安藤サクラ 『ママゴト』でのやさぐれ母親役でさらに光る

安藤サクラ 『ママゴト』でのやさぐれ母親役でさらに光る

安藤サクラの演技が光る『ママゴト』

 女性の生き方が多様化したことでドラマの描き方も変化しつつある。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

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『ノンママ白書』(フジ系土曜午後23:40)と、『ママゴト』(NHKBS プレミアム火曜午後11:15)。今、「ママ=母」がキーワードになった2つのドラマが放送されています。「ママ」という共通項はあっても、その中身はまったく正反対。対照的と言いたくなるほどの違いがある。そこが実に面白い。

 まず、フジの『ノンママ白書』。働くアラフィフ、子なし女たちの姿を描くドラマ。「ノンママ」とは、さまざまな事情で子どものいない人生を選んだ女性のことらしい。

 主人公は中堅広告代理店に勤める土井玲子(鈴木保奈美)。その友達・大野(菊池桃子)と葉山(渡辺真起子)、3人のおしゃべりが中心となって進んでいきます。ドラマはのっけから「閉経」の話題に。かつてトレンディドラマの象徴だった鈴木保奈美さんが、自らの閉経についてあけすけに語る。「生理」ネタは、私たち女にとっては日常でもオジサンにとっては「衝撃」。しかも閉経ときた。

「斬新なドラマ」を狙った戦略なのでしょう。友人役の菊池桃子がどこか得意げに「老眼」について話すシーンもしかり。

「老化」「婚活」「年金」「熟年離婚」「孤独死」……アラフィフ女の現実を直に表現する言葉がセリフのあちこちに散りばめられた3人の女子トークがお定まり。毎回、固定カメラで延々と続く。そこが見所と制作陣はふんでいるのでしょう。

 けれど、ドラマとしてはあまりに退屈、クダクダと説明的。役者の基本。それは相手の言葉に反応して、セリフを語ること。しかし、鈴木さん、菊池さん、渡辺さん3人ともに基本を度外視。

 自分が覚えたセリフを、言おう言おうという意識が丸見え。だから、やりとりのライブ感、リアル感が消えてしまう。つまり、自然な会話に見えないのです。これは「ドラマ」じゃなくて、「説明」です。

 とはいえ、『ノンママ白書』はそれなりに注目され人々の関心を惹きつけて共感も得ているもよう。では、視聴者はいったい何に反応しているのでしょうか?

「子供のいない中年女の悩み」「仕事と女の両立」「独身で将来どうやって生きていけばいいのか」。そうした「テーマ性」に関心を抱き、自分にひきつけて考えようとしている視聴者が多くいるのでは? つまり「中年女の生く末」というテーマ性は今後も扱う価値のある、インパクトと深みのある素材。でも、ドラマとしての出来ばえは、首をかしげたくなるところ。

 では、もう一つのママドラマ『ママゴト』は?

 まったく逆です。人間の生き様が、説明を超えて行間にじわりと滲じみ出てくるから。

 物語の舞台は、福山弁が飛び交う中国地方の、場末のスナック。主人公は飲んだくれママ・映子(安藤サクラ)と、借金取りに追われて友達が置き去りにした5歳の男児・タイジ(小山春朋)。

 映子はノンママどころか、やさぐれのヘビースモーカー。ハスっぱで人生を半分投げている。その映子になついていく5歳児タイジ。二人の間に、少しずつ血が通いはじめる。タイジの顔、ふとした言葉、自分に対する行動に反応して、映子の中に無かったはずの温かな「母のようなもの」が芽生えていく。そのプロセスが手に取るように伝わってくる。

 演出は映画『リング』『仄暗い水の底から』などで知られている中田秀夫監督。映画人らしく、架空の中国地方のスナックの空気感を、いきいきと描き出しています。「じゃし」「じゃけえ」と登場人物たちが語る方言も、地方の町の雰囲気を色濃くたちのぼらせている。そして原作は漫画家・松田洋子の『ママゴト』。深い内容を持つ作品世界。と、基本的な器がまずはしっかりとできている。

 そして、何よりも映子を演じる安藤サクラがいい。春のドラマ『ゆとりですがなにか』の宮下茜役もハマっていたけれど、今回の演技はそれをしのぐ光り方。なぜなら、役柄が「母」だから。「母」は、安藤サクラにとって、これまでになくハードルが高いはずだから。

 人の優しさ、温かさ、包容力といったものは、下手すると重たく、くどくなる。あるいは、紋切り型になりがち。相手との関係の中で、ごくごく自然に「滲み出てくる優しさ」でなければ、クサい演技になってしまうはず。

 安藤サクラが自然に「母になっていく」。人の優しさがチラリチラリとのぞく。中年女と子供、赤の他人同士が、本当の「母と子」のように見えてくる。そこにドラマツルギーがあるのです。

 ということで、2つのママドラマ、軍配はこちらの「ママ」に上がったのではないでしょうか。

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