ヒット曲が続々映画化の背景 楽曲の浸透力と炎上避ける効果

ヒット曲が続々映画化の背景 楽曲の浸透力と炎上避ける効果

映画『糸』に主演する菅田将暉

 心に染み入る歌詞とやさしいメロディで知られる中島みゆきの名曲『糸』。これをモチーフにした映画が、菅田将暉と小松菜奈のダブル主演で来年公開されることが発表された。今年はすでに、中島美嘉『雪の華』、MONGOL800 『小さな恋のうた』、GReeeeN『愛唄』といった「曲」がモチーフとなった映画が公開されている。さらに7月5日には、峯田和伸のバンド「銀杏BOYZ」の楽曲からインスパイアされた『いちごの唄』が封切られる。ヒット曲が続々と映画化される背景とその魅力に迫った。

◇幅広い世代に訴求する「浸透力」
 
 中島みゆきの『糸』は1992年に作られた楽曲。 Mr.Children桜井和寿をはじめEXILE ATSUSHI、福山雅治、スキマスイッチ、山崎育三郎、天童よしみ、五木ひろしなど、一説によると120組のアーティストにカバーされていると言われている。

 モンパチの『小さな恋のうた』(2001年発表)も、JUJU、夏川りみ、新垣結衣といった総勢60組以上のアーティストがカバー。昨年11月に発表された「DAM平成カラオケランキング」では、男性アーティストの曲で堂々1位を獲得している。

 2003年に発売され、ウィンターバラードの名曲として知られる『雪の華』も、森山良子や徳永英明、森進一、さらにはアメリカのR&Bボーカル・グループBoyz U Men、韓国の歌手パク・ヒョシンなど国内外100組以上のアーティストによって歌い継がれていると伝わる。
 
 時代と国境を越え、人々の胸を打つ名曲の数々。その力強い訴求力とブランド力は映画のPRにとっても、この上ない武器となる。タイトルはもちろんのこと、CMスポットでその歌が流れるだけで、ストーリーの多くを語らずとも、我々に作品のイメージを伝えてくれる。その浸透力は、どんな映画評論家の賛辞よりも計り知れない。

◇炎上リスク軽減の効果?

 近年の映画作りは、漫画や小説、さらには実話といった「原作もの」が多いという印象がある。その点では「歌」をモチーフにした映画も同類なのかもしれないが、実際の本編では歌のメッセージを抽出しながらも、それに偏りすぎないオリジナルストーリーを構築している。『雪の華』も、歌としてはどこか物悲しいイメージが広がるが、映画の前半はむしろほのぼのした雰囲気が広がっている。

 また、原作が漫画やアニメだと登場人物のビジュアルが鮮明に立ち上がってしまうし、小説だとその行間から、読者がキャラクターを想像してしまう。結果として、作られた映画との「違い」をめぐって議論を呼ぶこともあるが、「名曲映画」は、歌の中の住人について深く考える機会は少ないだけに、ある意味フラットに楽しめる。そんな側面から見ても、映画製作の新たな活路を拓くことができのではないか。
  
◇映画からまた新たな音が生まれる
 
 「楽曲インスパイア系」映画の醍醐味は、スクリーンから新たな音楽が生み出されるところにある。

 人気音楽グループGReeeeNの誕生秘話を描いた『キセキ −あの日のソビト−』(2017年)。彼らを演じた菅田将暉、成田凌、横浜流星、杉野遥亮の4人は、その前身のバンド名「グリーンボーイズ」としてCDデビュー。映画公開に先駆け、『声』『道』『キセキ』の3曲をカバーしたCDをリリースしている。また『小さな恋のうた』でも、劇中で佐野勇斗らが結成した高校生バンドが、「小さな恋のうたバンド」としてライブハウスのステージに立ったている。
 
 ちなみに少し昔になるが、DREAMS COME TRUEの『未来予想図U』をモチーフにして作られた恋愛映画『未来予想図/ア・イ・シ・テ・ルのサイン』(2007年)では、吉田美和が逆に映画に着想を得て、新曲『ア・イ・シ・テ・ルのサイン〜わたしたちの未来予想図』を作り上げた。これは同映画の主題歌として採用されているが、彼女は当時のインタビューで、「『未来予想図U』の中に住んでいるあの2人はどうしているんだろう?と考える機会を与えてくれた」と話している。

◇過去の名曲映画との違い

 だが、こうした「名曲映画」は今まで作られていなかったわけではない。古くをさかのぼれば1949年には『悲しき口笛』、さらに1960年代は『上を向いて歩こう』(1961年)、『銀座の恋の物語』(1962年)、『高校三年生』(1963年)、『いつでも夢を』(1963年)といった、同名の歌謡曲を題材にした作品が続々と発表された。だがこれらにほぼ共通して言えるのが、歌手と映画の主役が同じということである。『悲しき口笛』も、もともとこれを歌っていた美空ひばりが主演を務め、『いつでも夢を』も、これをデュエットした橋幸夫、吉永小百合がメインアクトで登場している。
 
『高校三年生』の映画公開も、曲の発表と同年であり、主演も舟木一夫だ。このように、歌と映画を同時に盛り上げるメディアミックスが、かつての製作アプローチだったと言えよう。だが現在のスタイルは、歌がヒットしてから数年、あるいは数十年経ったあとに映画製作の構想が持ち込まれている。それはすなわち、モチーフになる歌が、その後も人々に愛され、歌い継がれている証拠ともいえよう。いつまでも色褪せない名曲たちは、まだまだ無尽蔵にある。次にスクリーンを彩るのは、どんな歌だろうか。(芸能ライター・飯山みつる)

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