美しすぎる木村文乃の「肉体派熱血刑事」 体当たり演技の見所

美しすぎる木村文乃の「肉体派熱血刑事」 体当たり演技の見所

番組公式HPより

 視聴者が持つイメージを良い方向に裏切る芝居ができるか。役者の技量が問われるところである。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

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 これまでの刑事ドラマの印象と、何かが違う。『サギデカ』(NHK総合土曜21時)のゾクリとくる不思議な魅力はどこから発しているのでしょうか? 主人公は……がむしゃらかつ綿密な捜査をする女性刑事・今宮夏蓮(木村文乃)。バイクを走らせ犯人をどこまでも追い詰める肉体派で情熱派。その今宮が「振り込め詐欺」グループの頂上に立つ黒幕へ、一歩ずつ迫っていくという物語。

 刑事ドラマの王道は、被害を受けた側に力点が置かれ、犯人を追い詰める刑事の視点で描かれていく。ところがこのドラマはそれだけに留まらない「複数の視点」があります。

 例えば、振り込め詐欺の「加害者側」の生い立ちに踏み込む。両親が不在という過酷な環境で育った苦労、「高齢者から金を取ることは富の再分配だ」という主張、そして犯罪を成功させた時の達成感まで描く。

 一方で、大金を取られた「被害者側」が家族にその甘さを責められる姿も。そして、犯人を追い詰める刑事自身も、暗い過去を背負っていそうです。

 つまり、単純に「正義と悪」といった二項対立ではなくそれぞれが問題を抱えていて、影を落としている。だからこそ、他人の弱さに共感もできるし人間の心理を理解できる。さすが『透明なゆりかご』『きのう何食べた?』の脚本担当・安達奈緒子さんのオリジナル作品だけに、単純化されない奥行き感があり、見応えがあります。さらに、特殊詐欺の現場取材を重ねてきた複数のスタッフが制作に協力しているため、非常にリアル。

 第1話では400万円を騙し取られた三島悦子(泉ピン子)が、息子にその甘さを責められ自殺未遂してしまう。大金をとられたことより、もしかしたら悲劇的ではないかとさえ感じます。しかしこうした後日談はニュース報道を見ているだけでは伝わってこないこと。

 第2話では認知症の元高校教師(伊東四朗)北村の演技に驚かされました。目の動き、足の運び方、背中の丸め方。怒る表情、叫ぶ姿。じっくり現実を観察した上での役作りであることが、ヒシヒシと伝わってくるのです。

「認知症」と言ってもすべての記憶をなくしてしまうケースは少なくて、自尊心もあり、記憶も部分的にはっきりしている。だからこそ本人は不安にかられ、自分が情けなくなり、自信を喪失してしまう。そんな時、「あなたがいてくれてよかった」と感謝されたら? 「自分は必要とされている」と思うといかに嬉しいか。

 詐欺師はそうした老人の心理を知り尽くし、巧みに心の隙間を突いてくる。ドラマの中では北村が偽の教え子に助けを求められ感謝されとうとう地面師詐欺の片棒を担がされてしまう。「自分が求められている」ことに心酔していく老人の姿に見入ってしまいました。

 犯罪をする側はどんな動機で、いかなる訓練を受け、完成度の高い「劇場型詐欺」をやりとげるのか。詐欺犯には詐欺犯なりの「理由」「工夫」「苦労」「達成感」がある。一方の被害者には被害者なりの「家族を思う気持ち」「親の愛」「孤独」「絶望」がある。そうした複数の要素が絡み合った結果の悲劇として「特殊詐欺」が生まれてくる、ということが、ドラマを通して見えてきます。

 昨今の特殊詐欺の内実はこうも時代性が反映されていて複雑なのか、と驚く人も多いはず。報道以上に、ドラマという形式が効果的に伝えることができるテーマかもしれません。

 と、リアリティに溢れる作品ですが一つだけ「ファンタジーな点」を挙げるとすれば、刑事・今宮夏蓮の存在でしょう。演じている木村文乃さんがあまりに美しく華奢すぎてバイクをころがす肉体派熱血刑事には、なかなか見えてこない。その分、思い切って体当たり演技をしていて気迫で刑事になりきろうとしている。違和感を乗り越えようという格闘は好印象です。それも含めてドラマの一つの見所とも言えるでしょう。

 今後の展開は老人相手の詐欺のみならずバイオベンチャー、仮想通貨、投資詐欺等々、さまざまな現代的要素が絡んできそうです。次々に発生する新たな事件を視聴者が立体的に学べて、犯罪予防の教育にさえなりうる新手のドラマ。現実の「複雑さ」は決してマイナスにはならず、プラスに作用するでしょう。

「スマホに目を向ける一回分を人に目を向ける行為に変えていきたい。そんな思いでこのドラマを演出しました」と演出担当・西谷真一氏は語っています。その言葉が印象的です。

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