林家きく麿 独特の「フラ」があればこそ成り立つ独特な世界

林家きく麿 独特の「フラ」があればこそ成り立つ独特な世界

林家きく麿には独特のフラがある(イラスト/三遊亭兼好)

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、爆笑新作落語で知られる林家きく麿が高座で高座に描き出すユニークな世界についてお届けする。

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 ヘンな人たちのヘンな日常を描く爆笑新作落語の林家きく麿。トボケた口調の高い声と全身から醸し出される脱力感が一体となった「ユルいのにエキセントリック」な高座は、ハマったらクセになる。

 二ツ目時代からマニアックな新作ファンに支持されてきたきく麿だが、真打9年目の今、ちょっとしたブレイクの兆しを見せている。数年前から「よってたかって」シリーズ等のホール落語に顔付けされる機会も増え、昨年12月には新宿末廣亭(上席夜の部)で初めてトリを務めるとこれが大好評。今年に入り、その勢いはさらに増している。

 そんなきく麿が5月18日に池袋の東京芸術劇場シアターウエストで「噺小屋in池袋 皐月の独り看板〈第一夜〉“林家きく麿”」という独演会を行なった。「独り看板」は落語プロモーター「いがぐみ」主催の独演会シリーズで、きく麿はこれが初登場。ちなみにこの2日後の「第二夜」は林家正蔵の独演会だ。ここに抜擢されたこと自体、今のきく麿の人気を物語っている。

 この日1席目は『スナック・ヒヤシンス2』。場末のスナックの高齢ママと古株ホステスが山田という常連客の悪口を言い合う『スナック・ヒヤシンス』の続編で、あの2人がサクランボ狩りツアーに参加してバスガイドに敵意を剥き出しにする。ヒステリックな女性たちのバカバカしい会話はきく麿の独壇場だ。

 2席目は、揚げ物が大好きで体重98キロにまで肥満した男が、彼女の勧めで揚げ物が嫌いになる催眠術を受けに行くが、「やっぱり揚げ物は嫌いになれない」と、代わりに「揚げ物を記憶から消す」催眠術を受ける『頭の中のカラアゲ』。その皮肉な成り行きも秀逸だが、独特な言語感覚によるきく麿ならではの「会話の可笑しさ」に引き込まれる。

 3席目は、温泉宿に泊ったサラリーマンの上司と部下が、わけありに見える仲居の「触れられたくない過去」を詮索すると、仲居が、ダメ男たちと過ごした波乱万丈の半生を浪曲調で語る『殴ったあと』。仲居が語るのは悲惨な身の上話なのに、繰り返される「♪殴らぁ〜れ〜たぁ〜」という節がやけに可笑しく、これを聴くたび条件反射的に笑ってしまう。そもそもこの仲居がなぜ浪曲調で語るのか、まったくもって意味不明(笑)。きく麿の独特のフラがあればこそ成り立つ噺で、他の誰が演ってもこうは笑えないだろう。

 きく麿が高座に描き出す世界は奇天烈と言えるほどユニークだが、決して「マニア受け」などではない。この独演会でそれを確信した。

●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。

※週刊ポスト2019年7月12日号

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