『令和元年版怪談牡丹灯籠』 噛まれたいファンが続出のワケ

『令和元年版怪談牡丹灯籠』 噛まれたいファンが続出のワケ

番組公式HPより

 既成概念を打ち破る作品に出会った時の衝撃は、おのずと視聴者を興奮へと誘う。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析する。

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 おどろおどろしくて怖い。陰翳があまりに美しい。映像のクオリティの高さにうならされるドラマ『令和元年版怪談牡丹燈籠 Beauty & Fear』(NHKBSプレミアム 日曜午後10時)。江戸時代の有名な怪談話と、その背後にある人間関係の愛憎、因果応報を描き出しています。泥沼に咲いた妖花のような、不気味な世界が広がっています。

 新進気鋭の若手役者・上白石萌音さんは、源孝志監督から「獣になってくれ」と指示されたという。「相手が好きすぎて焦がれ死ぬ」という娘役・お露をどう演じるのか。

 上白石さん演じるお露は、浪人・新三郎(中村七之助)と出会い、許されぬ身分違いの恋に焦がれて死んでしまう。そしてカラン、コロ〜ンと下駄の音を響かせ、愛しい男の元へ通ってくるお露の幽霊。

 しかし。ある時家の扉に貼られた魔除けの護符に阻まれ、男に拒絶されたことを知り、怒りをむき出しに。愛らしいあの目をひん剥いて、狂いながら宙を舞う怪物に豹変する。「ウォー」と声を荒げたその瞬間、お露には牙が生えている。

 見ているこちらも思わず、ぞくっ。

「上白石萌音のイメージが崩壊すると思う」と監督も最高評価で太鼓判を押したそうです。そう、「あの牙に噛まれたい」というオッサンのファンも続出しているとか。

 時代は江戸・寛保三年、本格的な時代劇です。電灯がなかった頃の暗闇が随所に潜んでいて、ドラマで重要な要素になっています。ワイヤーアクションや特殊メイクといった現代的仕掛けも闇の世界に上手に挿入され、エッジを効かせています。

 しかし、あくまでメインは「人間」の怖さ。カラクリではなく人が抱く欲望のグロテスクさです。その怖さといえば、第1話の冒頭のシーンも凄まじいものがありました。

「人を斬りたい」という欲望にとりつかれ、「斬ってみたい」という欲に駆られて、浪人に刀を振り下ろしてしまう旗本・飯島平太郎(高嶋政宏)。テラテラと光る血液。その粘性。ゆっくり土に染み込んでいく様子。刀のふりの重たさと、鈍く光る金属。空気を斬る音。

「肉体を、刀で斬る」ということがどういうことなのか。手触りや肌合いまでが映像から伝わってくる。だから怖い。そして、役者の迫力もすごい。

 何かにとりつかたような平太郎の白目が光っている。うすら笑いをしているようにさえ見える。クビから下に返り血を浴びたまま歩いていくその姿に、人の闇を見ました。

 これまでドラマで見た殺陣シーンの中で一、二を争う恐怖を感じたと言っても言いすぎではありません。?

 時は流れ、平太郎は家督を継ぎ飯島平左衛門に。すると侍女・お国(尾野真千子)が、平左衛門の妻の座を乗っ取り、次第に権力を掌握していく。

 その過程も不気味です。色っぽくて性格の悪い女をやらせたら、尾野さんの右に出る人はいない。間男・源次郎を演じる柄本佑さんも、悪人ゆえの姑息さが出ていて、いい。若頭役・黒川孝助(若葉竜也)の身についた時代劇の小走りぶりも、いい。

 緊張の漲った静謐な画面がいくつも重層的にあわさっているドラマです。色調は敢えて彩度を落とし、モノクロによる時代性とカラーによるリアリテイの中間を狙い、そこに江戸時代を浮かび上がらせている。そして琵琶の弦の「ぼろろん」という音が響き亘ると、切なさも迫ってくる。語りの神田松之丞の声もいい。

 拙速でなくゆったり、まったりと、恐怖をかき立てていく物語。入り組んだ人間の綾、その一つ一つに、ヒリヒリとした緊張があります。こうなったら源監督にはぜひ、時代劇「三大怪談」の全ドラマ化を期待したいもの。令和版『四谷怪談』と『番町皿屋敷』も、素晴らしい配役で見てみたい。画面の前で再び闇の気配に震え身を縮めてみたいと、心底感じさせてくれました。

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