吉本興業に従わない狂犬・加藤浩次が貴重な芸人である理由

吉本興業に従わない狂犬・加藤浩次が貴重な芸人である理由

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 自身がメインMCをつとめる『スッキリ』(日本テレビ系)で、芸人の闇営業とそれに続く騒動を伝えたあと、所属する吉本興業経営陣への不満と不信を語気荒く語った加藤浩次。かつて、その傍若無人で反骨心まるだしの言動から「狂犬」と呼ばれた加藤も、朝の顔らしく落ち着いたと思われていただけに、世の中は大いに驚かされた。イラストレーターでコラムニストのヨシムラヒロム氏が、擬態しながら狂犬であり続ける加藤浩次について考えた。

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 吉本のお家騒動で目立つのが、加藤浩次の変わらぬ狂犬っぷり。自身がMCを務める朝の情報番組『スッキリ』では、身内にも関わらず忖度なき発言連発。視聴者からすれば、これほど楽しいテレビはないわけで……。

 振り返ってみると、闇営業のニュースが飛び込んできた当初から加藤は他の芸人と態度が違っていた。多くの芸人コメンテーターは、詐欺グループとの交流が問題視されているにも関わらず「素顔の宮迫さんはいい人」といったコメントに終始し、お茶を濁し続けた。持っている情報量は視聴者と段違い。それにも関わらず、出てくるのは視聴者でも言えるコメント。芸人コメンテーターが専門とする「吉本」の知見を披露する機会は少ない。対して加藤は浪花節に逃げることなく、吉本の企業体質について言及。意見の内容には賛否両論あるだろう。しかし、誰よりも早く他の芸人とは一味違うコメントを残していたのは事実だ。

 加藤が『スッキリ』のMCとなって13年経った。狂犬と呼ばれた男の牙が抜かれるには十分すぎる年月である。MCとはコメンテーター以上に安住したポジション。保身に走れば、オフホワイトな発言でやりすごすことも出来る。それこそ、狂犬が忠犬になってもおかしくない。しかし、加藤は年月を重ねるごとに独自のスタンスを強めていった。納得できないことがあれば、コメンテーターにも噛み付く。空気を読まない、暗黙の了解もしない。年々、朝のお茶の間に響く狂犬の咆哮は大きくなっていった。

 かつての人気番組『めちゃ2イケてるッ!』(フジテレビ系)で「狂犬」と呼ばれ始めた加藤。笑いのためなら、女性アイドルにプロレス技で大立ち回り。並大抵の芸人にはできない粗暴な振る舞いから命名された二つ名である。セットを壊すことも辞さない、やりすぎの果てに番組自体を壊してしまうことも。無断で自分がやりたいコントを撮影、ゲストと本気でケンカしたこともあった(流血する事態に)。私生活も荒れていたのだろう、加藤の借金を返すだけといった企画も……。

 そんな若き日の加藤、印象的だったのが常時ニヤケていた顔。大御所相手にもニヤニヤ、芸能界のしきたりを舐めきった態度をとっていた。海を渡ってやってきたNBAの狂犬デニス・ロッドマンにもニヤケ顔。舐めきった態度にロッドマンは通訳を通して「殴っていいか?」と加藤に尋ねたという。日米狂犬対決、「さすがにビビった」と加藤は語っていた。

 犬は主人に従順な生物だが、ふざけた狂犬は何にも従わない。加藤は所属する吉本クリエティブエージェンシーとの主従関係すら拒む。今回の騒動が起こる10年以上前、ラジオで「極楽とんぼ、吉本から推されたことなど一度たりともないですよ!」とすでに噛みついていた。狂犬の吉本に対する不信感は根深い。

 また、加藤は面白いことに狂犬と相反するインテリな素養も兼ね備えていた。仕事の変遷を追っていけば、『スッキリ』のMCが意外な抜擢ではないことがわかる。大人なタレントとなるためにコツコツと努力を重ねてきた。

 過激なバラエティ番組で知名度を上げた加藤は、自らの部活経験を生かし『スーパーサッカー』(TBS系)で初めて単独MCとなる。スポーツ番組で肩慣らしをした後、経済番組『がっちりマンデー!!』(TBS系)の MCも担当。加藤は経済の話題にも本気で取り組んでおり、草野球にほうける相方の山本圭壱に「お前が遊んでいる間、オレは飲み屋で普通のオッサンと株の話してるんだぞ!」と語っていた。 MCの技能、スポーツと経済の知識を得た加藤は満を持して『スッキリ』のMC席に着席。行き当たりばったりではなく、数年間に渡り準備をして掴んだ大役。加藤は自らが思い描いたロードマップを正確に歩み続けた。

 唯一の誤算が2006年に起きた相方・山本の不祥事だろう。番組がスタートして3ヶ月目の出来事だった。しかし、最悪の事態でこそ人の底が見える。事件後、初めての『スッキリ!!』(※当時の番組名)で加藤は山本の吉本解雇を涙ながらに報告。「相方として深くおわびします」と自らの言葉でハッキリと謝罪した。逃げも隠れもしない態度を視聴者は高評価。相方の不祥事を通して、加藤は良識ある大人のMCとして世間に認められていった。なんとも皮肉な事態ではあるが……。

 しかし、事件の裏側に狂犬あり。実は『スッキリ!!』でのコメント、当初は吉本陣営から内容への指示があった。それに対して加藤は「オレが好きなように話させてくれ!」と激怒したという。

 不祥事から10年、極楽とんぼは再始動。AbemaTVでレギュラー番組『KAKERU TV』(2017年4月〜2019年4月、AbemaTV)、その後継番組『極楽とんぼのタイムリミット』(AbemaTV)を担当している。そこで加藤は近年見せることがなかったニヤけた狂犬ぶりを披露する。報道に物申す硬派な狂犬とは異なった側面。極楽とんぼの笑いは、偶発的なハプニングから発生することが多い。そのため、加藤は山本をけしかけ続け、笑いの神様の降臨をひたすら待つ。狼狽する山本を横目に加藤はニヤニヤ。狂犬の反抗期は終わらない。

 今後も吉本興業をめぐる騒動は続くことだろう。節目、節目の加藤の態度に「日和ったか」「裏切り者」といったコメントも出るはず。しかし、理不尽な権力や圧力に吠えた狂犬の姿を忘れてはいけない。加藤は良い意味で自前の言葉に頼っている。生放送で物事を批評できる芸人は貴重だ。

●ヨシムラヒロム/1986年生まれ、東京出身。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。五反田のコワーキングスペースpaoで週一回開かれるイベント「微学校」の校長としても活動中。テレビっ子として育ち、ネットテレビっ子に成長した。著書に『美大生図鑑』(飛鳥新社)

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