俳優・岡本信人 「カメレオンみたいに周りに合わせちゃう」

俳優・岡本信人 「カメレオンみたいに周りに合わせちゃう」

岡本信人の俳優哲学とは

 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優の岡本信人が、数々のホームドラマで身近な存在であり続けた芝居について語った言葉についてお届けする。

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 岡本信人は一九六八年に始まるテレビドラマ『肝っ玉かあさん』(TBS)で物語の舞台となる蕎麦屋の出前持ち役を演じ、それ以降も『ありがとう』『渡る世間は鬼ばかり』などのTBSホームドラマに出演、視聴者にとって身近な存在であり続ける。

「『肝っ玉かあさん』『ありがとう』は視聴率がよかったものですから、道を歩いていても『おい元気?』『頑張れよ』と気軽に声を掛けてくる人がいましたね。『おい、蕎麦屋』なんて言われて『はい』と思わず返してしまったこともありました。

 役づくりの上で身近さを意識したことはないですが、そういうのがあると成功したかな、という気はしています。

 出前持ち役の時、僕は本当に出前持ちになっていました。演じているという意識ではなく、格好良く言うと『役を生きてる』みたいな。そんな感じですね。

 こういう奴がいるだろうなっていうのが自分の中にあるんだろうと思います。大衆の中に紛れ込んでいる自分がいつもいるので、カメレオンみたいに周りの色にすっと合わせちゃうことをどこかでしているんでしょう。

 ですから、周りの中で自分だけ目立つことはしません。ドラマの流れの中でちゃんと一つのピースになっていないと。ジグソーパズルでいうと、赤の中にいきなり黄色のピースが入っちゃいかんよ、と。そういう周りを読む、ということを知らず知らずのうちにやっていたのかもしれません」

 多くの名優がホームドラマでの日常的な演技に苦戦してきたが、岡本はそれを飄々と超えてきた。どのような秘訣があるのだろうか──。

「もしかすると、ホームドラマって『演じる』ということを意識したら実は一番難しいかもしれません。だって、時代劇とかは全く別の姿に扮しているので、ある程度の形になるわけですが、日常だとそうはいきませんから。

 お芝居をすると、くさくなってしまうところがあります。あまり意識するといけない、みたいな。僕なんかは元から意識していないので、もし気づいていたら怖かったかもしれません。

 僕は演技プランを自分で意識したことはないんですよ。ホンを読みまして、その中で自分が感じたことをそのまま大事にしてイメージをする──というやり方でして。ですから、動物的な勘といいますか、感じたままやってきたんですよね。ホンを読んで衣装を着て、メイクをしたら、僕はもうそのつもりになっているんです。

 芝居をするんじゃなくて、その気持ちになる──というのが僕がずっとやってきたことだと思います。ですから、自分自身と正反対のキャラクターの役をやる時は苦労しますよ。

 尊敬する緒形拳さんは、その役を自分に引き込んで何でも自分のものにしてしまう。僕にはそれができないんです。

 お芝居の世界には『これが正解』はないと思うんです。平均点も、何点を取らなきゃ、というのもありません。みんな同じではない。僕も僕なり、というのがある。それだから生きてこられたんじゃないですかね」

●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中

■撮影/五十嵐美弥

※週刊ポスト2019年10月11日号

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