笑福亭鶴瓶が上岡龍太郎と松嶋菜々子から受けた影響

笑福亭鶴瓶が上岡龍太郎と松嶋菜々子から受けた影響

俳優としても活躍する笑福亭鶴瓶

 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。現在公開中の映画『後妻業の女』にも出演中の笑福亭鶴瓶の言葉から、落語と映画・ドラマ、バラエティ番組とあわせて三足の草鞋を履く意味をお届けする。

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 笑福亭鶴瓶は2002年から落語に本格的に乗り出す。それに呼応するかのように役者としての映画・ドラマの出演も増え、バラエティ番組と併せて「三足の草鞋」状態になっている。

「芝居が先で落語をやりましたから、芝居の形で落語をやっています。例えばこの前、『レッドクロス』というドラマに出たんですが、松嶋菜々子さんが泣く場面で何べんでも泣けるんですよ。『どうやったらそない毎回泣けるの』って聞いたら『鼻にツーンと来るポイントを変えてる』と。『一つのセリフで同じポイントでは何度も泣けないから、そのセリフで泣けるポイントを変えるんです』って言われたんです。

 その時、一つの言葉にもいくつも違う涙のポイントがあると教えてもらいました。

 あの頃、僕は落語で人情噺をやっていまして、それを参考にしました。普通の噺家は途中から新しい解釈を付け加えるということはなかなかできません。ちゃんと出来上がったら、それを練り上げていくわけです。でも、僕は途中からなんぼでも変えられる。新しく後で付け加えたりもできる。そうやって菜々子さんが言うてくれはったことから盗めることもあるんですよね。

 だから、二足も三足も草鞋を履くって凄く大事だなと思います。昔は『落語家がそんなにテレビに出て』とか言われてましたが、(古今亭)志ん朝師匠はバラエティをやり芝居をやり、それでずっと落語もやってきました。その志ん朝師匠の落語が物凄くいいんですよ。あの人が一番やと思ってますから、目指すところでもあります」

 近年の鶴瓶は『ディア・ドクター』といった主演作から、吉永小百合ら大女優たちの相手役まで、幅広い立ち位置で活躍する。

「自分が個人で芯を張ってやる時に心がけるのは、役を自分に持ってこようということです。その役柄の人物を自分の中に入れたろうと思うんですよ。

 ただ、脇に回る時は、その役柄に入っていくっていう方が楽じゃないかと思います。役を自分に持ってくるのは、芯をやる役者のやり方ですよね。役の中に入っていくと、脇にも回れるんですよ。

 台本を読む時は、全体を一回は読みます。自分のとこは読むけど、ちゃんとは覚えないで大体の流れを入れます。あんまりガチガチと、『ここではこうやろう』というのはないんですよね。それで現場で本チャンに入ってからキューっと締めます。最初はパッと見てその状況をつかむくらいでいいんです。だから、僕の台本はめっちゃ綺麗ですよ。

 そこもバラエティと同じやり方ですね。一緒に番組をやってきた上岡龍太郎さんは『あんたは凄い隙だらけや。こっちが剣道で面を打ち込んだら、あんたはそのまま面を打たすんやけど、効いてるかどうか分からへん』って言うんやけど、まあそうでしょうね。

 それでも、毎回やり方は変えています。真面目な相手もいますから。この人は、こちらが一字一句でも間違うて言うたらアタフタしはるなと思ったら、その時はきっちりと覚えていきます」

●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。

◆撮影/藤岡雅樹

※週刊ポスト2016年9月16・23日号

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