桃月庵白酒と三遊亭兼好 後半も爆笑の『お化け長屋』

桃月庵白酒と三遊亭兼好 後半も爆笑の『お化け長屋』

桃月庵白酒と三遊亭兼好の『お化け長屋』の魅力は?

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、本来のサゲが通じにくいからと後半を演らないことが多い『お化け長屋』を、桃月庵白酒と三遊亭兼好が前半の可笑しさを後半にもつなげて爆笑させた様子についてお届けする。

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 夏になると幽霊やお化けにまつわる落語が高座によく掛かる。『お化け長屋』もそのひとつ。便利に使っている空き家に誰も越してこないように「幽霊が出る」という作り話をして、一人目は見事に撃退したものの、次に来た職人は「家賃は要らない」と聞いて大喜び、杢兵衛が語る怪談噺に動じることなく引っ越してきてしまう、という噺だ。

 この噺、大家に無断で「家賃は要らない」と言ってしまった杢兵衛が、引っ越してきた職人を追い出そうと長屋の連中の力を借りて作り話を再現するのが後半の展開。幽霊だけでなく大入道も出そうと、按摩が上半身、別の男が下半身役で布団に寝るが、職人が親分を連れ帰ったので下半身だけ逃げてしまう。

「按摩を残して帰るとは尻腰のねぇやつだ」「へぇ、腰は先に逃げてしまいました」……これが本来のサゲだが、通じにくいうえに面白くないので、あえて後半まで演らず、杢兵衛を職人が翻弄する可笑しさを描いて「あいつ財布持ってっちゃった」でサゲてしまう演者が大半だ。

 だがこの夏、前半のテンションをそのまま保って後半でも爆笑させる素敵な『お化け長屋』に2回出会った。桃月庵白酒と三遊亭兼好だ。

 白酒の後半は、首謀者二人に協力できるのが与太郎とおタネ婆さんだけで、「障子に髪がサラサラサラ」を誤解した与太郎が皿を投げまくり、幽霊役の婆さんが緑の黒髪の代わりに岩海苔を付けて「開けとくれ〜」と叫ぶ。驚いて逃げた職人を見て婆さんが「尻腰のない人だね」と言うと杢兵衛が「え、引っ越さない? また失敗だ」でサゲ。元の「尻腰」を残してるのが白酒らしい。

 兼好は「雨がシトシト」「髪がサラサラ」の担当が道具を忘れて「シトシトシト」「サラサラサラ」と口で言う。鐘や鉦は鳴りまくり、襖は忙しく開いたり閉まったり。そして汚い婆さんがブラ下がってるという異常事態。職人が逃げ出していくと「何の騒ぎだ」と大家が現われ、慌てて撤収……この後とんでもないオチが待っているのだが、ネタバレになるので書かずにおこう。

 白酒も兼好も後半の幽霊騒ぎを完全なドタバタにして、その「ワケのわからなさ」が却って怖いという演出。第三者である観客は爆笑するが、確かに当事者は怖いだろう。

 ちなみに立川談志もサゲを変えて後半を演じた。幽霊騒ぎで逃げ出した職人が大家のところに駆け込むと「誰だお前は?」と言われ、「家賃がタダだって聞いて越してきたんだ」と答えるので、大家が「家賃がタダ? なら俺が住んでやる」でサゲ。山本益博氏のアイディアだという。

●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。

※週刊ポスト2019年9月20・27日号

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