるVTRを使用。『夢冒険』などの歌詞は消さずに当時のまま使う一方で、〈ナレーター 田代まさし〉の文字は今回のために加えたと推察できる。

 なぜなら、過去映像と比べると、字のフォントや濃さが異なり、〈当時16歳〉という編集で加えた文字と同じように見えるからだ。このような細かい芸も視聴者を離さない要因だろう。

 酒井の場面では、〈1987年10月18日放送『歌え!アイドルどーむ』〉というテロップを見て、司会のTOKIO国分太一は「『歌え!アイドルどーむ』って、俺出たことあるなあ」と呟いた。情報が記憶を甦らせ、視聴者にもう1つの情報を与えたのだ。

 ナレーションでも、当時の空気を再現しようという正直な姿勢が窺えた。スタジオ歌唱の吉田栄作を紹介する際には〈織田裕二さん、加勢大周さんと並んでトレンディ俳優の平成御三家の1人〉と鷲見玲奈アナが読み上げた。芸能界を引退した加勢大周の名前をテレビで久しぶりに聞いたように感じる。

 他局に比べて過去映像が少ないデメリットは、工夫で補った。1980年代から1990年代に掛けてのヒットドラマを振り返るコーナーで、田原俊彦の『抱きしめてTONIGHT』(1989年1月22日放送『歌え!ヒット・ヒット』)が流れた。

 この映像は、直近1年のテレ東の音楽特番でおそらく3回目のオンエア(※1)である。私の調査によれば、田原俊彦のテレ東出演は1988年2本(※2)、1989年3本(※3)であり、きっと『抱きしめてTONIGHT』の映像はこの1本しかない。

【※1:他の2つは、2018年9月30日『3秒聴けば誰でもわかる名曲ベスト100』と2019年2月24日『平成ヒットソングス!〜次の年号に持っていきたい名曲SP〜』。※2:1月17日『歌え!アイドルどーむ』、12月25日『歌え!ヒット・ヒット』。※3:1月22日、29日、2月5日『歌え!ヒット・ヒット』】

 同じ映像の使用を避けられない分、同曲が主題歌のドラマ『教師びんびん物語』(フジテレビ系)の1シーンを挟み、マンネリにならないようにしたのだろう。

 番組では、KARAの元メンバーであるHARAが『ミスター』を披露している途中に衣装が下がってしまい、下着が露出してしまった。歌唱後、このアクシデントについてスルーせず、司会の国分がHARAにも話を振った。形式的な説明だけで終わってもおかしくない場面で、きちんと言及した。

 数々の細かな積み重ねが歴代最高視聴率を生んだのではないか。

 ただ、“正直さ”を通してきた番組の中で、1つ気になる点があった。新聞のテレビ欄で〈“嵐がテレ東初登場”22年前ジュニア時代の貴重映像は夜9時過ぎ〉と謳っていたが、貴重映像も嵐の出演も21時55分頃だった。21時35分、CMに入る前に〈このあと 嵐のスーパーメドレー!〉と振ったものの、登場は約20分後だった。

 せっかく、お宝映像やナレーションで“正直さ”を売りにしてきたのに、過度な引っ張りは視聴者をシラケさせたのではないか。

 番組の瞬間最高視聴率は午後9時9分、10分と2度記録した12.6%で、バブルガム・ブラザーズ『WON'T BE LONG』の歌唱時だったと報道されている。2人のパフォーマンスに魅せられての結果だと思うが、事前告知で嵐が〈夜9時過ぎ〉に登場すると読めるため、一定数の視聴者が「もうそろそろかな……」とこの時間帯にチャンネルを合わせた可能性も否定できないだろう。

 局の知名度や人気が上がれば、今までは出なかったタレントをブッキングできるようになり、高視聴率が期待される。裏を返せば、それは他局と似たような番組構成になる危険性を孕んでいる。『テレ東音楽祭』の“正直路線”は来年以降、どうなるか──。

●文/岡野誠:ライター・芸能研究家。研究分野は松木安太郎、生島ヒロシなど。著書『田原俊彦論 芸能界アイドル戦記1979-2018』(青弓社)の3刷が決定。同書では1982年、1988年の田原俊彦ほぼ全出演番組を内容や視聴率、テレビ欄の文言などと記載。巻末資料も充実している。

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